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正直言ってね、別に深い意味はなかったんだ。


俺の戦い方は汚いか?なんて尋ねてきた一つ格上のヒーローが何だか寂しそうな顔をしてて・・・

たぶん『はい』なんて答えたら、きっとこの人泣くだろうなって思って・・・



『んー、僕は別に泥仕合でも良いと思いますよ。何度倒れたって、何度も立ち上がり敵に立ち向かう・・・格好良いんじゃないですか?僕は結構好きですよ』



実際、敵に何度やられても再生する彼の能力は凄いしね。


過去に何かあって手に入れた能力だと誰かが言っていた気もするけど、正直彼の過去なんてどうだって良かった。

だって僕、別に彼の事なんてどーでも良かったし。


でもまさか僕のあの言葉が――








「んっ、ん・・・名前・・・」

「・・・・・・」



彼の心をこんなにまで揺り動かしていたなんて、想像できるはずもなかった。



僕の膝に跨り、首に腕を回しながら何度もキスをしてくるのは、S級ヒーローのゾンビマンさん。

対して僕はと言えば、A級ヒーロー。まぁ、A級だけどその中でもランクは下の方。別に現状に満足しているし、更に上を目指そうなんてのは思ってはいない。


最初のヒーロー認定試験でまぁまぁの好成績を残しA級になっただけで、後は大して大きな活動もしていないし、今後ランクが上がる見込みはないだろう。

そんな、ヒーローとしては無気力すぎる僕にどうやら自惚れ抜きでゾンビマンさんは惚れてしまっているらしい。もはや依存レベルで。


明らかに初対面の時の会話が影響してしまっている。逆に言えば、あの時あんなこと言わなければ、こんな状況には陥らなかったのに。





「ゾンビマンさん・・・」

「ん、はぁっ・・・名前・・・?」


引きはがすのも面倒で好きにさせてたけど、そろそろ口の周りが唾液でべちょべちょだ。どれだけキスしてたか忘れた。

同じく唾液でべちょべちょなゾンビマンさんが、突然自分の名を呼んだ僕にきょとんとしたような顔をする。



その赤い目で僕を真っ直ぐ・・・熱っぽい目で見つめている。

怪人が出たらその熱っぽい目も何時ものヒーローの目になるのだろうけど、今の様子じゃ想像もできない。



僕だって仮にもヒーローだし、怪人が出ればそこへ向かう。まぁ、それ以外はずっと家の中でのっそりとしているけれど。

そんな家の中でのっそりとしている僕のもとへ、彼は来る。


ベッドの上で胡坐を掻いてぼんやりしている僕の膝に跨ってキスをして、時にそのままもっと深い行為をして・・・






何で、そういう風になったのだろうか。


僕はほぼ適当に返しただけだ。

一応はヒーローだし、相手が傷つくようなことは言わないようにしただけ。


ゾンビマンさんの戦い方を汚いとは思ってなかったが、あの返しに他意なんてなかった。




だからこそ、ゾンビマンさんは僕に惚れるべきではないと思う。

僕よりずっと真剣に真っ直ぐゾンビマンさんを愛している人は確実にいると思う。何故なら彼はS級ヒーローで、強くて美形な人気者。


ということで――









「そろそろやめませんか?僕にこうやって纏わりついてるの」








その瞬間、ゾンビマンさんが心底ショックを受けたような顔をした。


ただでさえ青白い顔を真っ白にさせ、次第にがたがたと震えだすゾンビマンさん。

赤い目からはボロボロと涙を零し、口からは小さく「やだっ、やだ・・・」という言葉が零れはじめた。



「名前っ、ご、ごめっ、ごめんなさい、俺っ、鬱陶しかった?こ、今度から、もっと良い子にする、からっ・・・だから、す、捨て、捨てないでっ、やだっ、捨てないでッ、一緒にいて、やだやだ、ヤダヤダ!や、だ・・・」

泣きながら僕の胸にすがりついて来るゾンビマンさん。

引きはがすには強すぎる力で僕にくっ付いて、離れない。




「・・・・・・」

どうやら僕は、相手のことを想って言葉を発すると、相手を傷つけてしまうらしい。




それを何となく理解しながら、僕は僕の胸に縋り付いたまま小さな子供のように泣いているゾンビマンさんを眺めた。

S級ヒーローが、こんな正義感の欠片も無い名ばかりA級ヒーローに縋り付いて泣いている。



実に滑稽な話だろう。


明らかにこのS級ヒーローの僕への愛は盲目的だ。

正気に戻るべきだろうが、正気に戻る見込みがない。


僕から離れるチャンスを僕自身が与えているのに、この有様。


あぁ・・・救えない。



元々相手を救いたいなんていう殊勝な心は僕の中にはないのだけれど、たまにはヒーローらしいことをしようと思ったのに、全くもって救えない。





「ゾンビマンさん」


名を呼べば、ゾンビマンさんがビクッと震える。

そして、不安と涙で濡れた眼で僕を見上げるのだ。



「キスしましょうか」

「!・・・あぁ」


泣きじゃくってた癖に、顔に浮かぶのは満面の笑み。

キスするだけで大人しくなるのだ。そう考えると、大分お手軽なのかもしれない。


明らかに救えてない。それどころか、今此処で黙認したら現状が悪化することは目に見えている。

これ以上依存させるわけにはいかない。そんなの、彼のためにはならないだろう。



彼の僕に対する愛は盲目。健全じゃない。普通じゃない。異常だ。

無気力な僕にだってそれぐらいのことは思考出来るのに、彼はそんな思考すら出来なくなっているのだ。



全部全部、僕を好きになってしまったから。





「ん、ぅ・・・名前、好き・・・」

「・・・・・・」


「俺の事・・・好き?」

「・・・まぁ、はい」






あ。






自然と口から出た台詞に僕は唐突に気づいてしまった。

あぁ、そうか。うん、まぁ・・・


僕が“相手のことを想って”言葉を発した時点で、これはもう決まっていたことだったのかもしれない。

その後『捨てない?』や『一緒に居てくれる?』という質問に対しても同じような返事をしてしまった僕は・・・








――彼と同じように、相手に依存している。








僕の返事に心底嬉しそうな顔をして、心底幸せそうに頬を寄せている、そんなゾンビマンさんをじっと見つめる。




「ゾンビマンさん」

「なん――ん、ぅ」


突然の僕からのキスに、彼は目が零れちゃいそうなほど大きく目を見開いた。



キスなんて優しいものじゃないかもしれない。

もはや“貪る”という表現の方が合う程、僕は彼の口内をぐちゃぐちゃに荒らした。


最初こそ驚きに目を見開いていた彼だったが、すぐに先程までの心底幸せそうな顔に戻り、俺の首に回した腕の力を強め・・・もっともっとと僕を求めた。








嗚呼・・・


救えない。




救いなんてありゃしない






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