私は“私”の寝室で目を覚ます。
私と言ってもそれは“前世”の私の寝室であり、今は“現世”の私の寝室となった。
前世の私は最初こそ妻と同じベッドで眠っていたが、妻が狂いだして・・・何時かしか妻とは別のベッドで眠っていた。
だがベッドは広く、今や小さな子供の姿をしている私にはそのベッドはとても大きい、はずなのだが・・・
「・・・あぁ、何だ。お前たちがいたからか」
少しベッドが窮屈に感じた理由を知って私はついつい笑ってしまう。
右隣で眠っているのはボー。左隣で眠っているのはヴィンセント。
軽くいびきを掻いているボー。ちなみにヴィンセントは静かに寝息を立てている。
「私が寝ている隙にもぐりこんできたのか・・・」
息子たちの可愛い行動に口元を緩めながらも、朝食を作るためにそっとベッドから降りる。
ボーやヴィンセントが小さい頃に来ていた服が物置にまだあったため、私はその服を着用している。
まさか息子の服を着るようになるとは、前世の私は絶対に想像していなかった。想像できるはずもないが。
洗面台に行くと、相変わらず妻の生前使用していた美容品が鎮座しているが、私はそれを気にせずに顔を洗って髪を整える。
キッチンへ行き、椅子を使って身長の問題を解決してから、フライパンでベーコンを焼く。
焼きあがったベーコン。続いて卵を四つ。
トーストも焼き上げて、ほら完成。
「ジョン、ごはんだよ」
外にいたレスターの飼い犬にも餌をやる。
「後は3人を起こすだけか・・・」
テーブルに朝食を並べて、3人がいる二階へと向かう。
コンコンッ
レスターの部屋の扉をノック。もちろん返事はない。
私はゆっくりと扉を開け、中で大きないびきをかいているレスターに近づく。
「まったく。寝る前にナイフの手入れでもしていたのかな?」
枕元に置きっぱなしのナイフ。実に危ない。
私はそのナイフを枕元からそっと取り、机の上へと移した。
「レスター、起きなさい。朝ですよ」
レスターに声をかけ、身体をゆすってみてもなかなか起きる気がしない。
「しょうがない子だ・・・・・・こら!!!!レスター、起きなさい!!!!!」
「うぉおッ!?!!?!??!」
耳元で怒鳴れば、ビクッと震えたレスターが飛び起きた。
「おはよう、レスター」
「な、何だ、親父か・・・」
ほっとした顔をするレスターに笑顔で「朝食だよ、降りておいで」と言う。
「そうそう。寝る前にナイフの手入れをするのは良いけど、そのまま寝るのはいけないよ」
「はぁーい」
わかってるのかわかってないのかわからない返事をしたレスターに苦笑を浮かべつつ、続いて私の部屋にいるはずの二人を起こしに向かった。
ガチャッ
「っと・・・あぁ、ヴィンセントはもう起きていたのか」
眠そうに目をこすりながらコクコクッと頷いているヴィンセントの頬を「おはよう、ヴィンセント」と笑顔で撫でれば、ヴィンセントは嬉しそうに目を細めた。
ヴィンセントはまず先に蝋のマスクを作らなければならないためか、先にキッチンに降りて行った。
残るはボーだけだけど・・・
「ボー。起きなさい」
「・・・ん゛ー」
唸るようなその声。
「レスターもヴィンセントも、もう起きてるよ。ちゃんと起きなさい」
「ぱ、ぱ・・・ぁと、少し・・・」
「駄目だよ。ほら、起きて」
寝ぼけ眼でこっちを見たボーがこっちに手を伸ばす。
・・・抱き起してあげたいところだけど、今の私じゃ力不足。
私は抱き起す代わりにボーをそっと抱き締め「ほら、ちゃんと起きなさい」と言った。
軽く私の頬に頬擦りしたボーはのそのそと起き上がり、ベッドから降りた。
「顔を洗っておいで」
「ん・・・」
危なっかしい足取りだけど、顔を洗えば何とかなるだろう。
私は再びキッチンへと戻る。
するとすでにマスクを作ったヴィンセントが席に着いていた。
レスターも欠伸をしながらやってきて、席に着く。
後はボーだけ。そのボーもしばらくするとレスターと同じように欠伸をしながらやってきて、席に着いた。
「じゃぁ、皆が揃ったところで、食べようか。皆、今日は予定とかある?」
「俺はゴミ捨ての仕事ー」
「ガソリンスタンド」
「・・・蝋細工」
