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※重役のゼイミート氏(ガロウから頬に一発喰らったオッサン)成代り



昔から俺は要領だけは良かった。

タイミングが良いとも言うのかもしれない。


何気なく呟く言葉が相手に気に入られたり、適当にやったことが偶然にも良い結果になることなんてしょっちゅう。

何時もそうだった俺は何時の間にかこの若さにしてヒーロー協会の重役になってた。

別に何か努力をしたとかそういうわけではなく、周囲が勝手に上へ上へと俺を上げていったんだ。



重役と言っても、特にやることなんてない。

会議ではただ椅子に座って、知ったか顔で「成程」と呟いていればそれで良い。


偉そうに椅子に座っているだけでお金が舞い込んでくるなんて、人生イージーモード過ぎる。

・・・まぁ正直、味気ないなと思わないわけでもない。



毎日毎日、何もしてないのに舞い込んでくる多額の金。こんな役立たずに支払う給料とはとても思えない。

けれど金は使わないとただただ溜まっていくし、俺は重役として舞い込んできたその多額の金でギャンブルをしたりキャバクラに通ったりした・・・


まさに駄目な大人の典型。ヒーローに憧れる子供には見せられないな。






「きゃー♥名前さん、今日も来てくれたのー?」

「おー。皆久しぶりー」


「見てみて名前さぁん♥この前名前さんから貰ったピアス、今日着けてるのよ♥」

「おぉ、似合う似合う。やっぱり美人は何でも似合うなぁ」

「やだぁ、名前さんったらぁ♥」



きゃいきゃい騒ぎながら纏わり付いて来るキャバ嬢たち。

正直この前誰にピアス上げたかとか、そもそもピアスなんて買ったっけとか思いはするが、口にはしない。口は災いの元だ。


適当に酒を注文すれば彼女たちは喜び、更に上がる密着率。ちょっと暑苦しい。




「名前さんってホント素敵♥見た目も格好良いし、性格もとっても優しいし、しかもヒーロー協会の重役!憧れちゃうわぁ、私♥」

「名前さんだったら、A級のアマイマスクみたいにイケメンヒーロー狙えるんじゃなぁい?」



まさかまさか。

俺がヒーロー?こんな駄目人間がヒーローなんて、それこそヒーローに憧れる子供に悪影響だ。


そもそも彼女たちが言う俺の『素敵』なところの大半は『金』だろう。まぁその金で彼女たちを侍らせている俺が言えることではないけれど。




「・・・ははっ、アマイマスクかぁ。ヒーロー協会の本部で何度か会ったことあるなぁ」

「え!ほんとぅ?」

「私、大ファンなんだけどー♥」



ちなみにこれは虚偽ではない。

一応は俺も重役だし、A級やS級との面識はきちんとある。・・・まぁその時も俺は椅子に座って珈琲啜ってただけだけど。


アマイマスクで思い出したが、そういえば彼と初めて会った翌日から自宅宛てによく荷物が届く。

送り主はまさかのアマイマスクで、送られてくるのは質の良いスーツだったりネクタイだったりハンカチだったり・・・まぁ邪魔になるものではないし、普段から普通に使ってはいるけど。こんな無能重役に媚びなくたって彼の地位は揺るがないのに、意外に律儀だ。





「アマイマスクにも会えるなんて、名前さんってホントすごぉい♥」

「この間はバッグも買ってくれたし、やっぱりヒーロー協会って儲かるのぉ?」


儲かるっていうか、ヒーロー協会はそもそも民間からの寄付金だからなぁ。




「何なに?そんなこと俺に聞くなんて、また何か買って欲しいのか?」

「うふふっ♥だめぇ?名前さん」


彼女たちは自分の欲望に忠実だ。客に貢がせるために己の美しさを磨く努力は惜しまないし、俺みたいにやる事ないからぶらぶら飲み歩いてる駄目人間よりかはずっと良い性格してると思う。




