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とある村の少年のお話です。


少年はそれはそれは高貴な生まれでしたが、残念ながら三男坊でした。


長男はそれはもう、宝物のように可愛がられました。

次男はもしも長男に何かあった時のために、普通より少し可愛がられました。


三男の少年は・・・

まるでいてもいなくてもどうだって良い子でした。


だって、少年には何の役割もないんですもの。


少年の親である存在は長男と次男ばかりを構い、少年に見向きもしません。

使用人や家来たちだって、将来を担うはずの長男な次男ばかりに構い、少年に対する態度はお座なり。


少年は独りぼっちでしたが、それを寂しいとは思いませんでした。

何故なら、常に独りぼっちな彼が感じる胸の中の隙間風のようなソレを“寂しい”という感情だと教えてくれる人は、誰一人として存在しなかったからです。


きっと少年は寂しくなかったわけではないのでしょう。知らなかったから、寂しく思わないだけだったのでしょう。


少年は大きくなれば適当な仕事を与えられ、適当に家を出されるのでしょう。

少年の扱いは適当でしたので、将来だって適当でした。


毎日毎日少年はぼんやりと過ごすばかり。それを咎める人もいません。




そんなある日の出来事です。

少年は、ある運命的な出会いを果たします。


運命の人は、少年の屋敷で使用人として暮らしていました。

暮らすと言っても、与えられたのは納屋のたった一角。まるで人の扱いを受けていないその使用人を、少年は偶然にも発見したのです。


桶に組んだ水を運ぶ使用人の子供。

痩せっぽっちで顔色があまり良くなくて力も弱そうで・・・


姿形は自分とは正反対でしたが、何だか自分と似てるなと少年は思ったのです。

だから少年はそんな子供の前に飛び出して尋ねました。




「君はだぁれ」

「・・・丁です、名前様」


頭を垂れたままそう返事をする自分と同じぐらいの子供に、少年は興味を持ちました。


それから少年は、毎日毎日その丁と言う使用人に元へ行きました。

時には自分の昼食の握り飯を手に、時には自分の兄たちがもう使わないと捨てた書物を手に。



握り飯の半分を使用人に分け与えました。

書物を読むための勉強を使用人としました。


使用人は最初こそ少年に頭を垂れたまま動きませんでしたが、時が過ぎるうちに顔を上げてくれるようになりました。



少年はそこで初めて“嬉しい”と思いました。

少年の嬉しいという想いが通じたのでしょう。使用人も次第に自分から口を開く様になりました。


少年と使用人が世間一般で言う“仲良し”になってしばらく、とある事件がありました。





――長男坊が、流行病で死にました。

――まるで引きずり込まれるように、次男坊もその病で死にました。





おやおや、これはこれは・・・

三男坊の少年は、一気にその家の跡取り息子となりました。



周囲はそれはそれは焦ったことでしょう。

これまで何年も何年も愛を注いだ長男と次男はもういません。


代わりに残ってしまったのは、もはや最後に言葉を交わしたのかわからないほど、放置に放置を重ねた三男坊。

周囲は今からでもと・・・手のひらを返したように、少年に優しくなりました。




一緒にご飯を食べましょうねと母が笑います。

一緒に何処かへ出かけようかと父が笑います。


名前様は聡明なお方ですね。名前様は立派な跡取りとなられるでしょう。と、周囲の使用人や家来たちが言います。


ですが少年は――






「食事は丁と取ります」

「丁と森に木の実を探しに行く約束があるのです」

「丁と勉強しました。丁の方が私よりずっと覚えが早い。今では、私の方が教わっています」






おや?と周囲は嫌な予感を感じました。


まさかまさかこの三男坊、実は随分扱い辛いんじゃないか?


