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大好きな彼が捕まったあの日。



胸にぽっかりと穴が開いたのを覚えている。

周囲の人間が心配げに声をかけてくれた気がするが、僕は何も返事をすることが出来なかった。



ただ只管に好きで、愛していた相手。

アズカバンに収容されることとなった彼。


マグルを殺し、仲間であったはずのピーターを殺し・・・



嗚呼、何で何で――






「カイト・・・もう忘れるんだ。シリウスのことは」

「・・・無理だ。僕の青春はほぼシリウスであったと言っても良いほど、彼は僕に深く根付きすぎている」


学生時代からずっと好きで、卒業の時に告白して、まさか告白を受け入れてもらえるとは思ってなかった僕は、顔を赤らめて「あぁ・・・ぃ、いいぜっ」と返事をしたシリウスをたまらず抱き締めた。

シリウスにべったりくっつき、周囲が呆れる程だったと思う。




僕は彼無しでは生きていけない。




それぐらい、僕の中の彼の存在は大き過ぎたんだ。



荒れた部屋の中でぼんやりとしている僕を、今日も尋ねてくるのはリーマス。

今年、ホグワーツの職員になったのだと聞いた。



そういえばあれから何年経っているのだろう。


部屋の中にずっと立てこもり、ただ只管に時が過ぎていくのを感じているだけの僕は、今が何時なのかもわからない。



けれどそれでも良い。

彼がいないなら、日付も気にしなくても良い。


彼の誕生に感謝する必要も、彼との記念日を祝う必要も、彼と共に何処かへ行く計画を立てる必要も・・・もうない。




「カイト、君はもう立ち直るべきだ。君は素晴らしい魔法使いだった・・・ダンブルドアも、君が立ち直ることを望んでいる」

「・・・リーマス。僕は無理だ。シリウスがいなければ、何も出来ないんだ」


不死鳥の騎士団の一人として頑張ってこれたのは、シリウスを守りたかったから。

戦いの最中でシリウスを亡くしてしまわないように、必死で頑張っていた。

故に僕は不死鳥の騎士団の中でも力の強い魔法使いとして知られていた。



でも今は違う。


抜け殻のようになってしまった僕を今でも甲斐甲斐しく尋ねてくるのは、リーマスやダンブルドアぐらいだ。

他の人たちも、最初の何年かは尋ねて来てくれたが、僕がもう再起不能だと知ると、もう来なくなった。




それでも良いんだ。

もう、何もかもがどうでも良い・・・






「愛しているんだ・・・シリウスを、どうしようもなく」

「・・・彼のことは、私だって残念に思っている。けど、立ち直らないと・・・」



「わかってるんだ。けど、無理なんだよ・・・」


リーマスの口から以前、ヴォルデモートが復活したと知った。




闇の陣営との戦いが再び始まるだろう。

けれど僕はきっと戦えない。殺されるのを待つばかり。




「何で僕、今でも生きてるんだろう・・・」

「っ・・・!」


悲しそうな顔をしたリーマスは「すまない・・・もう帰るよ」と言って部屋を出て行った。

あぁ、もうリーマスは来ないかもしれないな、と思いつつ、僕は目を閉じた。



もうこのまま、永遠に眠ってしまおうか。






「シリウス・・・」


僕には君がいないと、生きていけないのに――
















ガリガリガリッ

「・・・?」


玄関から、扉をひっかくような音がする。

一体なんだろうか、と覗き穴から見れば・・・




「・・・犬?」

真っ黒な犬が、そこにいた。


そっと玄関の扉を開ければ、その黒い犬がじっと僕を見つめていた。



痩せた犬だ。

僕もやつれているから、この犬に言えたことじゃないかもしれない。





「・・・あぁ、そうだ・・・リーマスがこの間おいて行ってくれたパンがある・・・食べるかい?」


そっと犬を撫でると、犬はぺろりと僕の手を舐める。

それを肯定だろうと思い、犬を部屋の中へ入れた。





「さぁ、お食べ」


皿に載せたパンをそっと床に置けば、犬がゆっくりとそれを食み始めた。

そんな犬の頭を軽く撫でつつ、私は目を細める。



黒い犬。

私と同じでやつれてて、何だか親近感がわく。




「君は野良犬かな・・・良かったら、一緒に暮らすかい?」

ふと思いついたことを犬に提案する。


犬はぴくっと反応して、顔を上げた。






「僕は・・・もう生きる気力がなくってね・・・シリウスがいなくなった日から、もう僕は・・・」

泣き出しそうな僕の手を、犬が舐めた。



「慰めてくれているのかい・・・」

何処となく犬も悲しそうな目をしているような気がして、何だか笑ってしまった。


シリウスも、僕が悲しんでたりする時はまるで自分のことのように悲しんでくれたっけ。




もちろん楽しい時も、喜んでいる時だって、その気持ちを共有してくれた。

嗚呼・・・やっぱり僕は、シリウスがいなくちゃ駄目みたいだ。





「君はシリウスみたいだ・・・」


そういえば、シリウスも黒い犬になることが出来たな。

そんなことを思いながら犬を撫でると、犬が「くぅん・・・」と小さく鳴いて――







「ぇっ・・・」



犬が徐々に姿を変えていく。

僕は大きく目を見開いた。









「し、りうす・・・?」






「・・・よぉ」

そこにいたのは、犬ではなく・・・


僕の愛する人だった。





どうして?

彼はアズカバンにいるのではなかったの?


どうしてどうしてどうしてどうして・・・





「・・・リーマスから聞いた。お前が・・・ずっと、俺を想ってくれてたこと」

「っ、シリウスっ、僕は・・・」


「不安だった・・・カイトは、もう俺を愛してないんじゃないかって・・・」

「そんなわけないっ、僕は、君なしじゃ駄目なんだっ・・・!」



僕はシリウスに抱きつき、泣いた。


泣きじゃくる僕を抱き締め返して背中を何度も撫ぜてくれるシリウスに、もっと涙が出た。






しばらくしてやっと落ち着いてきた僕に、シリウスは今までの成り行きを教えてくれた。

アズカバンのこと、ピーターのこと、ホグワーツのこと、ジェームズの息子のこと・・・


その全てに驚くしかなくて、それと同時に・・・自分の不甲斐無さが嫌になった。






「ごめん、シリウス・・・僕は、君に何もしてあげられなかった・・・」

再び泣き出しそうになる僕に、シリウスは首を振った。



「良いんだ・・・ずっと、俺を想ってくれていただけで・・・けど、ごめんな・・・俺のせいで、こんなにやつれたんだよな・・・」

「シリウスのせいじゃない・・・」


シリウスのせいであるわけがないんだ。


だって彼は・・・






「僕のところに帰ってきてくれただけで、十分だっ」


もう離すものかと言わんばかりに、僕はシリウスを強く抱いた。




君がいなきゃ成り立たない人生



「元気になったようだね、カイト」

「長いこと、リーマスには迷惑かけた。けど、これからは大丈夫だ」

明るく笑って言うカイトに、後日やってきたリーマスはにっこりとほほ笑んで「あぁ」と頷いた。


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