「名前様、名前様。名前様は白澤様の何処が好きなんですか?」
桃の収穫を行っていたところ、遊びに来ていたシロ君がそんなことを尋ねてきた。
桃太郎君が慌てて「こ、こらっ!何言ってんだ、シロ!」と言っているのを「いえ、構わないですよ」と笑う。
「何故、それが知りたいのですか?」
「だって白澤様って、名前様がいるのにいっつも違う女の人のところに行くし、店にだっていろんな女の人を連れてくるし、嫌じゃないのかなって」
シロ君が言葉を紡ぐ度、桃太郎君の顔色が悪くなる。
私はと言えばただただにこにことほほ笑みながら「そんなことですか・・・」と頷く。
「白澤様はそれはもう素晴らしいお方ですよ」
収穫した桃をそっと籠へ入れつつ、そう口にする。
「人語を解し万物に精通され、皆様知ってのとおり、吉兆の印とされております」
素晴らしい素晴らしい、本来であれば手の届かないような場所にいるはずのお方。
「そんな方の恋人でいられることは、それはもう幸せはことなのですよ」
私の想いを受け入れ、微笑んで頷いてくれた白澤様。
あの日のことは今でも鮮明に覚えている。きっと、今後もそれは薄れることを知らないでしょう。
幸せな幸せな記憶。幸せな記憶は、今もどんどん追加されていく。
「悲しくないの?」
「悲しくないと言えば嘘になってしまいましょう。白澤様が私の隣で私とは違う方に微笑みかけるのも優しい言葉をかけるのも、それは悲しいことですが・・・私は、思うのです」
桃太郎君もシロ君も、息を飲み私の次の言葉を待つ。
「きっと私は、それすら全てひっくるめて、白澤様を好きになってしまったのでしょう」
ふふっと笑う。
「それに、白澤様は最後は必ず私のところへ帰ってきてくださいますよ」
知らぬ女性を可愛い美しいと見つめた後は、私を見つめて笑ってくださる。
知らぬ女性と愛を交わした後は、私の背に腕を回してぎゅっと抱きついてくださる。
「愛する方が幸せであれば、私も幸せです」
「ぅっ、うぅっ・・・」
「け、健気っ、健気過ぎるっ、名前様」
「お、おやおや・・・泣かないでください。別に、泣く程の話ではありませんよ」
何故だか泣き崩れている二人に慌ててハンカチを差し出せば、二人はより一層泣き出してしまった。
あぁ、大変。
「美味しいお菓子がありますよ。今日の分の収穫も終わりましたし、三人で食べましょうね」
「うぅっ、名前様ぁ」
「俺っ、名前様のこと尊敬しますっ」
ぐすぐすっと鼻を啜る二人の頭をよしよしと撫ぜつつ「有難う」と返事をする。
「白澤様の行いがあまりに酷すぎたら、俺に言ってください!」
「俺、名前様のためだったら、白澤様も噛んであげる!!!」
「おやおや・・・大丈夫ですよ。白澤様が私のことを愛してくれてる限り、私は平気ですから。まぁ・・・白澤様が私に飽きられてしまったら、仕方がないのですがね」
飽きられないよう、努力しますよ。と笑えば、二人が再び号泣しながら「名前様ぁぁああっ」と叫んだ。
ぅーん・・・ちょっとした冗談だったのですけど、この子達お菓子で泣き止んでくれるでしょうか?
誰が見ても悪いのはアイツ
「あれっ!?僕、すっごく悪者になってる!?」
「日頃の行いですよ、白豚」
鬼灯と共に実は桃源郷へ戻ってきていた白澤は、一連の話を聞いて顔を青ざめさせていた。
「うわぁぁぁああっ!!!!待って名前!!!僕、ちゃんと名前のこと愛してる!一番愛してるからぁぁぁあああ!!!!!」
「あ、白澤様。お帰りなさいませ」
「桃タロー君達退いて!名前の腕の中は僕のもの!!!!」
「ふふっ、おやおや・・・今日の白澤様は甘えたですね」
ぎゅぅぎゅぅと抱きつきながら「愛してるっ」と言う白澤に、名前は「えぇ、知っています」と幸せそうに笑って頷いた。