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今日は沢山働いた。

昨日の沢山働いた。

明日も沢山働くんだ。



毎日毎日毎日・・・


俺は死に物狂いで働く。



だって・・・

そうじゃないと、俺は無心でいられないから。







「名前・・・」


「・・・ッ!」

背後からかけられた声に、俺の身体は一瞬硬直した。




「少し、良いか」

「ぃ、今・・・仕事中ですから」


後ろを振り返りもせずそう返事をした俺は、そのまますたすたとありもしない仕事のために歩いていく。





「ぁの、仕事はありませんか?風呂洗いでも何でも構いませんから」

番台で仕事を要求すれば「お前、最近仕事ばかりだぞ?」と言葉をかけられる。




「良いんです・・・沢山、仕事をください」


「まぁ、お前が良いならかまわないが」


「はい。有難う御座います」

仕事を沢山貰って、俺は仕事場へ向かう。





そう。

俺が仕事をしたいのは、“あの人”を避けるため。





「・・・・・・」


少し離れた場所からこっちへ向けられる視線。

その視線の主は知ってる。


無下には出来ない人。上司にあたる人。







彼は――ハク様。







あの綺麗なお顔を苦しげに歪めて、こちらを見ている。


その表情は、数日前の“あの日”に見た表情。







――好きなんだ・・・







苦しげな表情で俺にそう告げたあの人は、今も苦しんでいる。

あの言葉を聞いた俺は、ただただ黙って逃げ出したんだ。



返事もしないで、逃げた。


ハク様を避けるように仕事をする。

話しかけてきても仕事を理由に断る。


そうじゃないと、俺の中の何かが壊れてしまいそうだったから。





「・・・酷い男だ。俺は」


返事をしてやれば良いのにと、心の中の自分が言っている。


けれど、正直わからないんだ。

俺は・・・――ハク様をどう思っているんだ?


わからない。

わからないまま、返事が出来るわけないじゃないか。




「・・・ぁっ」

汚れた大きな風呂を洗うために使おうとしていた札がポロッと落ちて、カターンッと音を響かせた。


水と泡のせいで滑って、その札は遠くへ落ちてしまう。




「・・・・・・」


取りに行かなければ。

そう思っていると、その札を別の手が拾い上げた。







「ぁッ・・・」


そこには、苦しげな表情で札を握り締めているハク様がいて、俺はどうやって逃げようか・・・それだけしか考えられなかった。





「・・・名前・・・すまない」


「・・・ぁの」



「迷惑なことを言ってしまったと思ってる・・・しかし・・・」


ハク様が震えているのがわかる。

けれど、俺はその震えているハク様を抱き締めるなんてことは出来ない。


自分の気持ちがわからない。

ただただ・・・







ハク様にこんな顔をさせてしまう自分自身が嫌で嫌で仕方なかった。







仕事をしていれば、自分に対して嫌悪しなくて済むのに・・・


「名前ッ」

あぁ、そんな悲痛な声で俺の名前を呼ばないでッ!



「ハク、様・・・」


「好きなんだ・・・っ、どうしようもなく」

「・・・・・・」




「気持ち悪いと思われても仕方ないッ、けど・・・・・・――せめて、返事を聞かせて欲しい」


「ッ・・・!」





ずっと逃げてきたんだ。

返事の言葉がわからなくて。




「ハク様・・・」

「名前っ、お願いだ・・・」



ポロッと・・・

ハク様の目から涙が流れた。



俺は呆然とする。

あの気丈なハク様が、泣いている。



「ッ・・・ハク様っ」


「っ!」

ギュッと、ハク様を抱き締めた。

その顔を見ないで済むように、ハク様の顔を自分の胸へと押し当てる。



「俺っ・・・自分の気持ちとか、わからなくてッ」

「名前・・・」



「けどッ・・・ハク様が泣いてしまうのは、辛いですッ」

「・・・・・・」



泣かないで。

泣かせるために避けてたんじゃないのに。




・・・あれ?


じゃぁ、俺は何のために逃げてきたんだろう。




結果的に、こうやってハク様を抱き締めている俺は、何がしたいんだろう。





「ハク様・・・」

「・・・名前は・・・私のことが・・・嫌い、か?」


「・・・嫌いじゃないです」

この言葉はすんなりと出るのに・・・




「じゃぁ・・・好き、か?」


「・・・・・・」




ほら。

言葉が出てこない。




「私に気を遣わないで・・・・・・正直に言って欲しい」

ハク様の言葉に、心臓が煩くなる。



俺の胸に顔を押し当てたままのハク様は、きっと気付いてる。

どんどん呼吸が苦しくなってくるような感覚。


俺は・・・










「好きって・・・ぃいたい、ですッ」










言ったら、何かが壊れる気がした。

毎日仕事に追われる日々に、何かの亀裂が入る気がしてた。


俺はッ、俺は――






「有難う・・・」

「・・・ッ」


亀裂に、何かが埋められていく。



「有難うっ、名前・・・」


ハク様が、胸から顔を離し、俺を見上げていた。

その顔は、綺麗な微笑みを讃え・・・




「っ、ハク様ぁっ」

代わりに俺の目から涙がボロボロとこぼれてきた。



本当はッ、









「ぁなたがっ、大好きッ・・・です」


「っ、有難う・・・」








本音を言うことが怖かったんです。

日常が変わるのが、怖かっただけなんです。




こんな俺を・・・

貴方は許してくれますか・・・?




気丈な貴方





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