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私はサクヤが嫌いでした。


昔っからあの子は可愛い。

周囲は皆皆あの子を愛した。だってあの子ったら本当に可愛かったから。


けれど私は可愛くない。

周囲はサクヤを可愛い可愛いと言った後、何処か気遣ったように私にも可愛いと言った。


わかってる。醜女な私の目の前で美女である妹だけを褒めたことを、後ろめたく思ったのでしょう?

けど、そんな気遣いされる方が屈辱的。馬鹿にしないで。



小さい頃からずっとずっとそう。


可愛い可愛い妹。

醜い醜い私。


サクヤと二人でお嫁入りしたときだって、夫となるはずだった人からは散々罵られてそのまま返却されてしまった。

あぁ、屈辱的。心の中が真っ黒に塗りつぶされていく。

私が醜いことなんて、私自身がよくわかってる。お願いだから、変な気を遣わないで。



サクヤなんて嫌い。大嫌い。

あの子は可愛いだけじゃなくって優しいの。こんな歪んだ性格の私にまで、優しく優しく接するの。


内心じゃ私のこと馬鹿にしてんでしょ!と罵ったこともあるけど、あの子は心の底から私を心配してくれてるの。本当は知ってるの。

けれどそれすら、私にとっては良い迷惑。お願いだから、もう私に近づかないで。


あの子は優しいから、きっと私がこんな風に歪んだ性格になったことを、自分のせいだって思っているのでしょうね。

違うの。私があの子に勝手に嫉妬して、勝手に歪んだの。馬鹿なのは私なの。


美人で優しくって聡明で・・・完璧な完璧な妹。

醜女で性格悪くて馬鹿で・・・愚かな愚かな姉。



さぁ、皆どっちを愛するでしょう?



・・・答えはわかり切ってる。

あぁ、こんな身も心も醜い私を愛してくれる人など、きっと一生現れないのでしょうね。




あれ?



どうせ現れないと既に自己完結しているのに、何故私は今も悩まなければならないのかしら。

もしかして私ったら、とても不毛なことをしているのではないかしら?


そう自覚してしまった瞬間、私は何やら心のもやもやが少しだけ晴れたような気になりました。



美しくないなら仕方ない。可愛らしくないなら仕方ない。性格が卑屈なら仕方ない。

そう。全部仕方のないこと。こればっかりは、どうにも出来ない。

そもそも考えるだけ無駄な話だったの。


成程、私はとっても無駄なことをしていたのね。

それもこれも、私が“女”だったからいけなかったのよ。


そもそも私が“女”じゃなかったら、こんなこと悩まなかったわ。可愛い妹を疎むなんてことしなかったわ。逆に、可愛い妹を自慢する良き兄となったことでしょう。

あぁ、なんてこと!私ったら、最初から間違えてしまっていたなんて!根本から覆さなきゃ、解決にはならなかったのね!












「・・・で、女として生きてくのは無理っぽいって思って男になった所存です。ちなみに美女とかマジねぇよ、キモイし近づいてくんなって感じですが、妹はちょー好きです。私の妹マジ可愛い」


「・・・大分損な性格なさってますね」

鬼灯様は私が注いだ酒を飲み、ふぅっと息を吐いた。

少し離れた場所では山神ファミリーが楽しそうに宴会をしている。


・・・ちなみにあの中に数名美女がいるため、私はあの輪の中には入りたくない。絶対に。




「しかし驚きですね・・・まさか男になってこれほどまでに・・・」

鬼灯様が言わんとすることはわかる。



「えぇ。私も驚きました。女の時はあれだけの醜女だったにも関わらず、まさか男になった途端・・・――これほどまでの“美男”になってしまうなんて」



そう。私は何故だか美男となった。

そりゃもう、周囲の驚きようは凄かったし、サクヤとはその日のうちに仲直りした。今では兄妹仲は良好だ。良好どころかシスコンブラコンの領域だ。



「私はとても幸せですよ。妹の隣を歩いても、妹に恥ずかしい思いをさせることもない・・・いえ、妹はそもそも恥ずかしいなどとは思っていなかったようですが。ですが・・・」

私は楽しげな宴会の輪をちらりと見て「・・・チッ」と舌打ちをした。

私が舌打ちしたのを見て、何人かの美女たちが慌てて顔を背けた。




「・・・私が美女嫌いって知ってる癖に見つめてくんじゃねぇよ、うざってぇな。マジ顔面に拳めり込ませて顔歪ませるぞ、アイツ等。いや、いっそのこと顔面潰した後にその顔に蛆虫の卵を植え付けて育ててやる」

「貴方もなかなかに過激な発想をしますね」」


「そもそも、男も女も顔ばっか見やがって。特に女!私の顔を見るとすぐに顔を赤らめ、事ある事に私に近づいて来ようとする!下心見え見えなんだよ!サクヤみたいに淑やかにしろよ!サクヤ意外の美女マジムカつく!!!」

