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『兄ちゃん!俺、ヒーローになるから』



ある日突然そう言い放った弟に、私は『そうか』と笑った。


そうしたいなら、そうしなさい。

私はお前の進む道を全力で応援しよう。




それから3年。時の流れとは早いものだ。

弟は立派なヒーローになった。そりゃもう、強く強く・・・





『なんかさぁ、つまんねぇ・・・』




・・・どうやら弟は強くなりすぎてしまったらしい。


怪人を倒しながら、何処か詰まらなそうな顔をしている弟。

あんなになりたがっていたヒーローなのに、弟の表情は冴えない。


兄としては、もっと楽しんで欲しいものなのに、やっぱり弟は退屈そうだ。

兄である私は、可愛い可愛い弟が退屈がっていたので・・・







「フッハッハッ!!!!今日こそは貴様を倒してやるぞ――サイタマ!!!!」


――私は怪人になった。







スタンッとベランダに降り立った私は声を大にして部屋の中へと呼びかけた。

普段なら此処でサイタマが出てくるはずなのだが・・・



「先生、怪人が!ここは俺に任せてください!!!!」



おや?誰かな、この子は。


彼の言う先生がこの部屋の主のサイタマであるとすれば、この子はサイタマの生徒ということなのだろうか。

それは喜ばしいことだ。弟は案外面倒見が良い部分もあるし、この子とも上手くやっていけているだろう。




「焼却する!」

弟の成長にほくほくしていた私のことなど知らず、その子は私の方へ手のひらを向けた。

その瞬間、ボワッ!!!と私を包む熱。





「・・・ふむ」

「なっ・・・!」


暑いな、と軽く手で扇いでいると、その子は驚愕の目を私に向ける。


どうやらこの子は私の事を敵だと思っているらしい。まぁ仕方ない。何故なら私は怪人だから。

けれども、可愛い弟の生徒を傷つけるなんて私にはできない。私はただ、弟と戦いに来ただけだ。





「お、兄ちゃん」


その時、今まで部屋の隅に寝転がって漫画を読んでいた弟が身を起こしてこちらを見て、声を上げた。

弟の言葉に生徒の子が唖然として「・・・兄ちゃん?」と弟の言葉を反復する。



「サイタマ、この子は誰かな?」

「んー・・・弟子?」


私はさっきまで浮かべていた悪役面を引っ込めて、普段の笑みを浮かべる。

私の様子にも生徒改め弟子の子は唖然としているが、今は気にしない。



「そう、弟子かい。何時もならサイタマが飛び出してくるのに、今日はこの子が出てきて吃驚したよ。サイタマ、これはお土産のケーキ。二つあるから、二人でお食べ」

「おー、何時も悪いな兄ちゃん」


「ううん、構わないさ。ところで、弟子の子の名前を聞いても良いかな?私は名前、サイタマの兄だよ」


ケーキの箱をサイタマに渡して、笑顔で弟子の子を見れば、弟子の子はビクッと肩を震わせた。





「ぁ、あの・・・俺は、先生の弟子のジェノスです。その・・・先生のお兄様だとは知らず、とんだ無礼を・・・」

「いやいや、良いんだよ。まさか、ヒーローの兄が怪人だとは誰も思わないだろう?仕方のないことさ」


「有難うございます・・・それで、あの・・・何故、怪人なんですか」

その問いかけに私は笑みを深める。





「弟の退屈を少しでも減らしたくってね」

「先生の、ために?」


きょとんとした顔。

見た所サイボーグのようだけど、表情は割と豊かなようだ。安心した。



「弟を窮地に追いやるような怪人も現れず、ライバルすら登場しない。そんな毎日は非常につまらないだろう?だから私が、弟にとって敵でありライバルであれるような存在になろうと思ったんだ」


