パシュンッ
何かが顔を真横を通り過ぎる音がした。
俺はさぁあっと肝が冷えるような気分になる。
「たたたたたたたたた、玉章っ!?ぉぉおおお、俺何かした!?ぃ、いきなり刃物を投げつけてくるなんてっ!!!!」
壁に刺さっている古い日本刀。
ところどころ刃こぼれしているソレは、怪しく光り・・・
「いいや?お前は何もしていない」
「そ、そうか」
「何もしてないからいけないんだ」
「え!?」
じっと俺を見つめてくる玉章の目はマジだ。
玉章と大将としているこの組織に属している俺だが、あまり功績は遺せていない。
一応幹部なんだけどなぁ・・・
「いらないものは切り捨てる。基本だろう?」
「まさか物理的に斬り捨てられそうになるなんて、予想外だ!!!!」
壁に刺さったままの刀をちらっと見て、出来るだけ玉章の手に渡らないように考える。
「ただ斬り捨てるのもなんだから、魔王の小槌の一部にしてやろうと思ってね・・・」
「こ、怖いぞ玉章!ぉ、俺はっ、これから功績を残す!や、約束する!」
「その言葉、確かこの間も聞いたな」
「わぁぁぁぁあッ!玉章の目がどんどん据わってきてる・・・!!!」
やばい。
このままじゃ確実に殺される。
「名前。何故お前はそこまで使えないのか、本当に不思議だ」
「俺は何故お前が嬉々として俺を斬ろうとしてるのか、それが不思議だ!」
魔王の小槌は未だ壁に刺さったままだ。
このまま何とか逃げき――
「わぁぁぁああお!?」
「・・・チッ」
俺は玉章が俺の肩に触れようとしているのを見て、慌ててソレを避けた。
っぶねぇッ!あのまま肩触られてたら、神通力かなんかわかんないけど、落ち葉っぽいのにされて殺されるところだった!
「折角僕がお前みたいな下賤なヤツに触ってやろうとしてるのに、失礼だな」
「いやいやいや、殺されそうなのにやすやすと触られるかよっ」
しかも下賤って・・・
俺、相当玉章怒らせてる!!!
っや、俺自身に力がないわけじゃないんだ。ただ、活躍の場がないというか、ほかの奴らのやる気がハンパないから、俺がしょぼく見えるだけというか・・・
一応やることはやってるんだ。本当だ。きっとそうだ・・・うん。
「魔王の小槌の一部になるために死ぬか、他の幹部の仕事の邪魔じゃないように死ぬか・・・どっちが良い?」
えぇぇぇぇええっ!何その二択!
どっちにしても俺死ぬじゃん。
YESかハイで答えるようなもんじゃん!選択肢ないじゃん!
「さ、三択目とか・・・ある?」
「ない」
な、ないんだ・・・
俺はハァッと大き目のため息をついた。
何だか此処まで追い込まれると、逆に冷静になってきた。
「わかったよ、玉章・・・」
「何がわかったんだ」
「・・・俺、相当玉章の負担になってたんだよな。悪かった」
「ふっ・・・今更謝っても遅いぞ」
「あぁ。わかってる。だから俺・・・――魔王の小槌の一部になる方選ぶよ」
「・・・・・・」
玉章が面食らった顔をした。
俺のことだから、必死こいて玉章を説得するだろうと思ったのだろう。
説得というか、ほぼ泣き落としだが。
驚いている玉章に笑いかける。
「魔王の小槌の一部になるってことは、玉章の役に立てるだろ。玉章のために死ぬってことだ。俺は他の幹部のためなんかじゃなくて・・・お前のためだけに死にたい」
俺は壁に刺さったままだった魔王の小槌を引き抜き、玉章にそっと渡す。
「ほら。斬れよ」
そう言いつつ、俺は結構ビビっている。
あの刀、すっごく刃こぼれしてるから、きっと斬られたら滅茶苦茶痛いはずだ。
正直言って怖いが、まぁここは腹をくくろうじゃないか。
俺はグッと奥歯を噛みしめ、痛みを待った。
「・・・・・・」
が、その痛みは一向に来ない。
「・・・玉章?」
「馬鹿が」
ベシッ
「おぶっ!?」
斬られるわけでも、落ち葉にされるわけでもなく・・・頭を殴られた。地味に痛い。
「そんな馬鹿なこと言う暇あったら、真面目に仕事しろ!」
「ぇっ?え?けど、俺・・・」
「・・・特別だ。次はちゃんと僕の役に立つんだ。わかったな」
それは、死刑宣告解除ということだろうか。
きょとんとする俺にさっと背を向け、再度「馬鹿が」とだけ言った玉章は・・・
「あれ?玉章、お前・・・何か耳真っ赤じゃないか?」
ヒュンッ!!!
「ほわぁぁぁぁああ!?」
顔面に向かって飛んできた魔王の小槌を間一髪で避ける。
玉章は「だからお前は馬鹿なんだ!!!!!」と怒鳴りながら、何処かへ行ってしまった。
「・・・ぁ」
玉章がいなくなってしばらくして、俺はやっと理解する。
「〜〜〜っ、やべ、こっちが恥ずかしくなってきた」
あんな真面目に『お前のためだけに死にたい』なんて・・・そりゃ、恥ずかしくなるよな。
「よ、よしっ・・・いっちょ、働くとするか」
何時までも恥ずかしがってる場合じゃないな。
だって・・・
玉章のためだけに死にたいのは、本当の話だ。
死刑宣告解除