×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





※御影成代り主。


自分は御影玲王に成り代わったのだと思う。

思うというのは、自身の名前が玲王ではなく名前であったことが原因だが、きっと名前なんて些細な違いなのかもしれない。

前世で読んでいた漫画にそっくりな両親、そっくりな環境、多少の違いはあるが概ね御影玲王にそっくりな容姿・・・

もしかすると御影玲王は弟なのかもしれないと思ってもみたが、自身が物心ついてから数年経っても御影玲王は誕生しなかった。


つまり俺は御影名前という名前の御影玲王なのだと思う。

つまり、つまり、俺はこれから自身の人生に強烈な『退屈』を感じ、簡単に手に入るモノに対しての興味を失い、そして『W杯』という普通じゃ手に入らないものを欲してサッカーの道に進んでしまうのだろう。

そこで『宝物』を得て、けれど『宝物』は宝物と目指した夢のせいで自分から離れて行って・・・



「は、無理・・・」



漫画の中の御影玲王がショックを受けたのと同じように、きっとその状況になったら俺はショックを受けるだろう。けれど全く同じではなく、きっと、いいや絶対・・・俺は御影玲王以上にショックを受け、そしてぽっきりと折れる。

俺には許せないことがある。自分のものが自分のものじゃなくなることだ。

既に親から与えられるだけのものに対してあまり興味はないが、興味がないからといって失うことは許せない。

もう遊ばないからと誰かに玩具を譲るのは許せない。興味がないからといって一度近くに来た人間が離れて行くのも許せない。興味がないモノに対してもこうなのだから、『宝物』が離れて行くなんて許せないどころの話じゃない。

将来的に自分の心がぽっきり折られるとわかっていて、漫画のような行動をするほど俺は挑戦的にはなれない。

ならばどうするか。そもそも『宝物』を得なければいい話だ。

そう、それだけの話だったのに・・・




「凪、寝てないでちゃんと自分の足で歩け」

「やぁだ・・・運んでよ、名前」

背中にぴっとりとくっ付いている凪誠士郎。御影玲王の『宝物』。

世界に何らかの補正力でもあるのか、ある日俺は凪と出会った。

階段を下る途中の踊り場でスマホを弄る凪とぶつかり、スマホを階段下へ落としかけた凪が見事な足技でスマホを救出する姿を見て・・・

正直なところゾクッとした。スマホを無事を確認する凪がまるで運命の相手かのように輝いて見えて、目を離すことが出来なくなった。



これは俺のだ。



恐ろしいまでに自分勝手でどうしようもないほど傲慢な考えが頭を支配して、気付けば俺は「欲しい」と口にしていた。

W杯?そんなものはどうだっていい。俺はこれが、目の前の『凪誠士郎』が欲しい。

じわじわと頭の中が侵食されていく感覚は煩わしいものではなく、いっそ沈み込みたいほど甘美だった。


俺の声に反応したらしい凪が首を傾げる姿を見てようやく正気に戻った俺はぶつかったことを謝って逃げるようにその場を後にした。この時の判断は悪くなかったのだが、やはり世界に何らかの補正力でもあるのか、それから俺と凪の遭遇は増えていくことになる。

廊下ですれ違うことが増え、すれ違う時に凪が何かを落とすことが増え、それを拾ってやるせいで会話をするようになって・・・


クラスは別だったのに合同体育でサッカーの試合をすることになった時は最高・・・いいや、最悪だった。

凪の身体能力は相当なもので、動き一つ一つが輝いていた。何時の間にか俺のことを『名前』と呼ぶようになっていた凪がシュートを決めるごとに「名前ー、見てた?」とチームが別の癖にアピールしてくるのも良くない。欲しい、あぁ欲しい。

