アシタカは笑顔だった。
木の幹に背を預け、穏やかな表情で眠っている自分の兄を見ながら、笑っていた。
真面目で、常に村のために働いている兄の名前が、こうやって無防備に寝ていることなど少ない。
手元に開きっぱなしの書物があることから、読んでいる途中で寝てしまったのだろう。
「兄様・・・」
常に気難しそうな顔をしている名前の穏やかな寝顔に、アシタカはやはり笑顔で・・・
そっと名前に手を伸ばそうとする。
「ぁ・・・」
気配にでも反応したのか、ピクリッと反応をしめした名前は、目蓋を少し振るわせる。
ゆっくりと開かれた目は、ぼんやりとアシタカを映し出した。
「あぁ・・・アシタカか」
少し寝ぼけながらもその顔に微笑を浮べる名前。
アシタカはそんな兄に「おはようございます、兄様」と笑いかけた。
「ん。つい寝てしまったようだ」
名前は手元の書物を手に取り、困ったような顔をする。
「お疲れだったのでしょう。とても心地良さそうに眠っていました」
「ははっ。そうか」
優しく笑いながら頷き、アシタカを見る名前は「アシタカも休んだらどうだ」と言った。
「弱体化したこの村を守るために、アシタカは常に努力している。少しぐらい、気を抜いたって良いだろうに・・・」
「兄様には及びません。兄様は、外の村にも通用するように、常に勉学に励んでは夜中まで起きているではありませんか」
「弟の心配をするのは、兄の務めだ」
そう言いながら書物を小脇に置き、アシタカに手を差し伸べた名前。
その手をそっと取れば、クィッと優しく引っ張られ、アシタカの身体は名前の方へと傾いた。
トスンッと小さな音がしたと思えば、アシタカは名前の腕の中にいた。
「兄様・・・」
「アシタカも寝てみなさい。心地が良いよ・・・この村が、平和で美しい証拠だ」
空を見て目を細めた兄の顔を見ながら、アシタカも小さく笑った。
「はい・・・兄様」
名前の胸に顔を寄せ、ゆっくりと目を閉じるアシタカ。
しばらくして聞こえた寝息に、名前はクスリッと笑う。
「・・・おやすみ。アシタカ」
優しい優しい声でそういった名前は、アシタカの頭を優しく撫で、自分も再び目を閉じた。
ゆっくりおやすみ穏やかな寝息が二つ、その場を凪がした。