ソファに寝転び雑誌を読む。
雑誌を捲る手で時折テーブルの上のクッキーをつまむ。
カリッと軽い音を立てて咀嚼されていくクッキー。美味しい。
雑誌に載っている占い欄で自分の運勢を確認。ふむ、なかなかに良い運勢だ。
ラッキーアイテムはリボンか、なんて思いつつ、私は唐突に頭にぱっと浮かんだ言葉を正直に口にした。
「セブルスにならアバダされたいなぁ」
私の言葉にいち早く反応したのは、私の向かい側のソファで教科書を読んでいるセブルスだった。
「馬鹿か、死ね」
「じゃぁ、アバダして」
「誰がするか。勝手に死ね」
呼んでいる教科書は私達よりも一つ二つ上の学年の魔法薬学。
レイブンクローでもあるまいし、実に勤勉なことだ。
「何ソレ理不尽。せめて最愛の人の手で逝かせてよ」
何気に私がデレたことに気付いたかい?セブルス君や。
最愛の人って言ったよ?最愛の人だぜ?おい、照れろよ。
「ついにトチ狂ったか。死ね」
照れるどころか可哀相な物を見る目がちらりとこちらを見る。何ソレ解せぬ。
「だからアバダしてよ」
「しない。死ね」
「もはや語尾が死ねじゃないか」
「煩い死ね」
「ほら、やっぱり語尾が死ねだ!私はそのついで程度の意味で死ねと言われているんだ!」
わざとらしく「あぁ!なんて悲しい!」と言いつつ雑誌に顔を埋める。
口に付いていたクッキーの屑が雑誌に付いた。ありゃりゃ、これ確か友達に借りてたんだった。まぁジュース渡して謝れば許してくれるはずだし良いか。
「お前が馬鹿なことを言うからだろう」
「うぅっ、セブルスが虐める」
ついでにわざとらしく嘘泣き。
「勝手に言ってろ」
「・・・少しはノってくれたって良いのに」
「僕にどうしろと言うんだ・・・」
心底面倒臭そうな声。
愛しい恋人の言葉に少しでもノってやるのは恋人としての務めだと思うのは私だけかい?
「そもそも、何故いきなり死の話をするんだ、馬鹿め」
今度は馬鹿が語尾になりそうな勢いだ。
私は「んー」とクッキーを頬張りつつ唸る。
別に意味なんてない。
何となく思ったのだ。
じゃなけりゃ、何故雑誌の占い欄を見ながらそんな台詞を言うだろう。
本当に何気ない発言で、かといって冗談ではない。
私はセブルスの手で死にたい。
他の奴の手なんてクソ喰らえだ。
もし私が他の奴等の手で死にかけたら、セブルスに止めを刺してもらおう。これは絶対だ。
「しかも・・・貴様が先に死ぬ前提だな」
「ありゃ、本当だ」
私はどうやら、セブルスが死ぬという考えを全く持っていなかったらしい。
セブルスを置いていく気満々か、私め。
「大丈夫大丈夫。セブルスを置いて、そう簡単にくたばったりはしないよ」
けらけらと軽く笑って言う。
そんな私に不誠実さを感じたのか、セブルスがじっとりとした目で私を睨んできた。
おー、怖い怖い。
「本当だよ。愛するセブルスを置いて、どこかへ行ったりなんかしない」
ふざけた口調だけど、実は結構本気だ。
死ぬ時はセブルスの手で。
でも死の時が訪れるまでは何が何でも最愛の彼の傍に。
出来ることなら、墓の場所も一緒が良いな、なんて。
「長生きするよ。それこそ、セブルスがうんざりするぐらい」
もちろん、しわしわになってもセブルスの傍にいる気は満々さ。
「でもやっぱり、死ぬならセブルスの手で死にたいよ」
「・・・お前は」
「ん?」
「一緒に生きる、という選択肢はないのか?」
「・・・・・・」
ぽかんとする。
さっきまで死ね死ねと語尾のように連呼していた人間とは思えない発言だ。
一緒に生きるという選択肢?
それはまさかアレか?アレなのか?
「ぶふッ!!!」
「っ!?わ、笑うな!」
「いやいやいや、此処でまさかのデレがいただけるとか、ツンデレ最高!もう死んでも良い」
「だから、死ぬとかいうな馬鹿者!」
「うんうん、死なない死なない。セブルスが可愛すぎて生きるのが楽し過ぎワロタ」
セブルスはどうやら、私と生きたいらしい。
どちらが先に死ぬかとかは考えず、ただただ一緒に生きたいらしい。
成程、あぁ可愛い。
どうやらセブルスは、私が思っている以上に私が好きらしい。
そのことが分かると私はニヤニヤした笑みを浮かべつつ、ソファから起き上がった。
目指すは、嫌な予感がしたような顔をするセブルスの座る、正面ソファ。
私はすとんっとセブルスの隣に座り、にーっこりと笑った。
セブルスは自分の言った台詞に恥ずかしくなってきたのだろう。無理やり本に視線を集中させようとする。
「だぁーい好き、セブルス」
「・・・・・・」
「うんうん、両想いだね」
返事はなかったけど、そんなのセブルスの真っ赤な顔を見ればわかってしまうものだ。
最期はセブルスの手で。
でもその最期は、まだ当分来ないだろう。