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「そうか。君はトーマスというのか。僕はナマエ、今日から君の同僚だ」



食肉処理工場に明るい声が響いた。




他の職員たちが、声の主を驚きのまなざしで見る。


ナマエは爽やかな笑みを浮かべたまま、トーマスに右手を差し出していた。握手を求めているらしい。

周囲がその行動に驚いている中、もちろんトーマスも驚いていた。




「ん?どうかしたか、トーマス。もしかして突然名前呼びは失礼だったか?」


首をかしげて尋ねるナマエに、トーマスは小さく首を振った。

それを見て「それは良かった」と笑うナマエは、ギュッとトーマスの手を握って見せた。





「ほら、握手。これで君と僕は友達だ」




周囲の目を気にすることなく、ナマエは握ったトーマスの手をブンブンッと振る。



「いやはや。君と僕はたぶん歳が近いだろう?職場に友達を作ることは良いことだと思うからね。是非とも君と友達になりたいんだ」

何処までも爽やかな笑みを浮かべたナマエは「ぉっと、そろそろ仕事に取り掛からないと」と言いながら踵を返す。





「じゃぁ、また後でな、トーマス」


ひらっと手を振るナマエに、混乱していたトーマスは手を振り返せずにいた。









仕事終了時刻、トーマスのもとには再びナマエが現れた。


「トーマス!途中まで一緒に帰ろうじゃないか。君の家はこっちかい?」

「・・・・・・」


満面の笑みを浮かべながら「いやぁ、今日も一生懸命働いたね」と言うナマエに、トーマスは軽く戸惑う。



「頑張って働いた後は家でゆっくりするに限る。僕は家でシャワーを浴びてからソファーでゆっくりするのが好きなんだ。トーマスはどうだい?」

「・・・・・・」


「おっと、突然こんなことを聞かれたら驚くかな?じゃぁまずは僕のことから君に説明するよ。そうすればもっと良い友達になれると思うんだ」


にこにこ微笑みながら「僕はニューヨークの生まれで――」と話し始める。

次々に自身のことを話しだすナマエに、トーマスはただただ耳を傾けることしかできない。




小さい頃は病弱でなかなか家の外に出られなかっただとか、本当は学校へ行ってみたかったのだが、結局それは叶わなかったことだとか・・・

自分の過去から自分の嫌いな食べ物まで、ほぼ全て語ったのではないかというところで「だからさ!」とナマエがトーマスの手を握る。



「ずっとトーマスみたいな友達が欲しかったんだ。まさか大人になってからこんな素敵な友達に出会えるとは思わなかった」


「・・・!」




「僕、鬱陶しいかもしれないけどさ・・・トーマスの友達にしてくれないか?」




真っ直ぐな目。

トーマスはしばらく視線を漂わせたりそわそわしたりした後・・・




小さく頷いた。






「本当に!?やった!じゃぁさ、じゃぁさ、お昼を一緒に食べたり・・・そうだ!休日は僕の家に来いよ。一緒にボードゲームをして遊ぼう。後・・・あぁ、そうだ!夜中に電話して、遅くまで喋ろう!それとそれと・・・あぁ、駄目だ!やりたいことが多すぎる・・・なぁ、トーマスは何したい?」


嬉しそうに笑いながら問いかけてくるナマエに、トーマスは感じたことのないような温かさを感じた。



「・・・・・・」

「ん?何なに?」


トーマスの唇が小さく動いたことに気付いたナマエは、笑顔でその口元に耳を寄せる。







「・・・ナマエと一緒なら、何でも良い」






「トーマス・・・やっぱり、友達がトーマスで良かった!」


ナマエは笑顔でトーマスにハグをした。



お友達になろうよ!


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