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※【SSS】『短編』の『まーちゃんは可愛い』の別視点。先天性女体化。


「東京の女の子ってさぁ・・・めっちゃ強いよなぁ」


真後ろ席からそんな声が聞こえて、お子様ランチを頬張っていた万次郎は手を止めた。

万次郎と同じく、その声が聞こえていたらしい他のメンバーも手を止め、後ろの会話についつい耳をそばだててしまう。何せ自分たちは『東京の強い女の子』の代表格みたいなものなので。


どうやら後ろの席は男子学生が二人いるらしい。万次郎がちらりと自分の正面に座っているドラケンを見れば、ドラケンは小さく「近くの公立高校の制服だ」と万次郎に伝えた。

冒頭の台詞を言った男子学生は高校入学を機に田舎から上京してきたらしく、田舎と都会のギャップを感じているらしかった。

東京は不良が多いだとかビビってるだとか、何とも情けない男だ。場地は「なっさけねぇ」と眉を寄せた。

田舎の女はそんなにおしとやかなのかと別の男子学生が問いかけると、その男子学生は何でもないような声で「おしとやかとはちょっと違ったかな」と返事をした。


「うちの村割と野生生物多くて、男に混ざって女の子が猟銃持って駆け回ってることよくあったし」

女が猟銃持って駆け回る???田舎の方が物騒じゃないか???

場地とパーちんのあまり良いとは言えない頭では処理し切れなかったらしい。二人して宇宙を彷徨ったような顔をした。


「俺はむしろそっちの女子の方が怖いんだけど」

相手の男子学生に同意するようにドラケンが頷いた。


「大自然の生存競争の前に男女とか些細な問題だからさ。・・・俺は女の子同士で容赦なく顔面とか腹とかを殴り合ってる方が怖い・・・おなかは特に大事にして欲しい、実家に置いてきた愛犬のマカロンちゃん思い出して泣きそうになる」

何だよ、女なら怪我するようなこと控えろって言いたいのかよと全員がイラッときていると、後半で謎の愛犬『マカロンちゃん』の話題になった。誰だマカロンちゃん、名前が絶妙にダサい。


どうやらマカロンちゃん、通称『まーちゃん』は田舎にいる愛犬の名前らしい。

まーちゃん、の部分に万次郎が反応し、それを見た他のメンバーが軽く吹き出した。


マカロンちゃんは捨て犬だったメスのマルチーズで、前の飼い主に暴力を振るわれていて、痩せ細って腹にも痣があったらしい。

動物好きの場地や犬を飼っているパーちんは「良い奴じゃねぇかっ」と先程の情けない男判定を撤回した。

男子学生はどうやらそのまーちゃんの影響で女が怪我をすることに敏感らしい。「・・・無理、女の子の顔とか身体とかに痣あるの駄目、泣きそう、全力でよしよししたくなるから」と言った時の声は若干震えていた。


「・・・優しい男だな」

「ははっ、けどちょーっと情けなさがあるよな」

隣に聞こえないように、声を潜めてくすくすと笑い合う。普段は東京卍會なんていう不良チームとして暴れ回っている彼女たちも、今この瞬間は普通の女子中学生にしか見えないだろう。

愛犬が相当好きなのだろう。愛犬のことを幸せそうに話している。


「本当に可愛いんだ。実家に置いてきたけどさ、寮がペット禁止じゃなきゃ絶対連れてきてた。まーちゃんロスがヤバイ・・・最近、近所で見かける女の子の頭見るだけでも涙腺が緩む」

お?お?気になる女の話か?とにやにや笑いながら聞いていると、男子生徒の口から既視感しか感じない特徴が出てきた。


「・・・おい待て、これまさか」

全員が万次郎を見る。万次郎も吃驚顔でお子様ランチの最後のひと口を飲み込んだ。


「ゆるふわの金髪を?頭のてっぺんでちょっと結んで?不良の女の子で?」

「金髪っつーか、ピンクゴールドだけどな」

「金髪に種類があることも知らなさそうだもんなぁ」

「やべぇなマイキー、いや、此処はまーちゃんって呼ぶべきか?」

場地とパーちんが茶化す中、男子生徒は更なる情報を零す。


「背は低めで、三つ編みの子と一緒って、やっぱりマイキーだな」

確信を持ってそう言って頷く三ツ谷は、ドラケンの方を見て「ドラケンも美人って褒められてんじゃん」と笑った。ドラケンは「ふんっ」と鼻で笑う。

万次郎はと言えば、完全に後ろの会話に意識を向けているらしく、ちらちらと後ろを見ていた。


「どうだマイキー、見たことあるやつか?」

三ツ谷が問いかければ、万次郎はこくこくと頷いた。

「近所でたまに見る奴」

「マイキー確定だな。やべぇな」

「お、あいつドリンクバー行くみたいだな」

席を立った男子学生とほぼ同時に、三ツ谷も席を立つ。

「どんな男か確認してきてやるよ」

そんなことを言ってウインクを一つ残した三ツ谷だが、単純に面白がっているだけだ。



三ツ谷が空になったグラスを手に男子生徒の後ろを追い、男が立ち止まると同時にわざと少し肩を接触させる。

とんっとぶつかったとも言い難い小さな衝撃に、男子生徒は「ん?」と三ツ谷の方を見る。

間近で見た男子生徒は特別イケメンというわけではなかったが、ダサい感じはしないし顔立ちは優しそうだ。


「わっ、ごめん。ぶつかったけど、怪我とかしてない?」

衝撃はあまりに軽かったし、なんなら三ツ谷の方からぶつかっている。

それでも本気で三ツ谷を心配しているのが、その下がった眉と心配そうな声で分かった。

喧嘩は強くなさそうだが、女を大事にしそうな奴だな。三ツ谷はそんな感想を抱き、にこりと笑って「ははっ、軽く当たっただけで怪我なんてするわけねぇだろ?」と返事をした。

