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※20話の後日あたり



「・・・ふぅっ」

義経は深いため息を吐いた。


もっと強くなりたい。出来れば、力士になりたい。

が、どんなに鍛えてもそれは実にならず、周囲も頑なに反対する。

先日鬼灯に相談したその結果も、今日から貼り出されるお盆のポスターがそれを物語っている。


義経が二度目のため息を口から漏らしそうになった時、襖がすぱんっと小気味良い音を立てて開いた。




「よぉ、義経。お盆のポスター見たぞ。なかなかの別嬪さんじゃねぇか」

笑いながらそう言った男に、義経は少し眉を下げた。



「からかわないでください、名前」


ずかずかと部屋に入ってきたのは、義経にとって大事な大事な友人である名前と言う男だった。



名前と言う男は義経にとってそれはもう大事な大事な友人だ。

現世で死した後、突然天狗警察に入ることとなって驚き焦る義経に「よろしくな」と一番最初に声をかけてくれたのは名前だった。


義経と違って豪快な名前は、義経が早く新しい環境に慣れるようにといろいろなことをしてくれた。

義経にとって名前は大事な大事な友人であると同時に、感謝すべき恩人でもあるのだ。



そんな名前は義経の悩みも真摯に受け止めてくれるが、時折こうやってからかってくる時があった。もちろん、友愛を籠めてだが。





「悪い悪い。お前、自分の容姿気にしてたっけか」

「えぇ・・・」


よっこいしょと義経の傍に腰を下ろした名前は「まぁ、そんな落ち込むなって」と義経の頭を撫でる。


義経よりも身体も大きいせいか、こうやって義経を子ども扱いしてしまう節もあるが、その点に関しては義経は気にしていなかった。

逆に、彼の手で撫でられる心地良い感覚が義経を何時だって落ち着かせてくれた。




「名前・・・名前も私の容姿、中世的だって思います?」

「まぁな」


はっきりと答える名前はちゃぶ台の上に置かれていた煎餅を見つけると「もーらい」とそれを一枚手に取った。





「鍛えたりとかはしてるんです。でも、すぐ疲れちゃうし、沢山食べようとしてもすぐにお腹いっぱいになっちゃうし・・・」

ばりばりっと煎餅を咀嚼しつつも義経の話にしっかりと耳を傾けている名前は「無理だけはすんなよ」と義経を真っ直ぐに見る。




「無理は身体に毒だぜ。此処じゃ、死にはしないけど、苦しいのは苦しいんだ」

「・・・はい。肝に免じておきます」


煎餅を頬張っていた名前は義経の傍にあったお茶を取ってごくごくと飲み干した。

もちろんそれは義経の飲んでいたお茶なのだが、名前も義経もさして気にしていない様子だ。





「けどまぁ、鍛えたいっていうなら俺も付き合うぜ。ほら、腹筋背筋する時、脚抑えててやるよ」

「有難うございます。あの、名前・・・」


「んー?」

何処か緊張した面持ちをし出す義経に、名前は首をかしげる。




「名前も・・・」

「俺も?」



「名前も・・・私が力士になりたいって言ったら反対する?」




その言葉に名前はきょとんとした。

義経が力士になるのが夢だと言うことは知っていたが、名前はその夢について何か言ったことはなかった。





「んー、力士ねぇ・・・」

ぽんぽんっと義経の頭を撫でつつ、名前は考えるような素振りを見せる。



「別に反対とかしねぇけど」

「えっ、本当?」


「おぅ。俺、別にお前が美少年だから一緒にいるわけじゃねぇしな。お前がなりたいもんになれば良いじゃねぇか」


その言葉にぱぁっと表情を明るくさせる義経を名前はひょいっと抱き上げて膝に乗せる。

そのままぎゅっと抱きしめられた義経はその温かさに「ふふっ」と笑った。






「良かった。名前にまで反対されたらどうしようって思ってたから」

「反対なんかしないさ。自分を鍛えるのは良いことだし、夢を持つことだって良いことだ」


にこにこと嬉しそうに笑う義経を抱き締めたまま、名前は「けどまぁ・・・」と少しため息を吐く。






「・・・こうやってお前を腕に抱きこめなくなるのは、ちょっと残念だな」

少し眉を下げながら笑う名前に、義経は少し目を見開いた。




確かに、力士ともなれば身体は今よりも大きく重くなるだろう。

そうなれば、名前は今のように義経を膝に乗せたり抱き上げたりが出来なくなってしまうだろう。いや、力持ちの名前なら出来るかもしれないが、それでも相当な負担になってしまう。


名前に膝に乗せてもらえなくなる未来を想像した義経は、名前と同じように少し眉を下げた。





「・・・名前」

「んー?」





「私、力士になるの・・・ちょっと延期します」





「ん?おぅ、そうか」

笑いながら自分を撫でる名前に、義経も少し目を細めて笑った。




夢はとりあえず置いといて





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