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テキサスの田舎道のど真ん中。


もはや肉の塊としか言いようがないほど滅茶苦茶に殺されている人間と、その人間を袋に詰めていた血まみれの男。

その二つを見てしまった俺は、とりあえず顔に満面の笑みを張り付けて言った。









「今日は酷い日差しだ。熱中症とかには重々用心しろよ」








・・・いやいやいや、どういうことだよ。

明らかにパニックになっていた俺から出てきた言葉は、どうにもその場にそぐわない言葉だった。


本来なら叫んで逃げるのがセオリーなところを、何普通に話しかけているんだろう。しかもすっげぇフレンドリー。

ほら見ろ!血まみれの男さんは、俺を吃驚した面持で見ているじゃないか!!!!!






「ぁー、あれだ・・・水分っていうのは、喉が渇き始める前に取る方が良いんだぞ。知ってたか?」


ふるふるっと男が首を振る。

・・・ぁー、やべぇ。逃げるタイミングがわからない。


此処は「それじゃぁな!」と言いながらこの場を去るべきはずだ。よし、そうしよ――







ガシッ


「・・・ぇ?」





腕をがっしり掴まれてしまいました。

赤い液体の沢山こびりついた男の手で。


え?え?あれ?どういうこと?

何で俺の腕を引っ張って歩き出すの?

あれですか?現場を見られたから俺も殺しちゃうZE☆みたいな?



・・・いやぁぁぁぁぁぁああああッ!!!!!!!俺、まだ彼女も出来たことないのに!キスすらしたことないのに!DTなのに!!!!!!←


人生謳歌してないよ!?まだまだこれからだよ!?







「ぁ、ぇーっと、一体何処へ?」


無口だった男が、俺を見て小さな声で「家」と言った。

家ってアレか。コイツの家か!!!!


・・・死亡フラグ来たよコレ。





「ぉっ、俺、これから昼食取りに行くんだ。だ、だからお前の家には行けないんだが・・・」

すると、男は小さな声で「これから家で昼食だから、大丈夫」だと言った。何が大丈夫だと言うんだ!!!!!





「・・・ぇ、あ、此処?」

何時の間にやらたどり着いてしまった家。わぁ、凄い。

ガチャッと開かれた扉。



「帰ったのか、トミー・・・ん、何だお前」


知らないおっさんが男をトミーと呼んだ。コイツの名前か?それとも愛称か?

男がおっさんに向かって何か言ってる。おい、聞こえないぞ。もっと大きな声で頼む。





「ほぉー・・・」

おっさんが何かを納得したように俺をつま先から頭のてっぺんまでじーっと見た。止めてくれ、怖い。


「まぁ、良い。そろそろ昼食だ」


おい、おっさん。コイツの手にある血まみれの袋はスルーか!それともそれが普通なのか!?そうなのか!?




グイッ

「わっ、ちょっ・・・」


男に腕を引かれ、心の整理もつかぬまま、椅子に座らされた。

そこには、見たこともない人たちが。たぶんあの男の家族だ。


俺はとりあえず「は、初めまして」と頭を下げた。

すると、以外にも帰ってきたのは普通の挨拶。わぁ、何だろう、その普通さが怖い。




コトンッ

「ぁ、ぇと・・・ありがと」


傍に置かれた皿。置いたのはトミーって男。

俺がとりあえずお礼を言うと、トミーは小さくうなずいて自分の席に着いた。


全員が揃ったのを見てから、トミーって男のお母さんっぽいおばさんが「じゃぁ」と声を上げる。

おばさんの視線がこっちにくる。








「トーマスが初めて連れてきたお友達だもの!沢山食べて頂戴ね!」







お 友 達 ?









は?何ソレ、初耳なんですけど。お友達って何?友人?フレンド?



「ぁ、あはは・・・はい。頂きます・・・」

ヤバイぞ。俺はどうやら、お友達ポジションになってしまったらしい。

もうどうすりゃ良いのかわからない。


目の前にある皿には、温かなスープ・・・ん?




何だろう。スープに浮いてる、うろこのようなもの。

何だかよく見たことがあるような感じがする。




スープの皿を持つ自分の手に自然がいった。


指。その先に付いている爪。

・・・何だか、スープに浮いてるソレによく似てる。


まままままままま、まさか・・・




「おい、食べないのか?」

さっきのおじさんが不思議そうに尋ねてきた。

俺は慌てて「ぃ、いえいえ」と声を上げる。




「そ、そういえば自己紹介すらまだでしたね!お、俺はナマエって言います」


何とかその場をごまかすために出来るだけ笑顔で言った。








「それはそれはご丁寧に。ようこそ――ヒューイット家へ」






ん?

それって、人肉好んで食べる一家の名前じゃ・・・


・・・あはははは、マ、マジ・・・?


俺は笑顔で硬直。

ギギギッとブリキ人形のような動きで自分を此処に連れてきた男を見れば、ヤツは俺をずっと見ていたのか、目が合ってしまった。




「き、君とは先ほど知り合ったばかりで、まだ名前もまともに知らないんだ。出来れば名前を教えてくれないか?」


食卓に「・・・トーマス」という声が小さく響く。

そうか。トミーは愛称か。



「よ、よろしくトーマス。せ、折角知り合えて光栄だけど、俺はまだ用事の途中なんだ。こんな素晴らしい持て成しはとても嬉しいが、そろそろお暇させてもらおうかと・・・」

「まぁまぁ、それは大変。じゃぁ、せめてスープだけでも飲んで行ってちょうだい」





そうきたか!!!!!

俺は顔が引きつらないように注意しながら「ぃ、急ぎの用事なので・・・」と苦し紛れに言う。




残念そうな顔で「そう?じゃぁ、せめて袋で持って帰って?」と言いながらビニール袋にスープを詰めてくれたおばさん。有難いけど嬉しくない。

袋を受け取り、席を立った俺。それと同時にトーマスも立ち上がった。



な、何なに!?俺、殺されちゃう!?


「・・・・・・」



トーマスが何か言いたそうにしている。

耳を澄ますが、何も言ってない。言いたそうにしてるけど。


俺はとりあえず「じゃ、じゃぁなトーマス」と笑ってみた。・・・返事無し。

こ、こういうときはアレだよね?



俺は目の前のトーマスに軽くハグをして「怪我とかには十分気を付けてな」と言った。

こくこくっと何度も頷くトーマス。な、何だよ、意外にも普通じゃねぇか。













結局、家族全員に玄関までお見送りされてしまった俺は「またおいで」なんて言われちゃったりして、ついつい「ぁ、はい」と返事までしてしまった。



「・・・ふぅっ」

やっとあの緊迫した状況から解放された俺は「何だったんだ、アレ」と言いながら、大きなため息をついた。





何時の間にか友人でした



袋に入ったスープ。とりあえず、俺はコレの処分を第一に考えることにした。


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