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「や、柳田さんっ!」



自分を呼び止めた子供の声に、ボクは歩みを止める。



屋敷の床の上をタタタッと走って駆け寄ってくるのは、ボクが敬愛してやまない山ン本様のご子息。


しかし山ン本様は結婚してらっしゃらない。

山ン本様と素性も知れない女との間に出来た子。母親はすでにいないらしい。


世間にはあまりこの方のことは知られていない。

所謂、隠し子・・・哉?







「ふふっ・・・『柳田』で良いと何時も言っているでしょう?」


山ン本様と同じ血が半分流れているこの方は、ボクにとっても十分愛おしい。

愛らしい笑顔と、山ン本様と同じで勉学に優れていて・・・


あぁ、目の前のご子息が酷く愛おしい。





「け、けどっ、柳田さんは父上の大切な部下の方で、それでっ」

「名前様。急がなくても、ボクはちゃんと最後まで聞きますよ」


わたわたっと喋る名前様に笑顔で言えば、名前様は「ぅ、うんっ」と頷いた。



「それで、どうかしたの哉・・・?」

ゆっくりと問いかけるボク。


名前様は少し恥ずかしそうに下を向く。




「ぇ、ぇとね・・・ぅーんと・・・」


言うか言わないか悩んでいる様子の名前様を見ていると、ついつい顔が綻んでしまう。



「や、柳田さんは・・・」

「『柳田』」


笑顔で訂正を入れる。






「・・・柳田は、父上とずっと一緒にいる・・・でしょ?」


「もちろん」



こくっと頷けば、名前様がほっとした顔をした。


何故そんなことを聞く必要があるの哉?

ボクが山ン本様や名前様から離れるわけがないのに!




「ぇとっ・・・や、柳田!」

「はい。何ですか?名前様」



精一杯偉そうにしているつもりなのだろうけど、その姿は何処か愛らしく・・・






「め、命令・・・しても良い?」





「ふふっ。命令は許可を取ってするものじゃない・・・哉」

あぁ、やっぱり愛らしい。



「ぅ・・・ぇ、と・・・ずっ」

「ず?」











「ずっと、僕と父上の傍にいてください!!!!これからも、ずーっと!!!」









ぺこっと頭を下げた名前様に驚く。

しかし次第に胸に溢れてくる温かいもの。



「あぁっ・・・もちろんです」

そっと名前様を抱き締めると、名前様は慌てたように「や、柳田っ」と声を上げた。



「もう少しだけ、このままで・・・」


「ぅ、うんっ」

小さな体を強く強く抱きしめた。


あぁ、愛おしい。








「後で、一緒に山ン本様のところへ行きましょう」


「ぇっ?けど、父上は仕事中・・・」

「そろそろ終わる頃だから大丈夫ですよ」



そっと頭を撫でれば、名前様は嬉しそうにうなずいた。


今の話・・・後で山ン本様に教えして差し上げよう。





山ン本様も、名前様のことはいくらか気に入っている。

今の話をきけばきっと普段はあまり見せない穏やかな顔を見せてくれるはずだから。




可愛いご子息



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