あ、サイタマが欠伸してる。

この子は長い話が苦手だからね。



「まぁ・・・私に出来ることといったら、これぐらいしかないからね」

「名前さん・・・」


おや?心なしかジェノス君の目がキラキラと・・・


「流石は先生のお兄様。出来たお人だ」


「え?あ、有難う」

手をぎゅっと握られた。サイタマが面倒臭そうな顔をしている。



「先生、名前さんの分の夕食も用意しましょうか」

「おぅ、頼む」

サイタマの許可が出た途端、ジェノス君が台所へと駆けて行った。









「サイタマ、食べていって良いのかい?」

「ジェノスも張り切ってるからな。兄ちゃんもたまにはゆっくりしてけよ。戦いはまた今度な」


ジェノス君が台所へ行っている間、二人で取り留めもなく話した。

例えば同じ鍛え方をしたの何故サイタマは禿げて私は禿げなかったのか、とか。ちなみに私は禿げなかったが総白髪になった。




「兄ちゃんは染めればどうにかなるけど、俺はどうにもならねぇよ・・・」

「うーん・・・私は別にそう落ち込むことはないと思うけどな。ほら、何だか丸っこくて可愛い」


「嫌味か」

「褒めてるんだよ」

ベシッと肩を叩かれたから、私も笑いながら叩き返した。

ちなみにこの勢いで知人の肩を叩いたら、知人の肩は複雑骨折を起こした。今でも悪かったと思っている。







「先生、名前さん、準備が出来ました」


ジェノス君の声で話は一旦中断。私も運ぶのを手伝おうとすれば「名前さんはゆっくりしててください」と追い返されてしまった。

ちなみにサイタマも前に同じようなことを言われたらしく、私の隣でだらだらと胡坐を掻いている。


目の前に運ばれてくる料理はなかなかの出来で、お腹がぐぅっと鳴った。



「あぁそうだ、お茶淹れてきます」

最後の料理を運び終えた途端、そう言って台所へ戻って行くジェノス君に、私はサイタマと目配せした。



「良い弟子だね」

「たまに面倒だけどな」


そう言いながら先に「いただきまーす」とご飯を掻き込みだすサイタマにくすっと笑った。

私はしばらくジェノス君を待って、彼が戻ってきた辺りで「いただきます」と言って箸を握った。






「うん。とっても美味しいよ、ジェノス君」

「光栄です」


・・・何だか、サイタマだけでなく私までも尊敬の眼差しで見つめているジェノス君。

私の一挙一動を見逃すまいとしているのがよくわかってしまって、ちょっと食べずらい。







「おいジェノス、兄ちゃんが困ってる」


「あ・・・すみません、名前さん」

「はは、まぁ気にしないで」


サイタマがいち早く私の気持ちに気付いてくれて良かった。

やっと視線を逸らしてくれたジェノス君に、私は食事を再開する。・・・まぁ、ちらちらと視線を向けてくるけれども。





美味しい食事をお腹いっぱい食べて、ほっとした私は「美味しかったよ、有難う」とお礼を言った。




「・・・さて、そろそろお暇しようかな」


「泊まってけよ、兄ちゃん」

「うーん・・・明日も仕事があるんだけどなぁ」


「兄ちゃんなら走って間に合うだろ」

確かに、此処から職場までならダッシュでどうにかなる。

それに折角サイタマが誘ってくれてるんだし・・・





「じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」

「あの、失礼ですが・・・お仕事は何を?」


気になって仕方ないのか、ジェノス君が身を乗り出している。

確かに、怪人をやっているような人間が就いている仕事っていったら気になるかもしれないなぁ・・・









「 警察 」









あ、ジェノス君がポカーンッとしてる。



「いろんな意味でヒーローの天敵ですね」

「まぁね」


その反応が面白くてくすくすと笑ってしまった。




「兄ちゃんの分の布団ねぇから、俺と一緒な」

「先生、俺は布団いらないので、是非名前さんに」


「いいって。兄ちゃんは俺の布団で」

「いえ、しかし・・・」


私は別に床で良いんだけど、それだと二人が許さないだろうなぁ。

けど、二人にはしっかり布団で眠って貰いたい。だとすれば・・・






「んー・・・じゃぁ、布団二つくっつけて、三人で川の字しよっか」

「ぇっ」


「兄ちゃん真ん中な」

「もちろん」


「ぇ、あの・・・」

「ジェノス君、それで良い?」

素直に頷くサイタマと違って、一人あわあわとしていたジェノス君の方を見る。

ジェノス君は「あ、えと・・・」としばらく考え・・・





「・・・よ、よろしくお願いします」

何がよろしくお願いされてるのかわからないけど、私は笑いながら「うん」と返事をした。






兄ちゃん今日は泊まってけ





(サイタマは何時まで経っても甘えただね)
(・・・うっせぇよ、兄ちゃん)
(ジェノス君も甘えて良いからね)
(・・・はい)

翌朝・・・川の字っていうか、三人団子の状態で目が覚めた。ぎゅぅぎゅぅ抱きついてくる二人が可愛かった。




サイタマのお兄ちゃん。

デフォルト名:チバ

職業は警察。
趣味で怪人をしてる。

サイタマと同じようにトレーニングして人外な力を手に入れる。サイタマと違い、禿げないかわりに総白髪になった。
弟のサイタマを大事にしてるし、サイタマも何だかんだでお兄ちゃん大好き。

年長者だからか、年下に甘い。




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