「んー・・・ほっぺにチューしてくれたら、考えないでもないなー」

「えぇ♥それだけで良いのぉ?」

「名前さんがほっぺで良いなら、いくらでもしてあげるぅ♥」


冗談のつもりだったんだけど、どうやら彼女達はノリノリらしい。




「美女からのチューなんて俺には勿体ないなぁ。あ、ついでにアマイマスクにも会わせてあげようか」

この間届いたワインと一緒にアドレスの書かれたカードも入ってたし、そこに連絡すれば大丈夫だろう。



「名前さんったら太っ腹ぁ!」

「ねぇ、ホントにチューだけで良いのぉ?」

「良いよ良いよ」


正直そんなことしなくてもアクセサリーの一つや二つ買って上げるのに。

まぁ美女からキスして貰えるのは役得かと思いながら彼女たちのキスを待っていると、トントンッと肩を叩かれた。






「俺にも会わせてくれよ」






振り返り視界に入れた人物に俺は少しだけ目を見開いた。



ガロウだ。

現在ヒーロー協会で要注意人物として扱われている、怪人。


まさかそんな人物が自分の背後にいたとは思わず、俺はごくりと息を飲んだ。




「ほっぺにチューしてやるからよ」

ぱちんっと右目を閉じてウインクして見せながら右拳にチュッとキスをしてみせるガロウ。

たらりと汗が頬を伝う。



・・・ヤバイ。あの言動、あの動き・・・確実に顔面に一発喰らうコースだ。

どうすれば良い?このままだと本気でヤバイぞ。ヒーロー協会に連絡?いや、そんな暇ないだろ。


マジでどうすれば良いんだ?普段何も考えてないせいでいざという時も全然頭が働かない。

もしかすると、今までの駄目な生き方のツケ?ツケでフルボッコにされるのか?

命乞いでもするか?顔面に一発喰らうのは免れないとしても、命だけは助けて貰えるかもしれん。


自分でも無様だとは思うが、そもそも俺には死んでも守りたいプライドがあるわけではない。そんな誇り高い人間ではない。






「・・・と、思ったが止めておこう」


「へぁっ?」

緊張のあまり変な声が出た。


よし土下座しようと少し屈もうとした俺はその変な体勢のまま固まった。

ガロウはと言えば握り込んでいた拳をパッと開き、ニヤァッと笑う。





「逆に言ってやるよ・・・殴られたくなけりゃ、俺のほっぺにチューしてみろ」

あ、これ精神的に殺しにかかってくるヤツだ。





自分の頬をちょんちょんと指差して言うガロウに俺は「え、あ・・・」と視線を漂わせる。

痛い。痛すぎる。男が男のほっぺにチューとか、痛すぎるだろう!


それを分かっていてガロウはそんなことを言っているのだとしたら、相当なやり手だ。

俺はごくりと息を飲む。


ほっぺにチュー?よ、よし、それぐらいやってやる。俺だって殴られるのは嫌だ。

今も傍でぽかんとした表情のまま待機しているキャバ嬢たちには失望されるかもしれないが、別に構わない。次回から別の店に行けば良いだけの話だ。





「わかった」

俺はこくりと頷き、ガロウに一歩近づき。


その時、何故かガロウが吃驚した顔をした。どうした。

・・・こういうのは、時間が長引けば長引くほど気まずくなるもんだ。キスは一瞬だ。一瞬で終わらせてやる。


俺はガロウの顔にずいっと顔を近づき、頬にキスを――





「うぉっ!?」


避 け ら れ た






まさか避けられるとは思っていなかった俺はぽかんっとガロウを見る。


「おまっ・・・ほ、ほんとにやらなくたって良いだろ!?」

「えっ、チューしたら殴らないんじゃ・・・」


「冗談に決まってんだろっ!?そ、それぐらい察せよ!」

「じょ、冗談だったのか、その、悪い」


「そ、それに、出会っていきなりチューとか、手が早すぎるだろ。こういうのは、何度かデートしてからで・・・」




何言ってんのコイツ。

手が早いとかデートとか、意味不明な言葉を口走って何故だか勝手に顔を赤くしているガロウ。



「お、おい大丈夫か?何か変な事口走ってるが、熱でもあるのか?」

「そ、そうやって優しいフリして、俺の事誑かす気だろ!」

「誑かす!?」



「っ・・・ヒーローでもないただの重役だと思ったら、とんだ詐欺師だった。今夜は分が悪い・・・きょ、今日は見逃してやる。次はないからな!」

最初から最後まで意味不明だったガロウはそのまま光の速さで去って行った。








「・・・は?」

ぽかんとしていた俺が発することが出来た言葉は、たったの一文字だった。


え?今の何?何だったんだ?と困惑する俺。





「・・・ねぇ名前さぁん」

ぐいっと腕を引っ張られた。あぁそうだった、キャバ嬢たちと一緒だったんだ。



「チューしないのぉ?」

「野郎にチューされるより、私達の方が嬉しいわよねぇ?」


何やら怒った表情をしてガロウが去って行った方向を見ている彼女たち。

彼女たちはこちらを見て「ね?」と言って来たが、その表情がなかなかに威圧的。



俺はとりあえず「美女からのチューがご褒美さ」と笑えば、両サイドからチューとキスをされた。

・・・さて、何処のアクセサリーショップに入ろうか。







重役さんはモッテモテ








翌日から、アマイマスクからの贈り物に加えガロウからだと思われる贈り物も増えた。


「・・・協会に報告すべきだろうか」

送られてきた焼酎を片手に、俺はどうするか悩んだ。



あとがき

イケメンでフェロモン駄々漏れのヒーロー協会重役さん。
ぼんやりしてるだけでヒーロー協会の重役になれるレベルの良い男。本人は要領が良いだけだと思っているから自覚はない。




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