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その日アンリが連れて来たのは若い、おそらくまだ大学生ほどの男だった。

今日は大変重要な方を連れてくるので!と息巻いていたアンリが連れて来た予想外に若い男に絵心は微かに小首をかしげる。

それに気付いたアンリがその豊かな胸を張り「ついにやりましたよ!」と隣の男を示す。


「今回の計画でシステム面を担当してくださることになった苗字名前くんです!」

「ふーん、よろしく」

何だ技術者か、と絵心は納得する。それでも予想外に若いことには変わりないが、この手の業界について大して詳しくもない絵心は「まぁその業界だと若い技術者もいるんだろうな」と受け入れていた。

それにカッ!と目を見開いたアンリが「それだけですか!?」と驚く。


「絵心さん!もうちょっと!ちゃんと挨拶してください!名前くんと言えば、業界で知らぬ者がいない鬼才!引く手あまたで本来なら会うことすら難しいのに、今回の計画に協力してくれることになったんですよ!しかも大特価で!!」

何処か興奮気味に紹介しているが、もしかすると男は過去にサッカー関連のシステムの仕事をしたことがあるのだろうか。


「はいはい、有難うね名前くん。で?その鬼才はどうして今回協力を?」

「んー、珍しいタイプの仕事だったから気分転換に受けてみようかなっていうのと、アンリさんがあまりの熱量でプレゼンしてくるからその熱量に半分負けてっていうのと、後はそうだなぁ・・・」

幼さを残す無邪気な少年の笑顔で名前は絵心を見詰める。

「好きなんです、普通の人じゃしないようなことを仕出かす『馬鹿』が」

「へー・・・因みに、それは褒めてる?」

「凄く。うっとりしちゃうぐらい」

その言葉に嘘はないようで、絵心を見詰める名前の目は何処か微笑ましそうな、それでいてまるで得物に狙いを定めた肉食獣のような鋭さも薄っすらと感じさせた。

単純に馬鹿にされるよりも何やら面倒な気配を感じ取った絵心が軽く眉を寄せる。名前はにこにこと笑うばかり。



「まぁいいや。それで?鬼才の名前くんは青い監獄でどんな凄いことをしてくれる?」

「それはもう、絵心さんが欲しいと言った機能は全て再現しましょう。何が欲しいですか?24時間選手の状態が全て把握できるボディスーツ?世界レベルの動きが出来るGK風アンドロイド?邪魔なマスコミが一切侵入出来ない高レベルなセキュリティ?」

「とりあえず今言ったのは全部。後はオーダーがあれば随時実装して欲しい。一つのオーダーにつき納期は?」

「簡単なものならその日のうちに。パーツが必要なものはパーツが揃えばその日のうちに。大掛かりな設備でも素材さえあれば一週間程度で出来ると思いますよ」

「だ、そうだ。アンリちゃん、輸入先との連絡交渉は任せたよ」

「はい!」

今言ったものが確実に手に入ると知り、アンリは目を輝かせながら力強い返事をした。まぁ絵心としてはまだ半信半疑ではあるのだが。


「絵心さん、僕は自分で言うのもなんですが正直者ですよ。出来ないことはちゃんと出来ないと言います」

絵心の疑りを察してか、名前は笑顔のままそう宣言をし、それから早速青い監獄内のシステムの確認に取り掛かり始めた。







「・・・凄いね、名前くん」

「だから言ったじゃないですか!名前くんは本来会うことすら難しい人なんです!」

苗字名前という鬼才を迎え入れてから一週間。たったの一週間で、青い監獄内にある設備はある程度整った。整ってしまった。


本人が「ある程度のプログラムは組んできました」とUSBをぶっ差したかと思えば、そこから絵心やアンリでは理解できないような文字列を見ながらキーボードをぽちぽちと弄り、かと思えば突然立ち上がって何処からともなく持ってきた大きな四角い鉄の塊をコードでつなぎ始めて・・・

出来ましたよ、という軽い宣言と共に青い監獄の基本システムは出来上がっていた。

業者に発注したというアンドロイド用の部品を含むパーツの組み上げも本人一人で仕上げるのだから、普通の技術者とは違うのは専門外であっても流石にわかる。

途中から「あ、こいつ凄いヤツなんだ」と理解した絵心は時折「こういうのは出来るの?」「こういうの欲しい」と要望を出すぐらいで、後は名前が完璧な仕事をする様子をたまに観察する程度になっていた。


