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「でっさぁー、その時あのハゲが俺が言いやがったんだよぉー」


酒をぐいっと煽りながら愚痴を言う。


会社じゃ言えないような事は、酒が入るとするする口から出てくる。

聞いてくれる相手がいるなら、なおの事だ。




「聞いてるかーい?加々知くーん」



「えぇ、聞いてますよ」

ぐわしっと肩を組んでテンションを高くして言えば、思った以上に冷静な声が帰ってきた。

大分酔っている俺とは違い、加々知君は全然酔ってないらしい。もしかしてザルなの?ザルなのかい、加々知君やい。




「もっと飲んでよ、加々知くーん。俺が奢っちゃうからさぁー」

「じゃぁ、御言葉に甘えて」


あ、これたぶん死亡フラグ。主に俺のお財布の中身の。



まだほんの少ししか一緒にいないけど、たぶん加々知君って結構遠慮しない子だ。

やばいやばいとは思うが、酔ってふわふわする頭じゃその危機を完全には把握できない。あ、俺ってやっぱり酔ってるっぽい。







ほんの少しの間しかいない派遣社員の子を無理やり引っ張ってやってきた居酒屋。

相手にとっちゃ、とんでもないヤツに絡まれたって感じかな。まぁ、運がなかったって諦めて欲しい。


そういえば加々知君ったら、俺が無理やり引っ張ったのに、嫌な顔一つしなかったなぁ。まぁ、目つきは悪いけど。

普通酔っぱらいな先輩に絡まれたら少しは嫌な顔するだろうに、加々知君の表情は変わらず。


あ、もしかして加々知君って良い子?

会社でも仕事バリバリ出来ちゃってるし、しかも良い子なの?



「ふへへっ、加々知君は良い子だねぇ」


よしよしと頭を撫でまわす。



加々知君の眠そうな目がちょっとだけ見開かれて「・・・止めてください」とか言ってるけど、止めてあげない。俺、酔っぱらい。

初めて加々知君の表情が変わるのが見れたんだ。もっと見たいと思うのは仕方ないじゃないか。




「よーしよーし、加々知君は良い子良い子ぉー」

「・・・相当酔ってますね」


はい。大分酔ってまーす。



へらへらしながら加々知君の頭をなでなで、酒をぐびぐび。滅茶苦茶気分が良い。





「良い子な加々知君にはごほーびをあげまーす」

「はいはい。何ですか」


「加々知君にはー、俺に思う存分甘える権利をあげます!さぁ、どんとこい!」



ばっと両手を広げてカモンのポーズをとる。

加々知君は少し動きを止め、それから小さくため息を吐いた。




「あっれぇー?嬉しくないのぉ?加々知君・・・じゃあ、他のに――」


「・・・いいえ。それで良いですよ」




ぽすんっと俺の胸に加々知君の頭が当たる。

俺はそれを見てにかっと笑いながら加々知君の背中に腕を回した。


ぎゅぅぎゅぅと抱き締め「良い子」と言いながらその頭にぐりぐりと頬擦りをして・・・

加々知君は無言のまま俺の背中に腕を回していて、何だか俺は気分が良くなった。





「加々知君は、頑張り屋さんで優しくって、とっても良い子。俺、加々知君がだーい好きだよ」

「大好き?・・・そうですか」


「そうそう。だぁーい好き」



ちょっと苦しいかな?ってぐらい抱き締めてるけど、加々知君もそれに負けないぐらい強く俺に抱きつき返してるからお相子だ。





「・・・私も好きですよ」


「んー?」

好き?加々知君も好き?





「へへっ、可愛いねぇー。加々知君は可愛くって良い子だねぇ」

あれ?可愛いって男に使う褒め言葉だっけ?まぁ、良いや。俺、今とっても上機嫌だから、そんな細かいこと気にしない。




「可愛い良い子には、もーっとごほうびー」

「それは何ですか?」


何だかいっつも無表情な印象がある加々知君が、ちょっと笑った気がした。

何だかレアだなぁ。あ、もっと気分良くなっちゃった。





「可愛い良い子な加々知君はー、いーつでも俺に甘えても良いでぇーす。俺、全力で甘やかしまーす」

酒が身体の中をぐるぐる回ってる。


それを考えると、加々知君ってほんと酔わないなぁー。俺、別に酒が弱いわけじゃないのにねぇ。




けどまぁ良いや。それよりも加々知君が可愛い。




「加々知くーん、何時でも甘えて良いからねぇー」

へらへら笑いながら加々知君の額にキスをすれば、加々知君は小さな小さな声で「えぇ」と返事をした。




嫌がられなかったのが嬉しい。

頭がふわふわするなぁ。気分が良い。




あれ?そういえば、何で俺って加々知君抱きしめてるんだっけ?


んー、酔ってて、頭が良く回んないや。しかも明日は二日酔いが怖い。

あー、まぁけど・・・今はこの良い気分に浸っておこう。





酔っぱらいの甘やかし




・・・鬼灯様をとことん甘やかしたい。←



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