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※現代。美醜逆転ネタ。


カフェのテラス席でぼんやりホットカフェラテとマドレーヌのセットを口にしていると、とんでもねぇ不細工と目が合った。

相手はパーカーのフードを目深く被っていたが、歩きの振動で軽く捲り上がった瞬間のことだった。

まぁすぐにどっか行くだろうな、と思いつつマドレーヌに視線を落として一口齧る。うん、バターの風味を感じられる素晴らしい逸品。


もぐもぐとマドレーヌを咀嚼しながら視線を戻せば、何故かさっきの不細工が近づいてきていた。

ん?どした?と首を傾げていると、あっという間に距離が詰められ、あろうことかその不細工は丸テーブルを挟んだ正面の席に腰をおろした。



「え?何?」

「・・・目、合ったから」

「ぼんやりしてる時に人と目ぇ合うなんて珍しくもないと思いますよ?」

意味の分からない理由で接近されたらしい。マドレーヌのせいなのかこの意味不明な奴のせいなのか、口の中が渇いてきたためカフェラテで潤す。

無言のまま数秒経過。相手の視線がきょろりと動いてマドレーヌで止まる。


「・・・一つ食べます?俺、これ飲んだら帰るんで」

皿の上に残っている最後のマドレーヌを指差して言えば、相手は「あ、え、いいの?」と聞いてきた。頷いてやれば、おずおずと伸びてきた手がマドレーヌを掴んだ。

そのままもぐもぐとマドレーヌを齧った相手が小さく「美味しい・・・」と言うのを聞きつつ残りのカフェラテを流し込み、俺は席を立った。


「じゃ、俺もう行くんで」

「あ、ま、待って」

服の裾が掴まれた。

なんだなんだと見下ろせば、俯いた相手が「か、一虎」と言う。かずとら?


「なまえっ、俺、一虎って、言うんだけど・・・」

「あー、はい」

「・・・、・・・あんた、の、名前も、教えて欲しい、です」

何で見ず知らずの、目が合っただけの人間と自己紹介を?と思ったが、これは名乗らないと開放されないパターンだろう。俺は仕方なしに「名前」と短く名乗った。心なしか一虎と名乗ったその男が嬉しそうに口元を緩ませ、同時に手元も緩んだため、俺はその隙に距離を取って「それじゃ」と歩き出した。

何だったんだ?と思いつつ、カフェラテもマドレーヌも美味しかったため、また来ようと心に決めた。






「名前、名前っ、やっぱり名前だった・・・あぁ、前と変わらない、また会えるなんて・・・」

残された一虎は、真っ赤な顔で震えていた。

緩んだ口元、どきどき高鳴る心臓。フードの下で一虎は恍惚に笑った。


小学生の頃から「そう」だった。

一般的に『不細工』とされる人種を目の前にしても、逆に『美しい』とされる人種を目の前にしたって、一切変わることのない態度。温度が一定の眼差し。

不細工を不細工だとはきちんと認識しているようだったが、それでも態度を一切変えない名前は不細工たちからそこそこ人気だった。

一虎も、自分が落とした消しゴムを拾って貰ったことがあった。普通なら無視すれるか、最悪わざと踏まれたり捨てられたりしても仕方がなかった。それぐらい、世間は不細工に厳しかった。けれど名前は違った。

落としたよ、この消しゴムのアニメ俺も観てるよ、面白いよね。拾った消しゴムを差し出しながら、そう言って笑った。


一虎に対してではなく消しゴムの外枠に印刷されたテレビアニメの主人公を見て笑っていたのはわかっている。それでも一虎は、自分に向けられたかのようなその笑顔に一目惚れした。

小学生の一虎は、それからずっと名前を目で追った。帰り道に後ろをついて行って家を特定したり、連絡網に書かれている名前の家の電話番号を暗記していつか電話出来る日がくるんじゃないかとドキドキしていた。

そんな日々は一虎が少年院に入ることで強制的に終わりを告げたのだが、名前はその間に引っ越してしまったらしく、その行き先はわからぬままいろんなことがあってそのまま大人になった。


あれから10年以上経った今日、自身が働いているペットショップの買い出しの途中で名前を再び見つけることが出来たのは奇跡としか言いようがなかったし、一虎は運命だと思った。

残念ながら名前は一虎のことを覚えてはいなかったし、名乗っても思い出してはくれなかった。小学生以来会ってないし、そもそも一虎と名前は友達でもなくただのクラスメイトだったのだから仕方がないのかもしれない。

でも大丈夫。うっかり名前の名前を呼んでしまっても不審がられないように名前の名前も聞いておいたから『次』に生かせる。


「家と、後は連絡先・・・恋人は、いないと、いいなぁ」

ぶつぶつと独り言を口にしながら、一虎はふらふらと歩き出す。

昔と変わらない、温度が一定のあの眼差し。マドレーヌを食べて自然と浮かべた笑顔。

あれが、あの笑顔が見られるだけでも一虎は幸せなのだ。笑顔じゃなくても、不細工な自分を視界に入れても表情を歪めない、ただそれだけで。

店の買い出しも大事だ。だからそれは後回しにせず、さっさと終わらせるつもりだ。

それが終わったら準備をしよう。マドレーヌもカフェラテも気に入っている様子だったため、またこの店に来るだろう。この時間帯に名前を探して、また名前の姿を見て、チャンスがあるなら後ろをついて行って家を特定しよう。

セキュリティが甘い家だといいな、そしたら家の中に入って、前もって用意する予定の盗聴器やカメラを設置しやすい。


「ふ、ふふ・・・名前、俺の、名前・・・」

一虎は嬉しくなりながら、目的の店へと向かった。




キミニムチュウ




「一虎くん、最近調子良さそうですね」

「・・・ん、まぁ、そうかも」

耳にイヤホンをさし何かを聴いている一虎の表情は柔らかく、その表情を見た千冬も思わず笑う。

自分たちのような顔を持つ人間は世間から疎まれ、常に生きづらさを感じている。そんな中で心穏やかにいられることは幸せなことだ。

理由はわからないが、一虎をそんな気持ちにさせてくれる何かに千冬は感謝した。


「音楽か何かですか?」

「音楽というか、あー、あれ、音聴くやつ」

「あぁ、ASMRってやつですか?」

「そんな感じ」

「へぇ、確かにハマる人は多いって聞きますもんね」

千冬は自分も後で適当な音源を探してみようかと思いながら、ケージ用の掃除道具を手に取った。



あとがき

・美醜逆転世界産な男主。

美醜逆転世界でその世界基準の価値観を持ってる。
不細工()は普通に不細工だなとは思うけど、わざわざ口に出したり行動に出すほど興味も嫌悪もない。美形相手も同じくらい興味がない。そもそも他人への興味関心が薄い。

小学生の頃にちょっと親切にした相手からストーカーされるようになってしまった。部屋に盗聴器とカメラが設置されてるし、たまに部屋のものとかゴミがなくなる生活をおくることが確定してる。
今のところこれっぽっちも気付いてないし、一虎の存在も忘れてる。
もしかしたら小学生の頃に転校した先で他のキャラとも知り合ってるかもしれない。



美醜逆転世界に転生した夢主が前世基準の美的感覚でキャラを美人扱いするのも良いけど、前世もなくこの世界に産まれてこの世界の美的感覚のままでキャラと接する話もみたい・・・
他意もなく平等の扱いをしたが故に一部から執着されたり、執着までいかずともマブダチとかになって欲しい。



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