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学生の頃、僕はクラスで孤立していた。



何が理由だったかはわからない。何となくクラスメイトと話が弾まなくて、気付けばクラスのどのグループにも入れず、気付いたら孤立していた。

明確な虐めを受けていた訳ではない。ただ、僕が何かすれば冷ややかな視線を送られた。被害妄想だったのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。今となってはわからないけど、当時の僕はただずっと息を潜めていた。誰にも気づかれないように、こそこそとしていた。


そんな僕にも、憧れた人がいた。

僕にとっての太陽だった、と言っても過言ではない。


眩しい人だった。眩し過ぎる人だった。

薄暗い世界で、薄暗い気持ちの僕とは大違いの、輝く人。





グループに入れない僕とは違い、彼はグループに入らなかった。入れないのと入らないのでは、大きな違いだ。

休み時間はぼーっと窓の外を眺めていて、時折友達と喋って笑って・・・


彼に特別何かして貰ったわけでもないのに、僕にとって彼は毎日きらきらと輝いていた。





僕は孤独だったんだと思う。

喜怒哀楽の中で哀しかなかったんだと思う。


自分から何もしない癖に、一人勝手に悲しみに暮れていじける、そんなどうしようもないヤツだった。

だから友達が出来なかった。だから誰にも歩み寄れなかった。だから僕には薄暗い場所しか似合わなかった。

全ての原因は僕にあった。孤独だったのは自業自得だった。






それでも僕は・・・


誰かがこの孤独から僕を救い出してくれるんじゃないか、出来るならそれは彼が良いな・・・そんな幻想を抱いていた。

幻想だった。幻想のはずだったんだ。なのに、なのに――








「おい、大丈夫か?」

「ぇっ、あ・・・」


その場で尻餅をついたまま呆然としている僕。

そんな僕に、手を差し出す彼。


足元に転がっているのは、僕が踏ん付けて転ぶ原因となったテニスボール。きっとテニス部が使ったボールが置き去りになっていたのだろう。




じんじんと尻が痛い。けど、それ以上の衝撃が目の前にいる。

彼がいる。彼が僕に話しかけ、あまつさえ手を差し出している。


これは夢だろうか。頬を指でつまむべきだろうか。



そう思った時、がしりと腕か掴まれ、思いっきり引っ張られた。

唖然としたまま固まっていた僕に痺れを切らしたのだろう。反射的に立ち上がった僕の目の前の彼が「怪我はなさそうだな」と言う。





「あ、えと・・・あのっ」

「名前だったよな」


「えっ・・・あ、うん」

クラスメイトとはいえ、彼が僕の名前を知っているとは思わなかった。

彼の口から紡がれた自分の名前は、まるで自分のものじゃないかのようにキラキラしていた。


きっと彼が僕の憧れの人だからだろう。彼の一挙一動が神聖なものに見えて仕方がないのだ。

握られたままの腕。恥ずかしくて少し視線を逸らす。







「どうした、何処か痛いのか」

痛いと言えば尻が少し痛いけど、そんなのすぐに治るだろう。


「う、ううん。平気」

「そうか」

彼の手が腕から離れる。それがとても寂しくて・・・





「ん?」

「あっ、ご、ごめん・・・」

気付けば離れた彼の手を掴んでいた。


何て失礼なことをしてしまったんだろう。折角親切にしてくれた彼に不快な思いをさせたら、僕は一体どうしたら良いのだろう。





「何だ?」

「あ、有難う・・・わざわざ、手を貸してくれて」

「目の前で派手に尻餅付いたからな」


少し笑った彼に恥ずかしくなる。そうだ、彼の目の前で尻餅をついたのだ。

正面を歩く彼に見とれ、足元が疎かになって・・・


あぁ、冷静になるととても恥ずかしいな。何か言い訳が出来れば良いのに、口下手な僕は上手い言い訳すら思い浮かばない。





「で?どうしたんだ?」

特に理由があったわけじゃない。ただ、折角の機会をみすみす逃すのが嫌で、咄嗟に引き留めてしまって・・・

けど何か特別に言いたいことがあるかと聞かれれば違う。本当に、後先考えずに引き留めてしまったから、何と言えば良いのか、わからないし、だから・・・




「・・・ぇ、と」

「・・・・・・」


真っ直ぐ見つめられてる。

彼に、憧れの彼に!



「ず、ずっと・・・」

「ずっと?」




「ずっと憧れてましたっ!!!」




咄嗟に出た言葉がこれで、自分でも吃驚するぐらいの大声で言ってしまう。

目の前の彼は目をぱちくりと瞬かせて、それから少し恥ずかしそうに笑った。








憧れてました!








「・・・今日、一緒帰るか?」

「えっ!」

ぽりぽりと頬を掻きながら言う彼に、僕はぶわりと頬が熱くなるのを感じた。




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