息子達がやっている事がいけない事だということはわかっている。
前世は医者だった私だ。命の重みぐらいわかっているつもりだ。
けれども、息子達が何をしようとも彼等が私の息子であるのは変わりない。そう、変わりないのだ。
だから・・・
「・・・ごめんよ、息子達を殺させるわけにはいかないんだ」
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった私。そんな私が再び息子達と再会出来たことには、きっと意味があるのだろう。
その意味が何なのか明確に示された訳ではないが、私はそれが息子達自身の為だと思っている。
前世で愛を伝えきれなかった。だから今世で伝えるのだ。
私が持つ最大限の愛を息子達に伝えるのだ。
私はお前たちを愛している。お前たちが元気なら、それでも良いんだ。
世間体なんて、妻の機嫌なんて、気にするべきではない。息子達が笑っていてくれるなら、それで良いじゃないか。
私は息子達を愛している。
息子達も私を愛してくれた。返すべき愛は、もっと増えた。
幸せな日常なんだ。息子達が笑って、私を『パパ』と呼んでくれる日常が。
それを壊すような輩がいるなら、私もきっと、この手を血と蝋で染めるだろう。
傲慢?身勝手?あぁ、わかっているとも・・・
「んーッ!んんーっ!!!!」
椅子に縛り付けられている一人の女性に私は眉を寄せる。
あぁ、ボー・・・
お前の胸にはあの頃のことが深い傷として残っているんだね。
私が抑えて、妻が縛って・・・
辛かっただろう。悲しかっただろう。未だ、息子の手足には拘束の痕が残っている。
そっと女性に近付けば、女性は大きく目を見開く。
おそらく『何故こんなところに子供が!?』と思っているのだろう。接着剤のようなもので口を張り付けられた彼女の口からは呻きしか聞こえない。
「大人しく。今拘束を解く」
落ち着いて、と肩を撫でれば彼女は少し大人しくなった。
頭上では、男二人の声。ボーは私が此処に来ていることに気付いてはいない。
ボーには悪いが、今回は仕方ない。
何となくわかるのだ。この女性も、今頭上でボーと会話をしている男性も・・・
ただ大人しく殺されるような人間ではない。本当に何となくだが、わかるのだ。
息子達に少しでも危険があるならば、それを排除しなければならない。けれど今の私は何の力も無い。
「私の話を、黙って聞いてほしい」
まぁ、そもそも口を塞がれているから話せないだろうけど。
私は彼女の脚の拘束を解きながら「私は、君を椅子に縛り付けた男の家族なんだ」と言う。
おそらく彼女は弟や息子を連想するはずだ。まさか私が父親だなんて、夢にも思わないだろう。
微妙な表情をして私を見下ろす彼女に小さく微笑みかけながら次は手の拘束を解き始める。
「君のお兄さんかな・・・彼はきっと、君を助けるために私の家族を傷つけるだろう」
「・・・・・・」
「わかるさ。家族とはそういうものだ。愛する家族の為なら、時に非情になれる・・・私だってそうさ」
拘束を解いた。彼女の手を取り、立ち上がらせる。
「おいで。街の外へ連れて行ってあげる。君のお兄さんも誘導しよう」
「・・・・・・」
「あぁ、可哀相に。可愛い顔が傷だらけだ・・・口の接着剤は、そうだな・・・確か妻の部屋に除光液があった。後で取って来よう」
おっと、つい『妻』と言ってしまったが、きっと混乱している彼女は聞いてはいないだろう。
彼女の手を引き、歩く。
流石の息子達も、私が一緒にいるのに彼女を殺そうとはしない・・・はず。いや、断言はできない。
「レスターの車を少し借りよう。おいで、こっちだよ」
喋ることが出来ない彼女と共に薄暗くなってきたアンブローズの町を歩く。
「君を此処から無事に逃がすにあたって、私と約束してほしいことがある」
「・・・・・・」
「何となく察していると思うが、此処の住人は全て私の家族が殺してしまった。おそらく、君のお友達もだろう・・・」
彼女の目に絶望にも似た辛そうな色が浮かんだ。
「アンブローズを出たら、君達は家に帰るんだ。大人しく、真っ直ぐに。無事に帰り付いた君達は・・・私達のことを誰にも口外してはならない」
握ったままの手。その手を強く強く握る。
彼等がバラしたりでもしたら、息子達に危険が及ぶだろう。彼等を逃がさなければ、息子達が傷つくだろう。
ならばどうするか。それは簡単な話だ。
「もしバラしたら・・・そうだね――」
私はにこりと微笑んだ。
「私が君を殺しに来る」
びくっと彼女の肩が震えた。
「私はまだ子供だから、時間はいくらでもある。警察にも捕まらない。だから、君達を幾らでも追いかけられるんだ。君達は常に誰かに狙われているという恐怖を感じながら生きるんだ。ずっと、ずっとね・・・」
子供相手だというのに、彼女の震えは大きい。
私の表情は、それだけ良くない表情となっているのだろう。子供らしからぬ、そんな顔に。
「約束を、守って欲しい。出来れば私も、君のような優しいお嬢さんは殺したくないんだ」
ね?と彼女に微笑みかけた。
彼女は困惑した表情を浮かべ、そのまま・・・こくりと頷いた。
あぁ良い子。
娘がいたなら、君みたいな子が良かったな。
そう呟く私を、彼女は不思議そうに見ていた。
パパが逃がしてく
まるで達観した大人のような子供に逃がされた双子の兄弟は、不気味な街を後にする。
あの少年は一体・・・何だったのだろう。
あとがき
リクエストでは原作沿いのお話だったのですが、完全原作沿いだと大分長くなってしまうので、一部のみになってしまいました。すみません(汗)
また何時か、パパシリーズで原作沿いはやってみたいなと思っているので、その時までどうかご容赦くださいっ!