私は金魚草。
「名前・・・今日は肥料を変えてみたんです。どうですか?」
鬼灯様の金魚草。
『オギャァ』
「そうですか。それは良かった」
無表情ながらも何処かその雰囲気を柔らかくする鬼灯様が育てる、鬼灯様だけの金魚草。
他の金魚草とは違って名前なんていう名前を付けてくれた、特別可愛がられてる金魚草。
まぁ別に・・・私だから特別になれたわけじゃない。
きっと、どの子だって良かった。
丁度手元にまだ苗だった小さい私がいただけ。ただそれだけ。
それだけで他の子達より目一杯の愛情を貰えるのだ。役得も良いところ。
けれどまぁ、これ以上大きくなってしまえば、私も他の子達と同じ花壇に埋め直されるのだろう。
そうなれば、きっと鬼灯様はどれが名前かなんてわからなくなって、そのうち名前なんて名前も忘れてしまう。
それはとても寂しいことだろうけれど、私はそれでも構わない。
だって鬼灯様が“今”幸せそうだから。
鬼灯様の自室の机の上に鎮座した小さい私を撫で、優しく上から水をかけて、時折話しかけて・・・
その間の鬼灯様はとても幸せそうだから、それで良い。それ以上は、望んでない。
望んでない、はず・・・
「・・・そのはず、だったんだけど」
気付けば私は“人の形”になっていた。
きっかけは何となくわかるのだ。
昨夜、鬼灯様が小さく呟いていた・・・
『・・・そろそろ、大きくなってきましたね』
それはきっと、もう私は花壇に移されてしまうという意味で・・・その瞬間私はついつい「嫌だ」と思ってしまったのだ。
そうして朝を迎えた私の身体に発生した異変。
背丈は鬼灯様と同じぐらいだろうか・・・
紅い着物、赤い髪、人の顔、人の手足、嗚呼――
「・・・鬼灯様」
まだ眠っている鬼灯様にそっと近づく。
望んでなかったはずだった。けれども私は今・・・嬉しいと思っている。
鬼灯様に手を伸ばすことが出来る。鬼灯様に触れられる。
もし言葉を掛けられれば、言葉で返すことだって出来るのだ。
嗚呼、望んでなかったなんて嘘。本当は、ずっとずっと・・・
「ん・・・」
「ぁ・・・」
鬼灯様の目が開く。
私を見て、ほんの少し目を見開いて、そして・・・
「・・・あぁ、おはようございます・・・名前」
「ぇっ」
酷く愛おしそうな目で私を見てそう言う鬼灯様。
何で?だとか、どうして?だとか、いろんなことが疑問に思う。
けれども、それよりも・・・
私は、鬼灯様の言葉に“言葉”で返したい。
「お、はよう、ございますっ・・・鬼灯様」
その瞬間、ベッドに寝たままだった鬼灯様の腕が私に伸びてきて、私はそのまま鬼灯様のベッドの上へと倒れ込んだ。
おまけ⇒