「ま、マイケルさん」
「・・・・・・」
「マイケルさんっ?」
「・・・・・・」
ベッドの上でぎゅーっと背後から抱きつかれたまま、ナマエは参考書を手にオロオロとする。
将来医者を目指すナマエの元にマイケル・マイヤーズが現れたのは極々最近のことだ。
マイケルが窓から侵入しても気づかず、背後で包丁を振り上げられても気づかず・・・
脳天が包丁が振り下ろされる瞬間に「ぉっと、鉛筆落としちゃった」と下を覗き込んだおかげで包丁は見事机に突き刺さった。
ドンッという音でようやく異変に気付いた彼の「・・・ん?」というあまりに緊張感のない声は、実はマイケルの耳に今でもよく残っている。
別にそれが理由で彼を殺さなかったわけではない。
理由は再度包丁を向けられた時の、彼の言葉にある。それは・・・
『ぼぼぼぼぼ、僕ッ、医者になりたいんです!どうか命だけはッ!!!!』
『・・・・・・』
『本気で医者になりたいんですっ!医者になって・・・――人様の臓器という臓器を合法的に見てハァハァしたいんです!!!!!!!』
純朴そうな顔立ちの彼の、まさかの変態発言である。
怯えながらもちゃっかりその腕に抱き締められた『人体の秘密‐ドキッ☆あの子の内臓の奥の奥まで!‐』には、彼自身の鼻血と思しき血痕がいくつか付いていた。
そんなナマエを珍妙なことにマイケルは気に入り・・・それ以来、よく窓から侵入してはナマエが医学書やパソコンの画面を見てハァハァしているのを眺めていくのだ。
「マイケルさぁーん?ぁの、どうかしましたか?」
「・・・・・・」
「あぁ、どうしよ――ぁっ、この臓器綺麗・・・あぁッ、内側の襞をそんなに見せちゃって、そんなっ!あぁっ・・・!!!」
・・・ボタボタッとナマエの鼻から赤い水が流れた。
参考書に載っている図解ごときで興奮できるとは、この男・・・一歩間違えればすぐ刑務所送りである。
ツンツンッ
「ぇ?あ、どうしました?マイケルさん」
背中をつんつんとされ首だけで振り返ると、マイケルの顔のドアップ。もちろんマスク越しだ。
「わっ!?ななななな、何ですか!?」
驚くナマエから顔を離し、一人ベッドから降りたマイケルは、ナマエの手をガッと掴んで歩き出す。
参考書がバサッと床に落ちてしまって「あぁ!僕の臓器が!」と叫んでいるナマエは真の変態である。
ナマエの手を引いたまま歩いて行ったのは窓の前。
「あのマイケルさん、一体何を――」
ガラガラッ!!!と勢いよく開かれた窓の外に、マイケルが飛んだ。もちろん、腕を掴まれていたナマエも強制参加だ。
因みに此処は二階で、運が悪くない限り落ちてもギリギリ助かる高さだ。
運よく無傷で着地出来たナマエは、あまりに突拍子もないことをするマイケルに「こ、怖いじゃないですかっ!」と声を上げる。
・・・怖いと言う前にその出っ放しの鼻血を拭け、というツッコミは今のところ誰もしてくれない。
マイケルはナマエの言葉に返答らしきものはせず、どんどん歩いていく。
「ぼ、僕、スリッパなんですけど」
室内用のスリッパを空いている手で指差すが、やはり返答はない。
返答がないまま、二人は近所の林まで来てしまう。
「ぁのっ、本当に何処行くのか教えてください。別に喋れないわけじゃないんですから・・・」
「・・・此処」
「ぇっ?」
ようやく喋ったマイケルに、ナマエは軽く驚き、マイケルのマスク越しに見える視線の先を見た。
それは・・・
赤く染まった一つの――死体だった。
刃物で喉を掻ききられたその死体は・・・腹を大きく開かれていた。
手足が縄で縛られ、大の字に固定されたその死体は、まるで理科のカエルの解剖のようだった。
そのグロテスクさと言ったら・・・ギャグ重視の表で表現してはいけないレベルである。←
そんな光景を目にしたら、普通度胆を抜かれ、その場に腰を抜かすだろう。
が・・・
「す、素敵ッ!!!!」
ナマエは顔を真っ赤に染めて、その惨状を見ていた。
鼻からは真新しい赤い水がぼたぼたと出ている。
「じ、実物は写真より興奮しますねっ、あぁ駄目!あの肝臓、とっても健康的!あぁ、大腸も素敵っ・・・あぁどうしよう、持って帰りたい!けど、時間が経過するとその鮮度が失われて・・・あぁ!こんな素敵なものを維持できないなんて!!!!」
鼻血がナマエの服を赤く染める。
もしこの場に第三者がいれば、きっとその人は犯人をナマエと断定するだろう。
「・・・また、見せる」
「ぇっ?また見せてくれるんですか?そんな・・・どうしようっ、マイケルさん。僕・・・ぅれしいですっ!!!」
ぱぁっと花が綻ぶような笑みを見せたナマエに、マイケルは何処か満足そうに頷いた。
これはある意味・・・
好きな子への貢物という扱いになるのだろうか?
純朴な変態
(臓器ハァハァッvV)
(・・・臓器にハァハァするナマエ面白可愛い)