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「名前っち!これあげるっす!」


目の前に差し出されたのは旨そうな食い物でも俺が興味を引きそうなバスケ雑誌でもなく・・・



「・・・ぁ?何だコレ」

「俺の写真集っす!」


黄瀬の顔がドドンッと映った女性向け写真集だった。




「すこぶるいらねぇ」


ぺいっと写真集を椅子に放り投げた俺に黄瀬は「わぁ!?酷いっす!」と言いながらその写真集を拾いあげた。



「これを俺にどうしろってんだよ。エロ本だったらおかずにするが、黄瀬の写真集なんて使い道ねぇだろ。あれか?女子に高値で売れば良いのか?よーし、それなら任せとけ」

「ぅぅううう、売っちゃ駄目っす!これは名前っちのっす!」


女子なら高値で買ってくれそうだったのに。

内心舌打ちをする俺は「で?どうしろってんだよ」と今にも泣きだしそうな黄瀬に問いかけた。






「ぇっ、ぇーっと・・・家に帰ったらでもいいんで、見て欲しいっす」


「・・・お前のドヤ顔を?」


「ぉ、俺そんな顔してるっすか!?」

「さぁな」


ってか、何が悲しくて同級生の写真集を貰わなきゃいけないんだ。しかも本人の手から。


俺は女子じゃねぇぞ。だからこんな写真集本人から貰っても、いろんな意味で嬉しくねぇぞ。

もはやアレだろ。俺のこと舐めてんだろ。




「わっ!?名前っちの眼力が怖いッ!」

「あぁ。今頭の中でお前への罵声を考えてた」


「酷いっす!?」


半泣きの黄瀬が「貰ってほしいっすぅぅううっ」と俺に写真集を押し付けてくる。







「・・・しゃぁねぇなぁ。貰うだけだぞ」

「はいっす!」


「ラーメン食べるときの鍋敷きにしても文句言うなよ」

「そ、それはちょっと嫌っす」


ガクッと肩を落とした黄瀬に「我がまま言うな」と言いつつ、写真集をカバンに押し込んだ。




「ぜ、絶対見てくださいっす!」

「ぁー、はいはい」


ほとんどから返事の俺は、その日はそのまま自宅に帰り・・・飯食って寝ようとした。

で、ふと黄瀬の写真集を思い出してしまった。


ったく、面倒臭いものよこしてきやがって。



俺は面倒臭いと呟きながら写真集を開く。

どのページにも、黄瀬だらけ・・・


正直、男一人で見るようなしろものじゃねぇぞ。


俺は若干顔を引き攣らせつつ、ページを捲っていく。






「あ?」


丁度中盤あたりに差し掛かったところ・・・



そのページには笑顔の黄瀬がこちらに向かって花束を渡しているような写真で、その隅っこに・・・








【名前っち!あいらぶゆぅーっす!】







黄瀬の字で書かれていた。

絶対見て欲しいと言った黄瀬を思い出す。


・・・これを見せたかったのかよ。





「面倒くせぇヤツ・・・」

こんな回りくどいことしなくても・・・




「寝よ」

俺は写真集をぱたんっと閉じて、そのまま寝た。







「おい黄瀬」

「ぁ!名前っち!その・・・写真集見てく――」



「おらよ」


翌朝、教室の椅子に座っていた黄瀬の頭にベシッと乗っけるのはあの写真集。



「え!?へ、返却っすか!?そんなに気に入らなかったっすか!?」

「家帰ってから見ろ」


「へ・・・?」


きょとんとした黄瀬に俺は背を向け、ひらっと手を振った。









「あぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

背後からついビクッとしてしまいそうな程の大声。


発生源は・・・黄瀬だ。


俺は顔を引き攣らせながら振り返る。





そこには・・・

顔を真っ赤にして、きらきらした目で俺を見る黄瀬がいた。





「名前っち!俺・・・感激っすぅぅぅううう!」

「だぁぁぁああ!!!!家帰ってからって言っただろうが!」


「我慢出来なかったっすぅぅうううう!!!!」

きゃーっと抱きついて来る黄瀬に、俺は「抱きつくな!」と怒鳴りつけた。






みーとぅー




黄瀬の机の上に置き去りにされた写真集には、こう書かれていた。



【名前っち!あいらぶゆぅーっす!】
【↑みーとぅー】


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