アンリはまるで自分のことのように自慢気に「ほらね!」と胸を張る。相変わらず胸がデカい。

見事絵心の要望通りに青い監獄の基本システムを仕上げた名前はと言えば、正直なところ暇そうだ。

今だって余った素材でルンバの模造品や食洗器の模造品を頼んでもいないのに量産している。

それもそろそろ完成しかけると、名前は思い出したように絵心とアンリの方を振り返った。



「絵心さん、何か欲しいものはないですか?取り合えず手が空いていたのでトイレは全て自動開閉機能を付けて、絵心さんの部屋には緊急用シェルター機能を付けておきましたけど」

「息をするように余計な機能付けるじゃん」

「え?ほらだって、脱落した選手が抗議のために絵心さんを襲撃するかもしれないじゃないですか。絵心さんとアンリさんの部屋の要塞化に妥協は許されません。あ、予算的に僕の部屋の要塞化は難しそうだったので、緊急時は僕も絵心さんの部屋に入れてくださいね、これでも業界じゃ国宝扱いなので」

そんな状況は絶対に無いとは言えないため、絵心は微妙な表情のまま頷く。

追い詰められた人間が仕出かすことは時にこちらの考えを大いに上回る。良い意味でも、悪い意味でも。

絵心はW杯に優勝できるストライカーを生み出したいのであって、暴行や殺人の犯罪者を生みたいわけではないのだ。そうならないために、被害者になりえる自分たちの方がきちんと身の安全を確保しておくのも大事なことだろう。

絵心の返事に満足したらしい名前は「安心してください」と朗らかに笑う。



「もし選手が暴動を起こしてもいいように、着用予定スーツにはきちんと電流が流れるようにしてます」

「何がちゃんとなのかわからないけど、君もしかしてこの計画の趣旨を勘違いしてる?デスゲームと勘違いしてない?」

何時の間にやら選手用のスポーツウエアが危険物に改造されていた。

絵心のドン引きに気付いていないのか、名前は「此処のボタンが電撃です。あ、お仕置き部屋もちゃんと用意してますからね」といらん説明をしている。


「名前くんさ、こっちに内緒でヤバイ装置作ったりしてないよね?足元が突然開いて下に落下するとか、扉が全部ロックされてその部屋が水責めにされるとか・・・」

「あははっ、絵心さんってば冗談がお上手ですね。選手たちが健やかに過ごす空間にそんな怖いものは設置してませんよ」

先程スーツに電流装置を仕込んだヤツが何を言っているのか。


「あぁでも、もしプロの襲撃犯が来た時でも選手や絵心さんとアンリさんを守れるように、壁が迫ってきて侵入者を死なない程度に潰す装置とか、催涙スプレーで部屋を充満させる設備はありますよ。本当は麻酔銃とかテーザー銃とかを検討してたんですけど、なんかいろいろ法律が難しくて」

絵心はちらりとアンリを見る。お前なんてヤツを連れてきてんだ、と。

アンリはその視線から逃げるように名前が仕上げたばかりの食洗器に近づき「わー、便利そう、有難う名前くん」とお礼を言った。




監獄の設備担当者




空調管理が完璧な暑くも寒くもない部屋、絵心が望めばすぐに出てくる適温の珈琲、ボタン一つでわかる選手の状態、別のボタン一つで繋がる技術者への内線・・・

絵心は快適すぎる現状に慄いていた。

この計画を遂行する上である程度の無理は覚悟していたし、実際に多少の無理はしている。

けれど当初想像していたよりはずっと楽で、そして何より生活が快適過ぎた。

短い睡眠でも十分に疲れが取れるようにと技術者が一から設計したというベッドの寝心地も良く、同じように設計して貰ったらしいアンリも「あのベッドで少し眠るだけで一気に身体の不調が改善する」と興奮気味だ。

風呂もトイレも、ハイテク且つ使いやすい設計で文句の一つも見当たらない。

・・・いや、文句はある。誰がそこまでしろと言った、だ。


「名前くん、未報告な増設とかしてないよね?」

『してないですよー』

「してるじゃん。今まさに、人の独り言勝手に聞き取って。何処だ?何処にスピーカー付けた?」

『ごめんなさーい』

部屋の何処からか流れるこの部屋にいないはずの名前の声に、絵心は頭を抱えた。


『そう頭を抱えなくても』

こいつ、カメラも設置しやがったな。

絵心は名前への説教を心に決め、技術者直通呼び出しボタンを連打した。



あとがき

たぶん技術者くんは絵心さんのことが好き。
好き過ぎて息をするように絵心さんを盗聴盗撮してる。

法律をギリギリ守りつつヤバイ設備をどんどん増やしてるけど、たまにうっかり絵心さんとアンリちゃんに報告を忘れるお茶目さんだったりもする。


『質問』のコメント【ブルーロックの夢見たいです!】から実行しました。



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