結局途中でやる気をなくした凪が露骨に動きが鈍くなったおかげで勝ったのは俺のクラスのチームだったが、凪のやる気が損なわれなければ勝っていたのは凪のチームだ。

授業が終わって近づいてきた凪が「あー、疲れた、めんどぃ」と愚痴を零すのを見ていた俺はまた「欲しい」と口にしていた。

凪はそんな俺を見詰め「欲しいって、俺が?」と首を傾げた。そこまで鈍感な男ではなかったらしい。

凪の問いかけに「ごめん、何でもない」と言ったが、凪は納得はしてなかったのだろう。

そこから凪との遭遇は更に増えた。というより、凪の方から俺に近づいてきた。

昼休みになると俺のクラスに来るし、放課後の帰る時間になると凪もいるし、眠いだるいと自分を運ぶように甘えてくるし、あとは・・・



「運んでくれたら、名前のものになってもいいよ」



「・・・安売りすんな」

事あるごとに、凪は俺に自分を差し出してこようとする。

俺が欲しいと口にしたから、だったら貰ってどうぞと簡単に自分を差し出してきた。

口から零れるほど凪のことが欲しくて欲しくてたまらない俺としては喜ばしいことなのだが、いずれそれが失われることは受け入れがたく、だからこそ差し出された『凪』を受け取ることが出来ない。

背中にくっ付いた凪が「なんだよ、欲しいって言ったのは名前の癖に」と拗ねたような声を上げる。止めて欲しい、まるで凪自身が俺に貰われたがっているかのような物言いは。


「そういえばさ、名前ってサッカー部に誘われてたじゃん」

「サッカー部だけじゃなくて、野球部と弓道部とバスケ部とバレー部・・・運動部からはことあるごとに誘われてる」

「けど特に勧誘熱心なのはサッカー部だよね。何だっけ、チームメンバーが骨折しちゃったとかで人数が足りないって」

「よく知ってるな」

「名前と仲が良いお前が頼み込んでくれって、クラスのサッカー部が」

あぁ余計なことを。

意図してサッカーから距離を置いているのに、何故そっちから近づいてくるのか。


「名前が無理なら俺だけでもって言われてるけど、やる気でないし」

「じゃぁやらなければいい」

「んー、けど・・・名前となら一回ぐらい別にいいかなって」

ゾワゾワと身体の奥が震える。俺の宝物っ・・・違う、まだそうじゃない、いや、まだとかじゃなく、凪は俺の宝物ではない。そうだ、何を動揺する必要がある。


「いや、俺はサッカーは・・・」

「ねぇ・・・名前って、俺が欲しいんじゃないの?何を迷ってるのか知らないけど、迷うぐらいなら一度使ってみればいいじゃん」

「・・・は」

「お試し?試用期間?俺は別に名前に貰われてもいいから、名前は試しに俺を貰ってみればいいじゃん」

なんて魅力的な提案をしてくるんだろう。

駄目だ駄目だとわかっていながら、俺は背中にぴったりとくっ付く凪を振り返った。

凪の顔は驚くほど至近距離にあり、俺と目があった凪が眠そうな顔のまま「ね、どうする?」と聞いてくる。

俺の口は勝手に「じゃぁ、一度、だけ」とか細く返事をしていた。あぁ馬鹿だ。







「名前にも届いてるでしょ、コレ」

欠伸を噛み殺しながらそう言って凪が見せてくるのは、青い監獄ブルーロックという地獄への招待状。

曖昧な笑みを浮かべてその手紙を見詰める俺を、凪は「面倒臭いけど、授業よりかはマシかもね。名前は授業受けなくても頭いいしね」とさも一緒に行くことが当然のように言う。

あぁこんな酷い手紙が来ることを俺はわかっていたはずなのに。何故俺は、凪とのサッカーをあの試合の助っ人だけで終わらせなかったのだろう。


俺と凪を加えて勝利へと導かれたサッカー部が異様な盛り上がりを見せて、誰かが「御影と凪のコンビは最高だな!」と声を上げた。それを聞いた凪が「だってさ、名前。此処で俺を使ってみる?」と謎にノリ気な言葉を口にしたものだから馬鹿な俺はうっかりとその言葉にのぼせ上って、気付いたらこうだ。