それぞれちゃんと(?)仕事していてくれて嬉しいよ。
「そう。お昼は帰ってくる?」
「もちろんだ、パパ」
いち早く返事をしたボーにレスターがボソッと「ファザコン」と言って、ボーにフォークを投げられていた。
「こら、食器で遊ばない」
軽く注意すれば、ボーはちゃんと止める。良い子だ。
ヴィンセントは静かに朝食を取り、私の服の裾をクイクイッと引っ張る。
「・・・ぉいしかった」
「それは良かった」
食器をちゃんと流しに置いてから、ヴィンセントは作業のために地下に降りて行った。
まだ喧嘩をしている二人に「早く食べなさい」と言うと、二人とも・・・というより、ボーがレスターを睨みつつ、朝食を終えた。
3人がそれぞれ自分の仕事に向かったのを見届け、私は自分の書斎へと向かう。
私が“父”だとわかった時から、この部屋に置いてあった私の蝋人形は別の部屋・・・ボーとヴィンセントの部屋に移された。
二人の部屋に私の蝋人形があるというのは変な気分だが、それも仕方のないことだろう。
書斎にある自分の椅子に腰かけ、前世でよく読んでいた医学書を読む。
やはりそれはもはや昔のもので、新たな本を買い足さなければと思った。
久しぶりに大人として脳みそを使う感覚。子供の身体では疲労感もすぐに溜まってしまうが、知的好奇心は止められない。
ペンで本にいろいろと書き込みながら、どんどん時間を消費していった。
キィィイッ
扉がそっと開かれる音。
ちらっとそちらに視線を向ければ、ヴィンセントがこちらをジッと見ていた。
「お腹がすいたのかい?」
おいで、と腕を広げれば、ヴィンセントはギューッと抱きついて来る。
けれどお腹がすいているわけじゃないらしく、首をふるふると振った。
きっと甘えたいのだろうと思った私は「作品は出来た?」とヴィンセントの頭を撫でながら尋ねる。
ヴィンセントはこくっと頷くと「ぁとで・・・見て」と言う。
もちろん。と懐く私は「パパー!帰ったよー!」というボーの声を耳にする。
ヴィンセントと共に玄関へ行けば、ボーが「パパ!」と言いながら私に抱きついて来る。
「おやおや、ふふっ・・・おかえり、ボー」
よしよしと頭を撫でると嬉しそうに目を細めるボー。
その後ろで「やっぱファザコン」と言っているのは、ちょっと腐臭を身に纏うレスター。
「レスターもおかえり」
「おぅ。ただいま」
ボーがギロッとレスターを睨んでいるのに気付き「こら」と注意すれば、ボーは無言で私の頬に自分の頬を摺り寄せる。
「レスターもボーも服が汚れているね。洗って上げるから、シャワーでも浴びておいで」
二人を浴室へと送り込み、洗濯機で服を洗う。
「あぁ、有難うヴィンセント」
ヴィンセントが私の代わりに洗濯物を干してくれた。良く出来た子だ。
「パパ!ちゃんと洗った!」
「偉いよ、ボー。・・・おっと、まだ髪が濡れているね。おいで」
ボーに手招きをすれば、ボーは嬉しそうに近づいてくる。
ボーの頭をタオルで拭きながら「お昼にしようか」と言った。
お昼はサンドイッチ。
レスターとボーは沢山食べるから、お肉を多め。ヴィンセントは逆にあまり食べないから、野菜中心。
美味しそうに食べる三人を眺めつつ、私は「私は幸せ者だよ」と呟いた。
「俺もだパパ」
いち早く返事をしたのはボーで、こくこくっとうなずいているのはヴィンセント。
レスターはサンドイッチを頬張りながら「おへも、おへも」と頷いた。
可愛い息子たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。
そう思うと、ついつい口元が緩み、顔には笑みが広がる。
それを嬉しそうに見つめてくる三人に「夕食はご馳走にしようか」と笑いかけた。
パパが子育て中
あとがき
クリスマス企画のリクエストでした。
【シンクレア兄弟で”パパが帰ってきた”
再会した後の話が読みたいです!】
とのリクエストでしたので・・・
何だか生活感あふれる感じになりました。←
基本ボーのキャラが誰コレ状態ですが・・・パパの前ですから!!!←
パパの前で素直になるボーとそのボーにファザコンとレスターが言う・・・という光景が、この家族のセオリーとなりそうです。←