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始まりは、書斎にて書類に判子を押していた時のことだった。





「名前様!ボディーガードを雇いましょう!」





「・・・ボディーガード?」

執事の言葉に私は小首をかしげる。



「はい!名前様の身に何かあってからでは遅すぎます!どうかご検討下さいませ!」


必死な表情の執事。


確かに最近、私の暗殺を仄めかす噂もよく耳にする。

一応SPは雇っているが、手練の暗殺者が差し向けられた場合はSPが何処まで機能するかわからない。


最悪、眠っている間に部屋に忍び込まれて殺される、ということもあるのだろう。




正直なところ、何が何でも生き残りたいと言う訳ではないが、無論死にたいわけでもないのだ。命があるに越したことはない。

どうせ最後に散る命だが、ボディーガードを雇えば生きられる時間が長引くと言うなら、雇うのもまぁ良いだろう。



「わかった。すぐに雇おう」









で、雇ったは良いのだが・・・



「・・・ソニック君、だったかな」

「あぁ」


「君が優秀なのは良く分かった。この短期間に暗殺者を3人も始末してくれたのには、本当に驚かされたよ」


真夜中の間に忍び込んできた暗殺者が一人、SPの中に紛れていた暗殺者が一人、料理人に紛れていた暗殺者が一人・・・今後、雇用関連に見直す必要があるようだ。




「雑魚ばかりだったからな」

「あぁ、そうかい。けどまぁ、それより私は少々気になることがあってね・・・」


「何だ」

「いや、その・・・――何故、私の布団に何食わぬ顔で入っているんだい?」




「護衛の為だ」




護衛の為なら仕方ないな、とはならないぞ私は。

この護衛、何故だかわからないが私との距離が異常に近い気がする。


私が机に向かって仕事をしていればぴっとりと背中にくっ付いているし、食事の際は自分が一口食べて私に『あーん』をするのが通例となっている。挙句の果てには風呂やトイレにまで付いて来たが・・・流石にトイレの個室にまで付いて来そうになった時は追い出した。







「ソニック君、君はとても優秀だ。私は君を評価している」

「ほぉ、光栄だな」


「だからこそ、こんなに近くなくても良いと思うんだ。忍者とは、あれだろう・・・気配を消して、天井裏とかに隠れているものだろう・・・あぁ、もちろん君を天井裏に追いやりたい訳ではない。だがせめて、もう少し・・・」


「言いたいことはわかった」

私の言葉を遮り大きく頷いた彼。




「もっと布団に潜れということだな」

「何もわかってなかったみたいで私はとても驚いているよ」


もぞもぞと下へ潜りぎゅっと私の腹あたりに抱き付いて来た彼に頭を抱える。





忍者とはこういうものなのだろうか。忍者を雇ったのはこれが初めてだから何が正解で何が不正解なのかはわからないが、この状況が可笑しいのはわかる。可笑しいだろう、これは。



「どうした、眠れないのか」

「おかげ様でね」


彼が私の言葉をどう取ったのかわからないが、何やら満足そうに「そうか」と頷く限りは好意的な方に受け取られたようだ。

ぎゅぅぎゅぅと私の腹に抱き付いたままの彼は私よりも若い。それにとても美しい。



・・・若くて美しい青年をベッドの中に入れるなんて、他の者が見たら何を思うか。想像するだけで恐ろしい。まぁ尤も、使用人や他のSPには既に見られているため、もはや諦めムードも漂っているが。







「そういう君は、眠らないのかい」

「仕事中だからな」


布団の中を覗き込めば、こちらを見上げている彼と目が合う。薄暗い部屋の中なのに、きらりと彼の目が光って見えた。

まるで猫のようだ。そう思いながらほんの少し、軽く頭を撫でてみる。すると彼は気持ちよさそうに目を細め私の腹に頬を摺り寄せた。




「明日も早いんだろう。早く寝ろ」

「・・・君ねぇ」


私の気苦労も知らずにそんなことを言う彼に苦笑いするが、確かに明日も早い。大事な会議の予定も会合の予定も詰まってる。

彼のせいで眠気なんて吹っ飛んでいるが、目を閉じればいずれ眠りに着けるだろう。




「君は他の護衛対象にもこんなことをするのかい?余計なお世話かもしれないが、あまりそういうことはしない方が良い」

そっと頭を撫でながら言えば、彼は黙ったまま私を見つめた。



「契約期間はそう長くはないが、私の命を守ってくれる君のことを私はあまり雑には扱えないんだ。だから君も、自分を大事にして欲しい」


わかったね?と言い、私はゆっくり目を閉じた。




彼がくっ付いているからだろうか。じんわりと身体が温かく、思ったよりもすぐに眠気は戻ってきた。

すりっと腹に摺り寄せわれる彼の頭を撫でながら、私はうつらうつらとその意識を眠りの中へといざなっていく。






「・・・・・・」


私の意識が消える間際、彼が何かを言っている気がしたが、私には聞き取ることが出来なかった。



明日も早い。出来ることなら、明日はもう少し距離感を大事にして貰おう。私と彼の契約期間はそう長くないのだから、私のもとにいる間はもっと自分を大事にして貰おう。








適切な距離感








「・・・誰にでもするわけ、ないだろう」

今日からよろしく頼むよ。そう言ってほほ笑む男を見た瞬間から、ソニックはその男を他の客と同じ扱いには出来なかった。


契約期間は後少し。彼は今、どうにかしてその契約期間を伸ばす方法を探している。




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