その男は酷く柄が悪かった。
拙僧が夜の町、公園の近くを通ったところで、その男に出会った。
男は公園の入り口で煙草をふかし、気だるそうに立っていて、拙僧の視線に気付いた瞬間・・・
「んだよ。変な格好のおっさん。何見てんだ?犯すぞ」
「なっ!ぃ、いきなり失礼だろうっ!」
実に失礼なことを言ってきた。
確かに拙僧は目の前の男よりは大分長く生きているつもりだが、見た目的にはおっさんではないはず・・・!!!!
「拙僧はおっさんなどではないっ」
「その変な笠のせいで顔なんて見えねぇよ。変な喋り方しやがって」
男が喋れば喋るほど、拙僧の気持ちは滅入ってくる。
男はジーッと拙僧を見て・・・
グイッ
「なっ!?」
「へぇ。綺麗な顔してんじゃん。悪いな、おっさんとか言っちまって」
突然拙僧の腕を掴んで引き寄せたかと思えば、拙僧の顎に手を添えてニヤッと笑った。
「にしても、変な格好。何処の僧侶って感じだな」
「・・・さっきから失礼だぞ」
「俺が失礼なのは自覚あるけどなぁー」
今更治せねぇよ。と呟いた男は、拙僧の顔に自分の顔を寄せ――
「って!!!!なななななな、何をしようとしている!?」
「何って、キスだろ」
「何故だ!?」
「気分」
「貴様は気分で接吻をするのか!!!!!」
こ、この男はッ!!!!
見るからに今時風の軽そうな男だったが、まさか此処までとは・・・!!!!!
「接吻って・・・一体、何時代のヤツだよ。今時接吻って・・・」
「そんなことはどうでも良い!ま、まったく・・・出会ったばかりの相手に突然接吻などと――」
言葉は続かなかった。
間近にある男の顔。
硬直した拙僧。
ゆっくりと男の顔が離れ・・・
「ごちそーさん」
「〜〜〜ッ!!!?!!!????!?!?き、貴様、自分が何をしたのかわかっているのか!?!!?!??!??」
「ぁー、はいはい。接吻ね、接吻。わかったわかった。それぐらい良いだろー?今時、キスぐらいでピーピー騒ぐなよ」
ふわぁっと欠伸をした男はポンポンッと拙僧の頭を笠越しに撫でる。
「せ、拙僧も貴様も男だろう!」
「男が男にキスしちゃいけねぇ法律なんてねぇよ」
「そういう問題ではない!!!!!!!」
つい声を荒げてしまう拙僧。
男は「頭かったいなぁ、お前」と気だるそうな表情で言いつつ、さり気なく拙僧の腰を引き寄せてきた。
「はっ、離せ・・・」
「何か、そういう反応見てると、苛めたくなるのが俺って男だ」
「〜〜〜っ!!!離せ!」
「断る。お前みたいな変な格好の初心野朗は、お持ちかえりしてやらぁ」
「!!!???!!???!」
男がグイィッと拙僧を引っ張り、そのまま拙僧を抱きかかえた。
「ぉ、降ろせっ!!!!離せ!!!!!」
「それは無理だなぁー。お持ち帰りするし」
そういうと、男はすたすたと歩き出す。
抵抗しようにも、男の力は意外にも強い。
「んじゃ、俺ん家のベッドへGOしちゃいますかー」
軽いノリで言った男に、次第に拙僧の血の気が引いていく。
「ほ、本気なのか!?じょ、冗談だろっ?」
恐る恐る尋ねる。
冗談だと信じたい。
しかし、男の答えは、拙僧が期待していたものとはまったく違う・・・
「れっつごー」
「離せぇぇぇぇぇえええええええッ!!!!!!!!」
拙僧のむなしい叫び声だけが、夜の誰も居ない公園に響いていた。
夜は注意して歩きましょう