貴方のことだから、きっとすぐに飽きると思ったのです。
だって貴方は女性が好きでしょう?
男の私と付き合ったのは、単なる気まぐれだったのでしょう?
気まぐれだって良かったのです。
大好きな貴方が「いいよ」と頷いてくれた瞬間、私がどれだけ幸せだったことか・・・
それだけで良かったのです。その先なんて、考えてはいませんでした。
だからこそ、付き合いが始まっても私は貴方に何かを求めることはありませんでした。
ただ私にそのお顔を見せてくれるだけで良い。声を聞かせてくれるだけで良い。欲張って良いなら、出来ればその笑顔も・・・
充分我が儘だとは自分でもわかっていたのですが、何せ貴方が惜し気もなく与えてくれたのだから、私はもっとを望んでしまうのです。
すぐに別れを告げられると思っていたのに、この付き合いは今でも続いている。
長い時を生きる神獣様の気まぐれがまだ続いているのか、それとも付き合っていようがいまいが関係ないのか・・・
どちらにせよ、少しでも長い間傍にいれることは嬉しいことで、私はやっぱり幸せでした。
浮気はもはや癖のようなものなのでしょう。対して気にはしていません。
そもそも私と貴方が付き合っていることは、私と貴方しか知らなかったのですから、周囲から見れば浮気でも何でもありませんね。ただの習慣でしょうね。
そんな習慣の中でも、貴方は私に良くしてくれました。
出掛ける約束をすれば、必ず来てくれましたね。電話をすれば、必ず出てくれましたね。
嬉しかったです。とてもとても、私は幸福で・・・
あぁ、でも、その幸福もそろそろ終わりなのですね。
仕方ありません。私は欲張りで傲慢でしたので、罰が下ったのでしょうね。
一人の女性が、私に詰め寄ってきたのです。
聞けば、女性がデートをしようと誘ったのに、その日は私との約束があるからと断ったそうだ。
確かに女性が言う日、私は約束をしていたのです。
驚く私に女性の顔が歪みました。
良い気になるんじゃないと女性は言います。
良い気?あぁ、そうかもしれません。ほら、私って傲慢。
怖い形相をした女性が私に聞きます。
貴方は白澤様の何なのだと。
まさか恋人ではあるまいか、と。
怒鳴るような声とは逆に、私の心は穏やかだった。
「いいえ、違いますよ」
これが正解のはずなのです。
だって、可笑しい話じゃないですか。
女性が好きな貴方が男の私と付き合うなんて。
思った以上の時間を共に過ごさせてくれた、それだけで十分なのです。
穏やかな声で言う私に、女性は何かを吐き捨てつつも何処か満足した顔で去って行きました。
さて、これで一件落着です。
そう思って踵を返してみれば・・・
「・・・え?」
貴方が・・・白澤様が、おられたのです。
けれど、それだけではありません。
白澤様は・・・
泣いておられました。
酷く悲しげな顔をして、その綺麗な瞳から涙を惜し気もなくぽろぽろと零して・・・
「白澤様?一体どうしたんですか?」
慌てて駆け寄れば、更に流れ落ちる涙。
「なんで?」
「・・・?」
「何で、否定するのっ?僕、名前の恋人じゃないの?名前、僕の事好きだって言ってくれたよね?付き合ってって言ったよね?僕も、いいよっていったよね?ねぇっ、なのに恋人じゃないの?僕のこと、本当はからかってたの?僕、こんなに君のこと――」
大好きなのに
その言葉に、私は狼狽えるしかない。
何故今そのようなことを言うのでしょう。
私はこれ以上欲張りになってはいけないのです。
「白澤様、私はもう十分幸せです。もう、お気を遣っていただかなくとも――」
「・・・なに、それ」
「白澤、さま?」
「気を遣うって何?僕が、ボランティアで君と付き合ってると思ってたの?そんなの・・・ほんと、たちが悪いっ」
今度こそ声を上げて泣き出す白澤様に私はどうすれば良いのかわからない。
「嬉しかったのにっ、君が好きだって言ってくれて・・・」
普段はにこにことした笑みを絶やさないのに、今はこんなに泣きじゃくって・・・
まさか白澤様は、私のせいで泣いているのでしょうか。
私が付き合っていることを否定したから?
何故?
そんなの、まるで白澤様が私の事を本当に好きで・・・
嗚呼、まさかまさかまさか――!!!
「本当、ですか?」
「何ども・・・そう言ってるっ」
ぐずぐずと鼻を啜りながら私に抱きついて来る白澤様。
あぁ私は、この人を抱き締め返しても良いのだろうか。
私は今、欲張っていないだろうか?傲慢になっていないだろうか?
「早くっ、抱き締めてよ!」
「は、ぃ」
・・・ごめんなさい白澤様。
私、ちょっと欲張っちゃいます。
私達、付き合ってます。
(白澤様、あの・・・ごめんなさい)
(キスしてくれなきゃ許さない)
(えっ!?)
(あと、抱っこして一緒にお風呂入って一緒に寝てくれなきゃ許さない)
(・・・が、頑張ります)