男子生徒がドリンクバーでジュースを選ぶ横でさっさとメロンソーダを補充した三ツ谷は、足早に席に戻る。


「優しさ全振り、女をでろっでろに甘やかすタイプ。多分一途」

完結に男子生徒に対する評価を口にすれば「っぽい、ぽいわー」とドラケンが大きく頷いた。


「マジか。けど腕っぷし弱そうだよな」

「いや、肩ぶつけた感じ、割と筋肉がある。喧嘩の強さはわからないけど、力はありそう」

場地は「そこまでわかんのかよ、すげぇな三ツ谷」と目を瞬かせる。

すると突然、万次郎が席を立った。

そして何も言わず、後ろの席に向かう。

は?は?と他のメンバーが見守る前で、男子生徒が先程まで座っていた席に座った。


「や、マイキーなにやってんだ」

突然目の前に座った万次郎に、男子生徒の連れであるもう一人の男子生徒が「ひっ!?」と声を上げる。どうやらこちらは『無敵のマイキー』を知っているらしい。


「・・・もしかしてマイキー、満更でもないんじゃねーか?」

三ツ谷がこそっと言うと、場地が「はぁ!?マイキー、あんなのがいいのかよ」と呆れたような顔をする。その後「まぁ、動物に優しいってところは評価するけどな」と笑った。


「けどあいつ、不良怖いっつってなかったか?」

「怖いんじゃなくて、不良の多さにビビってるって言ってたろ」

「ほぼ同じだろ。そんなのがマイキーの相手なんか出来んのかよ」

「近所で何度も見かけてるマイキーを『たぶんギャルじゃなくて不良の子』って言うってことは、マイキーどころか東卍のことも知らなさそうだよな」


こそこそと話している間に、男子生徒が戻ってきた。

それと同時に連れの男子生徒は万次郎に耐えきせずにさっさと荷物をまとめ、男子生徒を置き去りに逃げて行った。

そんな男子生徒には勿論誰も興味は持たない。興味があるのは、あの男子生徒の反応だ。


「え、っと?」

混乱ゆえか、自分を置き去りにした奴が座っていた、万次郎の正面へと腰を降ろした男子生徒。

知っている癖に「どちら様、でしょうか?」とやや引き攣った笑みを浮かべる男子生徒に、万次郎は心底機嫌の良さそうな声で言った。



「どちら様って、お前のまーちゃんだろ♥」

男子生徒の顔がじわりと赤くなり、そのままゴンッ!と額をぶつけるように机に突っ伏した。



「ねぇ、名前なんてーの?」

「・・・苗字です」

「名前」

「名前です」

「俺はね、万次郎。マイキーって呼ばれてる。ほら、お前のまーちゃんだろ?」

突っ伏したままの男子生徒に楽しそうに声を掛ける万次郎は、やがて男子生徒から携帯を奪い取ると「俺の連絡先入れとくね♥」「絶対連絡しろよ♥」と男の頭部をつんつんっと突いた。

生きる屍状態になった男に万次郎は満足気な表情で席を立ち、元の自分の席に戻ってくる。


「彼氏できた」

ダブルピースをしてみせた万次郎に、一部始終を見ていた他のメンバーが苦笑いを浮かべる。

「いや、気がはえぇよ」

「気に入ったんだな」

「見ろよ、両手で顔押さえて唸ってるぞ」

「耳まで真っ赤じゃん。男ならビシッときめろよなぁ」

「俺の名前に文句あんの?カワイーじゃん」

「だから気がはえぇよ」

万次郎が離れ少し落ち着いてきたのかおそるおそる顔を上げる名前に振り返った万次郎が笑顔で手を振れば、名前は蚊の鳴くような声で「かわいい」と呟いた。


「な?すぐにでも付き合えそうだろ?」

「甘いなマイキー、ああいうタイプはこっちに手ぇ出すのが引くほど遅い」

「じゃぁ俺からどんどん押せばいいじゃん。はい解決ぅー」

万次郎は上機嫌で「おねーさーん、チョコレートパフェ一つ!」と店員にデザートの注文を入れた。




可愛いまーちゃんは積極的?




「俺からどんどん押せばいいじゃん」と自信満々に言ってはいるが、その後のある日に名前から「君のこと、大事にしたいんだ」と心底愛おしそうな声で言われてしまい、万次郎は「ひゃ、ひゃいっ♥」と名前限定で乙女になる未来があるとは、まだ誰も知らない。



あとがき

積極的だけど、たぶん吃驚するほど甘々対応されて強制的に乙女にされる。
それを見てる周りも照れさせる。千冬からよく少女漫画を借りてる場地は「少女漫画で見たやつだ!」と進〇ゼミばりの反応をする。

『質問』の【SSS短編の まーちゃんは可愛い の続編、または東卍
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