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名前さんは研究熱心。

植物の生態とそれに関連した薬作り。他にも幅広く、何時だって何かを研究している。


何かに対し熱心になることは良いことだと私も思いますよ。けど彼ったら、一度一つの研究に熱中すると、他が何も手つかずになるんです。例えば食事だとか入浴だとか・・・恋人である私との会話とか。

最後のが一番の問題ですね。背後から一発殴ってやろうかと思いましたが、今日が“あの日”だったので我慢してあげます。







「名前さん」

「・・・・・・」

ほら、呼びかけても返事をしない。もう少し近くで呼びかけてみましょうか。



「名前さん、聞いてますか?名前さん」

「・・・あぁ」


やっと反応した。でも視線は私の方へは向かない。返事だって所詮は生返事。

研究最中の彼がこうなることは知っていますし、別段傷つきません。けどまぁ・・・軽い苛立ちはあります。






「名前さん、珈琲飲みます?」

「・・・貰う」


だからこれはちょっとした悪戯です。




研究資料に目を通しながら答える彼に用意しておいたマグカップを「どうぞ」と差し出す。

視線は研究資料に向いたまま、彼は私が差し出したマグカップを無言で受け取りそのまま口元へ――








「ごぶッ!?!!!??」







一口飲んで名前さんが噴き出し、そして咽ました。



「おやおや、どうかしましたか?」

「う、ごはっ・・・こ、れ・・・珈琲じゃない、ぞ」


やっと研究資料から視線を外して私を見た彼に、私はしれっとした顔で「そうですね」と言い放つ。

彼が噴き出したマグカップの中身は研究資料を茶色く染め上げている。その資料と私を交互に見比べ、酷く困惑した顔をして・・・



「吃驚しました?」

「・・・当たり前だろう。珈琲だと思って飲んだものが珈琲じゃないんだから」


はぁっと大きなため息を吐く彼。眠いんでしょうね、目がちょっと虚ろ。









こんなやり取りをしていますが、普段の彼はとても誠実で優しい人なんですよ。私だって、べたべたこそしませんがちゃんと恋人である彼に甘えたりしますし。

ただ研究にちょっと熱が入りすぎているだけ。研究が一段落すれば、彼は申し訳なさそうな顔をしながら私を見て「ごめんなぁ、鬼灯」という言葉を口にするのだ。


毎度恒例の分かりきった結末。研究に没頭しすぎるのが自分の悪い癖だと、そろそろ気付いたらどうなんですかねぇ?






「たまには、研究の手を止めてゆっくりしたらどうですか?」

「・・・噴き出したせいで資料が一部滅茶苦茶だ。どうにかしないと」


またため息。茶色く汚れた資料をせっせとまとめる彼に「忙しい人ですね」と呆れたようにため息を吐きながら部屋を出る。



出る間際、ちらりと彼を見れば彼はやっぱり研究に勤しんでいた。


「・・・流石にこれなら気付くと思ったんですけどね」

まさか気付かないなんて。本当に、私の恋人は研究に熱中し始めるとどうしようもない。







ねぇ、本当にわからなかったんですか?


けどまぁ、貴方のことです。貴方は珈琲じゃなかったということに驚き過ぎて、その中身が何だったか気にしてなんてなかったんでしょうね。

珈琲よりもとろりとして、珈琲よりも甘い香りがして、香りと同じで甘くって・・・



まぁ例え中身がわかったとしても、今日が何日で何の日かもわからないような人には、あのマグカップの中身の意味なんてわからないでしょうけど。








甘いヒント







その数日後、慌てたように私の所に来た名前さんが、空っぽのマグカップを手に「お、美味しかったぞ」と言う姿に、少し笑ってしまった。

「ホワイトデー、期待してますよ」
「わ、わかった。今度は忘れないようにする」



あとがき

バレンタインにあやかって、取り敢えずそっち系のネタにしましたが・・・
異音のバレンタインはお菓子作り過ぎて疲労にまみれてました。考えなしにお菓子を作り始めると体力的に痛い目にあいますね(ゲッソリ)



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