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あの子は弱い子だったの。

私が守らなきゃいけない子だったの。

守ることが私の生きがいだったの。

なのになのになのに、何時からかな・・・



あの子ね、可笑しくなっちゃったのよ?


前は私の後ろに隠れてずっと震えていたのに、突然私よりも前を歩き出したの。

泣き虫だったあの子は泣かなくなったし、見えないお友達の話もしなくなった。



泣いたら慰めるのが私の役目だったのに。

見えないお友達の話を真面目に聞いてあげるのも私の役目だったのに。



あの子ったら、私から役目を全部奪っちゃったの。酷い話でしょ?




泣き虫で弱虫の虐められっこだったはずなのに、何時の間にか虐められなくなってた。

それどころか、私を気遣って優しくしてくるようになった。


酷いじゃない。小さい頃は私が全部してあげたのに。

重い荷物を持つのも、あの子の仕事じゃないわ。私の仕事よ。盗らないで。


そう訴えたかったけど、あの子があまりに幸せそうに笑うから、何も言えなかったの。






知ってた。あの子は大きくなってしまったの。


ピーターパンではいられなかったの。

ネバーランドを出て行ってしまったの。


私だけ・・・小さい頃のまんま。


あの子は私を置いてきぼりにしちゃったの。

あの子を守れるのは私だけなのに。

あの子の理解者は私だけなのに。


あの子は私に守られておくべきだったのに――












「ぅッ、ひっく・・・の゛り゛あ゛ぎッ・・・!!!!」

棺の前で泣きじゃくる。



様子が可笑しかったの。

何時もと雰囲気の違う典明。姿を眩ました典明。


帰ってきた典明は・・・死んでた。冷たくなってた。




泣きじゃくる私。典明のお母さんに肩を抱かれて「有難うっ、名前ちゃん」と言われる。




あのね、典明。私、貴方のお母さんとも約束してたのよ?

貴方のお母さん、私に『典明のこと、よろしくね』って言うの。


なのに私、それを守れなかったわ。駄目よね、私って。

大人になれない、守れもしない。





私って・・・なぁに?

お葬式が終わって、人がいなくなる中、私はまだ泣いていた。


典明はもう、その身体を燃やされちゃった。残ったのは、きっと小さな壺が一つだけね。




温かな典明はもういないわ。

小さい頃の弱虫の典明は遠い昔にいなくなってしまったけど、優しい大人の典明もいなくなってしまった。


私、何を守れば良いのかしら?最初から、守れてすらいなかったのに。










「・・・おい」


突然、知らない人が私の背後に現れる。

学ラン姿の大きな人。




「お前・・・名前か」

泣きじゃくる私にそう問いかけたその人。




「そうだけど・・・誰」



知らない人に涙を見られる恥ずかしさなんてなかった。

ただただ涙を流す私に、その人はズイッと何かを渡してきた。


それはぐしゃぐしゃの葉書きだった。




ピラミッドの写真。

旅行者が旅行先で書くような、現地の風景が映った葉書き。


その差出人の名前を見て、私は呆然とした。





「こ、れ・・・」

「・・・確かに届けたぜ」


そう言って背を向けて歩き出す彼を追う気力もなかった。

だって・・・






【名前は素敵な人だから、僕なんかのためじゃなくて、自分のために生きて欲しい】






・・・酷いわ、典明。

本当は知ってる癖に、酷いわ。


私・・・典明のためって言いながら、ずっと自分のために生きてたのに。




典明を守って、典明と一緒にいて、ずっと典明と共にある・・・

それが私の幸せなのに。典明がいないと、私駄目なのに。


あぁ・・・




守られてたのは、私の方。

守ってくれるあの子はいない。





【大好きです。今度は僕に守らせてください】





・・・ねぇ、貴方の今度は何時まで待てば良い?





















「何書いてんだ」

「わっ!?ちょっ、見ないでくれよ承太郎!」


ひょいっと花京院の手からそれを奪い取った承太郎。




「・・・絵葉書か」

「・・・うん」


何処か恥ずかしそうに返事をする花京院は不意にパッと承太郎の手から葉書きを奪うと、ぐしゃりとポケットに葉書きを突っ込んだ。




「出さねぇのか」

「・・・今度、出すよ」






――・・・






「・・・結局、出してねぇじゃねぇか」


花京院の死体を運ぶ中、ポケットから出て来たぐしゃぐしゃの絵葉書を手に、承太郎は小さく呟いた。






葬式の会場で見つけた受取人の彼女は・・・

花京院が守りたいと思うにふさわしい、小さくて弱弱しい少女だった。







守る人はもういません



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