「そうやって罵ってもなお貴方のファンは多いようですね」


鬼灯様の言葉に私は自分の分の酒をぐいっと飲み干した。

その様子に木霊が「の、飲みすぎですよー」とか言ってるけど無視だ。私は今、酔いたい気分なんだ。



「・・・鬼灯様、もうしばらく付き合ってください」

「構いませんよ」

鬼灯様がすっと空になった私の猪口に酒を注いだ。



「あっ、すみません・・・」

「いえ。どんどん飲んでくださって結構ですよ」


「鬼灯様に酌をさせるなど・・・恐縮にございます」

溢れんばかりのそれをクイッと飲み干せば更に鬼灯様が注いでくださる。



先程から延々と語っていた私の話を嫌な顔一つせずに聴いてくださる鬼灯様は、なんて出来たお人なのだろうか。

もし自分が最初から美しく生まれていたなら、是非ともお嫁入りしたかったとも思える。





「そう言えば、今は何と名乗っているのですか。流石にイワ姫ではないでしょう。そもそももう姫でもありませんし」

「あぁ・・・名前と名乗っております。サクヤが名付けてくれたのです」


ふふっと笑いながら言う。

私のために一生懸命考えてくれたサクヤ、今思い出しても可愛らしい。




「名前さんですか、良い名ですね」

「有難うございます」

礼を言いつつ酒を飲む。


木霊の忠告は無視したけれども、自分でもちょっと飲み過ぎている気もしてきた。





「鬼灯様、今度は私が酌を・・・」

「いえいえ。さぁ、どんどん飲んで」


「え、あの・・・」

どんどん注がれる酒に私もそろそろ焦ってきた。


あぁ、駄目だ。ちょっとくらくらする。




「私でよければ、貴方の鬱憤を全部聞いて差し上げますよ」

「鬼灯様・・・」


頭がぼんやりとする。

鬼灯様ったら優しい。

あ、どうしよう、もう私男なのに鬼灯様に惚れちゃいそう。



「ほら、もっと飲んで」

「ぅ・・・駄目です、鬼灯様・・・もう、酔ってしまっていて・・・」


「酔った自覚のあるうちはまだ大丈夫ですよ」

鬼灯様が今度は徳利ごと私に差し出して来た。


うぅ、まぁ、鬼灯様が言うのだし、別に明日何か大事な用事があるわけでもないのだし・・・





「んぐっ、んぐ・・・」

全部飲み干してみた。


木霊が「わぁぁあああ!?!!!?!?」とか叫んでるけど、気にしない。気にする余裕なんてない。





「鬼灯様・・・」

「人に聞かれたくないなら、場所を移しましょう。二人きりになれる場所・・・私の部屋なんていかがですか?」


「鬼灯様が仰るなら・・・」



あぁ、ふわふわする。

何か鬼灯様が笑ってる気がする。あぁ、綺麗だな・・・

もう少しその綺麗なお顔を間近で見てみたいな・・・




「っ、名前さん」

鬼灯様の頬に手を当てて顔を近づける。

睫毛が長い。唇も艶やかで可愛らしい。




「鬼灯様・・・お綺麗、ですね・・・お美しい」

「・・・貴方は美しいものは嫌いでしょう?」


「いえいえ・・・サクヤ以外の女限定です・・・鬼灯様はお美しくって・・・もっと傍で見たいです」

「じゃぁ・・・もっと傍で見させてあげますよ」


するっと私の首に鬼灯様の腕が回ってくる。

そっと私に身を預けてくる鬼灯様がなんだか危なっかしくて、私はそっと鬼灯様の腰に腕を回した。



「ん・・・良い香り・・・」

何だか良い香りがするな、と思ってその首筋に顔を寄せてすんすんと鼻をひくつかせれば、鬼灯様の身体がぴくりと震えた。




「鬼灯様?」

「いえ・・・気にせず、どうぞお好きに・・・」


何てお優しいことか。

私は嬉しくなって、鬼灯様のすべすべとした頬にそっと頬擦りをした。







まぁとりあえず酔わせときゃOK






「・・・?」

目が覚めたら、何故だか自分は裸だった。

「・・・!?」

隣を見ると、真っ白なシーツに包まった同じく裸の鬼灯様が、つやつやとした顔で眠っていた。


「・・・え?」

どういうこと?


それからしばらく・・・鬼灯様が起きて「昨日は良かったですよ。是非またお相手させてくださいね」とか訳のわからぬことを言いつつ私の唇にディープなキスをぶっかましてくるまで、私はベッドの上で硬直していた。




あとがき

美女嫌いで中身がいろいろ残念なイケメンだけど、なんか母性本能プッシュしてくるイワ姫成代り主に鬼灯様がベタ惚れになっちゃう話。

成代り主がべろんべろんに酔ってることを良いことにちゃっかりベッドインして、その後も押せ押せでどんどん成代り主を落として行く。←



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