陰陽師マジ怖い。って話は、周囲の小妖怪からよく聞かされたもんだ。
俺の親は大妖怪だが、世話をしていたのは完全的に小妖怪なため、俺の知識は小妖怪から仕入れたものばかり。
ということで、俺の陰陽師に対してのイメージは、もはや最終兵器並みの怖さだったりする。
「おおおおおおお、俺をどうするつもりだ!?ぉ、俺なんて滅しても、何の得にもならないぞッ!!!!!」
ものの見事に陰陽師につかまってしまった俺は、完全にきょどっていた。
お札を身体に張られてはいるものおの、俺ぐらいの力なら脱出できる。
・・・が、テンパっている今の俺が、それに気づけるはずもない。
俺がこれだけ怖がってるのは、俺がビビりなせいだけではないはずだ。
目の前の陰陽師・・・目が怖い。ギロッと俺をにらんでいるその目だ!
もはや堅気じゃないだろ!マフィアとか、そのあたりの人間だろう!?
「おい」
「ヒゥッ!?ななななな、なんですか!?」
ビックゥゥウウウウッと反応する俺をジッと見つめたあと、その陰陽師は言った。
「名前は何だ」
「へっ!?ぇと、そのっ、名前・・・です?」
つい疑問形になってしまった俺を無視して「名前か・・・」と小さく声を上げたその陰陽師。
「ぁ、あのー・・・」
「あ?」
「ヒィッ・・・ぃ、いえ。そ、そちらの名前は・・・?」
こっちも名前教えたんだし、こっちも教えてもらうのが筋だと思うぞっ!
「・・・竜二だ」
「りゅ、りゅうじ?」
「・・・おぅ」
そ、そっかぁ、竜二って言うのかぁ・・・
まぁ、名前知ったぐらいで、この怖さが消えるわけないんだけどな!!!!!!
「さ、さっきも言ったが、俺を滅しても、何の得にもならないぞ!?さっさと俺を解放しろ、陰陽師っ!!!!」
というか解放してくださいッ!と土下座しそうな勢いの俺を、陰陽師はギロッと睨んだ。
何何!?何これ怖い!?
「竜二っつったろぉが」
「ぇっ!?ぁ、いや、え!?りゅ、竜二・・・?」
「・・・札は取ってやる」
ペリッとお札をはがされた俺は一安心。
よ、よぉし、逃げよう・・・
「待て」
「ヒィィイイイッ!?!!!??!?!?」
ガシッと肩を掴まれ、俺はパニックになる。
「ん・・・」
「へ?」
俺がパニックになっている間に、竜二の顔はすぐそばまで来て、口に何か当たった。
あ、俺コレ知ってるぞ。
確か、小妖怪たちが話してるの聞いたぞ。
これはキスって言って、口と口をくっつける・・・
ん?あれ?
「えぇぇぇぇえええええええええッ!!!???!?!?!?」
「チッ・・・うるせぇ野郎だ」
「え!?ちょっ、竜二・・・あんた、今・・・き、キス・・・キスぅぅぅううううう!?!!!?!??!?!!?」
これが“ふぁーすときす”というものなんじゃないのか!?
奪われた!人間に!陰陽師に!!!!!
え!?なにこれ恥ずかしいんですけど!?
「キスぐらいで一々喚くな。男だろ」
そういう問題じゃない気がする!!!!!
俺が百面相していると、竜二が俺の首にするっと腕をかけて向き合うようにくっついてくる。
「・・・俺のになれ。お前、馬鹿っぽいが、力は強そうだ」
わぁぁぁああああ!!!!!俺、もしかしてパシリにされそうになってる!?
確かに俺の親は大妖怪で、俺も力強いけど、パシリは嫌ぁぁぁぁぁあああああああッ!!!!!!!!
「ぉ、俺はこれでも大妖怪の息子だぞっ・・・ぉ、陰陽師の味方になるわけっ、ないだろ?」
声を震わせながら必死に言えば、竜二は「ほぉ?」と俺を睨んでくる。
こ、怖い!!!!!超絶怖い!!!!!!
竜二は俺の首に回している腕を強くした。
くくくくく、首を折る気か!?
「ん、ん・・・」
「・・・りゅ、じ・・・」
さっきよりも長いキスだ。
・・・ぅわわわぁぁぁぁぁあああああああッ!!!!!!!
「や、止めろよ!俺、キス初めてなんだぞ!?」
「・・・ほぉっ。それは良いことを聞いたな」
わぁぁぁぁぁあああ、何この陰陽師!すっごい悪人顔!
「お前に拒否権はないぞ。お前はもう・・・俺のものだ」
ジャラッと何かが首にはめられた。
へ?何だこれ・・・
「俺から逃げようものなら、首が吹っ飛ぶ仕掛けの数珠だ。くれてやる」
「貰っても嬉しくないぃぃぃぃいいいいいッ!?!!!?!??!!?!?」
首が吹っ飛ぶの!?マジで!?
「まぁ、お前ぐらいの力なら、ギリギリ耐えられるか。顔面の無事は保障できないが」
「耐えられても大惨事間違いなし!?」
何でこんなもの付けちゃうの!?
俺、そんなにこの陰陽師の気に食わないことした!?
「お前は、これでずっと俺と一緒だ」
ニヤァッと笑った竜二が再びキスをしてくる。
俺はすでに脱力状態。無抵抗だ。
そんな俺の耳元に、竜二の口が寄る。
「好きだぜ・・・名前」
耳元で囁かれた言葉に、俺はピキーンッと固まった。
これ、聞いたことあるぞ。他の妖怪が話してたぞ。
これ・・・“こくはく”ってヤツだ。
こういう時はどういう返事すれば良いんだっけ!?
「お前も俺のこと好きだろ?名前」
・・・・・・。
竜二の目を見て気づく。
返事は『はい』か『いぇす』だ!
「・・・・・・」
俺は冷や汗を流しながらコクッと頷いた。
すると竜二は満足したのか「行くぞ」と言って俺の首から腕を退かし、代わりの腕の腕をがっちり握りこんだ。
・・・拝啓、俺をこんなビビりにしてしまった大妖怪の両親様。
俺、今日から陰陽師のパシリになるそうです。
その妖怪ビビりなり
・・・誰か助けてぇぇぇぇぇええええっ!!!!!!!