ホラー映画というものは、季節関係なく見ても良いと思う。
真夏に見るも良し。冬に見るも良し。
どんな季節に見ようとも、怖いものは怖いのだ。
逆に言ってしまえば、怖くない人にとっては、どんな時に見ても怖くは無い。
「・・・ハァッ」
ため息をついた我らが主人公は“どんな時に見ても怖く無い”分類の人間だ。
画面に映し出されている映像は、まさしくホラー映画。
どんな経緯で見ることになったのかと聞かれれば、『暇潰しになんとなく』が正解だ。
コウはホラー映画を呆れた目で見ている。まさに目が「くだらない」と言っている状態。
・・・ホラー映画をなんだと思っているのだろう。
『うわぁぁあああッ!?!!?!???!』
悲鳴が上がる。
何も言わないコウの代わりに悲鳴を上げたシャメルは、カタカタッと震える。
もはや、序盤で半泣き状態だ。
「・・・何、幽霊がホラー映画見て悲鳴上げてるわけ」
『だだだだだだ、だって!!!!!こ、怖いんだもん・・・!!!!』
「・・・・・・」
答えになってない。
たとえ幽霊だろうと、怖いものは怖いらしい。
シャメルは全身で怖い!という己の気持ちを表現していて、何だか哀れになってくる。
コウはため息をつき、隣に座っているはずのセブルスに意識を映す。
「ねぇ、セブルス――」
ビクンッ
「・・・・・・」
声をかけた瞬間に、セブルスの身体が大きく震えた。
コウはジッとセブルスを見る。
カタカタッと震えているセブルスはギュゥッとコウの服を掴んでいる。
目は明らかに泳いでいて、映像が動くたびにビクンッ、ビクッと身体を震わせていた。
「・・・怖いわけ?」
「ふぇっ!?ぁ、ぃや・・・何か言ったか!?」
ビクビクッと震えながらコウを見るセブルスの表情は何処までも情け無い。
「・・・別に」
「そ、そうか」
セブルスがこの映画を怖がっていることは十分分った。
「怖いわけ?」
「!?べっ、別に・・・怖いわけじゃッ」
そういいつつ、声が盛大に震えているところを見れば、セブルスはシャメルと動揺の恐怖を感じているらしい。
シャメルは『怖い』とはっきり言うが、セブルスは自分から怖いとは言えない。
・・・セブルスの意地だろう。
「けっ、けど・・・もっ、もう12時過ぎてるなッ。ぁ、明日も学校だからこの辺に――」
『ふわぁぁぁぁあああああああッ!?!!!??!!?!??!?ぉ、女の人がぁ!!!!』
「ひぅわぁぁぁああああああああッ!?!!!!??!???!?!?」
「・・・・・・」
シャメルが叫び、それに気付いてつい画面を見てしまったセブルスが恐怖で引きつった顔で叫んだ。
それを黙って聞いているコウは、軽くため息をついた。
両サイドから聞こえる悲鳴は、想像を絶するほど煩い。
シャメルもセブルスもコウの腕にここぞとばかりの力でしがみ付いている。
「コウッ!!!コウッ!?ぉおおお、ぉ、女がっ、女がぁ!!!!」
『コウ君ッ!!!!たたたたた、大変だよ!!!!人が、人がぁ!!!!!!』
コウの体をガックンガックンッと揺らしながら叫ぶ二人。
・・・コウの脳みそがシェイクされている状況だ。
「 は な せ 」
「『ご、ごめんなさい』」
ホラー映画よりも怖い雰囲気と低い声。
ついつい、背筋を伸ばして謝る二人に、コウは深いため息をついた。
「たかだかホラー映画でしょ」
呆れたようにシャメルとセブルスの頭をグシャグシャッと撫でたコウに、二人は落ち着いたように息をつく。
ちなみに、画面にはまだまだ怖い映像が映っているのだが、二人はコウの手に集中しているがために、映像は無視している。
・・・怖いから目に映したくないのだろう。
「怖いなら、見なければ良いでしょ」
コウは仕方なしにリモコンでテレビの電源をプツリッと切る。
ぁ・・・と小さく声を上げたシャメルとセブルスに「さっさと寝るよ」と言い放ち、コウは座っていたソファーから立ち上がる。
「ぁ、ぅっ・・・コウッ」
『ぅうッ・・・コウくんっ』
ギュッとコウの腕を掴んだ二人が、後ろ目多様に・・・
「『一人で寝れないッ』」
悲痛な声を上げた。
「・・・・・・・・・ハァッ」
コウは軽い頭痛を感じながら、またため息をついた。
ホラー映画を見たらそうなるだろう
その夜・・・
コウを挟んで、三人(うち一名幽霊)は、川の字になって眠っていたという。
え?シャメルは幽霊だから別に寝なくても良いんじゃないかって?
『だだだだだっ、だって・・・一人でいると、怖いの出るかもしれないし・・・』
・・・だそうです。