周囲の考えは大正解。

少年の一番は他の誰でもない、丁と言う使用人になっていました。



仕方ないじゃありませんか。

少年と言葉を交わし、ふれあい、笑い合ったのは・・・他でもない丁なのですから。


周囲は慌てて「使用人と仲良くするのは止めなさい」と少年に言いました。

何故?今まで何も言わなかったのに。


少年は不思議でした。

周囲の言葉を無視してあの子に会いに行こうとすれば、少年の母は悲鳴のような高い声で少年を呼び止めます。




「あの使用人を何故優先させるのです!!!!母や父を優先させるべきでしょう!!!」

少年は不思議でした。


「何故です?」

「あの子はみなしごなのよ!?」

「だからどうしたと言うのです」

「貴方とは違うのよ!貴方は、もうこの家の跡取りなのよ!?」



少年は不思議でした。

親がいないから何だと言うのか。




私には親がいますが、その親に育てられた記憶は御座いません。

親に育てられなかったことが蔑む要因だと言うのなら、私はみなしごと変わらないではないですか。




少年は思ったことを全て口にしました。

すると少年の母は怒り狂った声を上げ、少年に向けて手を振り下ろしました。


頬に走る鋭い痛み。

耳を突き刺す嫌な声。


母との初めてのふれあいが、まさか暴力になるとは、誰も思わなかったでしょう。



けれどまぁ、少年はそれを気にはしませんでした。

気にするだけの興味関心が、少年にはなかったのです。



そうだ。

あの子に会いに行こう。


こんな場所にいるよりも、あの子の傍がずっと良い。

少年は怒鳴り叫ぶ母を無視して屋敷を飛び出ました。



あの子に会おう。会いに行こう。

それだけを思って、あの子のことだけを想って・・・







「丁――」

「・・・名前様」


随分と呼び慣れたように、あの子は少年の名を呼んでくれます。

親よりも他の誰よりも、あの子が多く名を呼んでくれていました。


少年は気付いてはいませんでしたが、少年は確実に――丁に惹かれていました。

丁も丁で、口には出しませんでしたが、確実に少年に心を許していました。


二人にとって、この世はたった二人だけの世界です。

他はどうだって構いません。


誰が何を言おうと、誰が何をしようと――










周囲は思いました。

これはきっと、災いなのです。


長男と次男の急死も、三男坊のことも・・・

全部全部――あの使用人のせいなのだ、と。


あの使用人が長男と次男を呪い殺し、残った三男坊まで誑かしたのだ。

全部全部あの使用人が悪い。


さてどうやってあの使用人を三男坊から引きはがそうか。

あの使用人は面倒だぞ。何時の間にやら知恵まで付けている。



ならばこうしよう。

今村では雨が降らない。

生贄が必要だ。

そうだ、その生贄は・・・






「丁?」

「名前様、もしも私がいなくなっても、どうか気になさらないでください」


「どうして?」

「おそらくきっと・・・もう私は、貴方に会えません」


「どうして・・・」




「さようなら」




丁だ。

生贄は丁だ。


それしかない。

それ以外ありえない。







・・・儀式は、少年の知らぬ間に行われました。



少年はまた、独りぼっちになってしまいました。

独りぼっちの少年は、その身体から感情という感情が全て抜け落ちたように、まるでただの人形のようになってしまいました。


人形のようになってしまった少年は――







「 許さない 」







無表情のままに・・・



「――ッ!!!」
「ヒィイイッ!!!!」
「だ、誰か――」
「お、おやめなさい、名前――!!!!」



村人を皆殺しにしてしまいました。

少年は人を殺したって何も思いませんでした。


けれどもう少年にとってはあの子と一緒にいることが当たり前になってしまっていたので・・・





「・・・丁、一人にしないで」

寂しさのあまり、少年はその小さな命を落としてしまいましたとさ。





独りぼっちの物語

























おや?


物語はこれで終わりませんよ。

終わるわけがありません。


何故なら少年は――

その死した小さな身体に“鬼火”を宿し・・・






「鬼灯・・・眠い」

「名前さん・・・また髪が跳ねてますよ」


「・・・そう?」

「仕方ないですねぇ。こっちに来てください。直してあげますから」

「わかった」


「今日も仕事が山積みですからね・・・名前さん無しでは処理しきれません」

「わかった・・・頑張ろう」


「頼もしいですね、名前さん」

「鬼灯のためだから・・・」





今では丁――鬼灯と共に、第二補佐官として働いています。



感情表現は乏しいですが、それでも・・・

今はもう、胸の中に隙間風のようなものを感じることは、ないのです。



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