あの一度だけでサッカーなんてやめておけばよかった。そうすればこれからもずっと、凪は俺の・・・



「名前、まだ俺は名前のものになれない?」

手紙を見詰めたまま返事をしない俺に、凪は言う。

「だったらもっと使ってみてよ。使って、それから考えて」

俺だって本当は凪を自分のものに、宝物にしたい。けれど此処に行けば凪は、俺の宝物は・・・

「まぁいいや。とりあえず、俺は名前が行くなら俺も行くから」




「・・・凪が、誰のモノにもならないなら、行く」

絞り出した言葉。

青い監獄で凪が得られることは沢山ある。現状俺のモノではない凪を俺の我が儘で縛り付ける必要はないだろう。

けれど失うのは駄目だ。たとえまだ俺のモノじゃないのだとしても、俺のモノになってもいいと言っている凪が「やっぱり名前のモノになるのはやめとく」と言うような状況になるのは、駄目だ。

俺の言葉に凪はぱちりと瞬きをした、それから首を傾げた。



「なるわけないじゃん。だって俺はお試しが終わったら名前のモノだし」

あまりに当たり前のように言うものだから、俺は少しだけ気持ちが緩むのを感じた。

もしかしたら凪は本当に、俺だけのモノに、宝物になってくれるかもしれないなんて・・・




宝物の試用期間




「欲しい」

最初は何のことだかわからなかったけれど、それが自分のことだと気付いたのは二回目に「欲しい」と言われた時だった。

あ、名前って俺のことが欲しいんだ。

あんまりにも物欲しそうに、けれど物欲しいじゃ言葉が可愛すぎるぐらいには目がヤバくて、なんか気を抜くとするに喰われそうな感じの目で見られた俺は、今まで感じたことがない感覚を心臓で感じていた。

欲しいならあげてもいいんじゃない?と思って、だからいいよと差し出したのに、当の名前は受け取ってくれなかった。


嘘吐き。俺が欲しいって言ったのは名前の癖に。

けれど名前は欲しくなくなったから俺を受け取らないんじゃなくて、欲しい癖に我慢して受け取らないらしい。何で?我慢する必要なんかなくない?

俺が甘えれば困ったような言葉は口にする癖に、手つきは凄く丁寧で、目は嬉しそうに俺の世話をする。まるで愛玩動物でも可愛がるみたいに俺を扱う時もあれば、なんか恋人みたいに甘い感じに扱う時もある。兎に角、とても大事にされてる。

そんなに大事なら貰えばよくない?名前は頭がいい癖に馬鹿だ。

何を怖がっているんだろう。サッカーをする時は特にそう。

俺が自分の言う通りに動くと嬉しそうに笑う癖に、たまに泣きそうな顔をする。情緒不安定。


もしかして俺が離れて行くとか、そんな馬鹿げたこと思ってる?だったら俺が離れられないぐらい、徹底的につなぎとめておけばいいのに。

きっと名前にはそれが出来る。だって名前だし。

不安になる暇があるなら、早く俺を受け取れよ。早く・・・早く、俺を名前のモノにして。



あとがき


・御影成代り主
凪のことが欲しくて欲しくてたまらないけど、原作を知ってるから手を出しきれない。なのに宝物(願望)の方から近づいてきて困惑してる。
サッカーのせいに宝物喪失の危機になるのはわかってるけど、それはそうとサッカーは結構楽しんでる。
もし本当に凪が手に入ったら、もう逃がさない。手放す気は一切ない。

・凪誠士郎
自分に向けられる名前の目にドキドキした。真っ直ぐな瞳というよりは、ねっちょりどろどろな絡みつくような視線だった。
欲しいならあげてもいいやって思ってあげたら受け取って貰えなくて「はぁ?」ってなってる。
多分原作通り途中で名前とは別チームになるけど、それはそうと試合以外ではべったり状態になるかもしれない。
サッカーとプライベートはきっちり分けられるタイプかもしれない。


潜在的な執着心と視線のねっちょり加減は御影成代り主の方が強烈だけど、もし成代り主が自分以外に目を向ければ成代り主を越える熱量で凪がキレるし殴るし暴れるし罵倒する。
「名前が欲しがるもの束縛するのも俺だけだろ?(キレ顔)」



戻る