「僕が死んだら蝋人形にしてよ、兄さん」
「・・・・・・」
無言でおろおろするような動きをする兄さんに、僕は小さく笑った。
そんな僕に「馬鹿か手前は」というのは、もう一人の兄さん。
「何でわざわざ蝋人形になりてぇんだよ」
「兄さん、怖い顔しないでよ。蝋ぶっかけるよ」
普段からヴィンセント兄さんのお手伝いしてるから、蝋の扱いなんてお手の物だ。
僕の様子にボー兄さんはため息を一つついて「さっさと理由言えよ」と睨んできた。
まったく・・・もう少しぐらい大人しくならないかなぁ、ボー兄さんは。ヴィンセント兄さんやレスター兄さんを見習ってほしいぐらいだよ。
「だって僕、兄さんの作る蝋人形が大好きなんだもん」
僕は笑いながらヴィンセント兄さんに抱きつく。
蝋独特のにおいと死臭をスゥッと吸い込む。その中にあるヴィンセント兄さん特有の香りに、ついつい笑みが浮かぶ。
「ねぇ兄さん、お願いだよ。僕を蝋人形にしたら、兄さん達に一番近い場所に飾ってね?ずーっと傍にいたいんだ」
「お前が先に死ぬの前提かよ」
ボー兄さんが不機嫌そうにつぶやくのを聞いて、僕はにこっと笑った。
「何なに?ボー兄さんったら、僕が死んじゃうの嫌?」
「・・・バカ野郎」
べしっと頭を殴られる。けど、その力が何時もより優しい気がして、また笑っちゃう。
「約束してくれる?ヴィンセント兄さん」
兄さんを見上げたら、兄さんは・・・
ふるふるふるふるっ
何度も首を横に振っていた。
「ぇ・・・ど、どうして、兄さん。僕じゃ、蝋人形に向かない?不格好だから?」
そりゃ、僕は兄さん達に比べれば平凡な顔つきしてるけどさ・・・
ふるふるっと兄さんが首を振る。
「ナマエは・・・駄目」
小さな小さな声で兄さんが言った。
普段はあまり喋らない兄さんが喋るなんて珍しい。
「ナマエは・・・生きて、傍に・・・ぃて」
「・・・・・・」
胸がきゅぅーんってなった。
たぶん、今の僕はすっごくときめいてる。
「〜〜〜っ、もちろんだよ兄さん!大好き!!!」
ギューッとヴィンセント兄さんに抱きついいて叫んだ。
わたわたとするヴィンセント兄さんは、恐る恐ると言った感じに僕を抱き締め返してくれた。
ちらっと見えたボー兄さんは不機嫌そうな顔をしている。
「ボー兄さんも大好きだよ!!!!」
バッとボー兄さんに抱きつけば「ばっ・・・!やめろ、気色悪い」と言われた。
けどまぁ・・・そう言いつつ、兄さんは僕を引きはがそうとしなかったから、これで正解だと思う。
蝋人形に志願
仲良し兄弟。
この後ナマエ君はレスターにも「大好き」と言いながら抱きつきにいく。←