ドクンッ、ドクンッ・・・
心の臓が動いている。
血が血管を流れている。
肺が空気を求めている。
「ゴホッ、ゲホッ!!!!!」
口から出たのは産声ではなく咳。
肺が一気に酸素を手に入れ、咳は次第に呼吸へと変わった。
「あぁ・・・――生まれたか」
「・・・――ッ」
声を出そうとしたのか、ぱくぱくと動く口。
しかしそこから出る言葉はなく、喉を抑える。
「まだ声は出ないだろう。しばらく大人しくしていろ・・・――名前」
「・・・?」
「ん?あぁ、名前はお前の名前だ」
その口が『名前・・・』と動く。
名前はぶるっと震える。
今頃になって、寒さを覚えたのだろう。
「あぁ、待て。圓潮にでも服を用意させる」
生まれたばかりの名前は服を着ていなかった。
寒さで震える名前は、まるで温かさを求めるように自分を作った男――鏡斎に抱きついた。
「おいおい・・・」
「・・・・・・」
「オレか?俺は鏡斎・・・お前の生みの親だ」
唇が『鏡斎』と動き、名前は鏡斎の身体を更に強く抱きしめた。
「・・・普段とはまた違った画を描いてみたは良いが・・・ちょっと扱いにくいな」
鏡斎がため息交じりに言う。
名前はそんな鏡斎に顔に顔を寄せ――
「っ、止まれ名前」
もう少しで唇に触れそうだった名前を鏡斎は止める。
しかし名前は鏡斎の身体をやんわりと動けないように抱き締めたまま、その唇を合わせた。
「んっ、ふ・・・」
鏡斎の口から漏れ出る声に、名前は嬉しそうに目を細めた。
「はぁっ・・・はっ・・・」
唇が離され、大きく呼吸した鏡斎は「コイツっ・・・」と名前を睨む。
「?」
何故睨まれたのかわからないという風に、名前は首をかしげた。
その様子に毒気を抜かれてしまい、鏡斎は「まぁ良い」とため息をつく。
「そろそろ喋れるんじゃないのか?喋ってみろ」
喉にするっと触れた名前は、口をぱくぱくと動かす。
「――、ぅ、あ゛・・・ぁー・・・」
確かめるように、言葉ともいえない声を上げた。
「よし・・・」
「きょ、ぉ・・・さぃ?」
拙い声で名前を呼ばれる。
「あぁ、何だ名前」
鏡斎の返事に、名前は嬉しそうに笑った。
「だ、ぃ・・・好き」
「生まれたばかりで何を馬鹿なことを言うんだ、こいつは」
ハァッと大きくため息をついた鏡斎。
「まぁ・・・――そういう妖怪だから、仕方ないか」
鏡斎の言葉に、名前はふるふると首を振る。
「きょぉ、さぃだから・・・好きに、なった」
「・・・ぁっそ」
名前はふにゃっと笑う。
その妖怪・・・
まるで鳥の雛のように、最初に見た相手を親とし、愛し、何処までもその相手に尽くす・・・
――あまりに滑稽で、あまりに一途な妖怪なり。
生まれたばかりの雛がごとし