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※美醜逆転ネタ。


不良の喧嘩に巻き込まれて頭を強く打ち付けてから、俺の世界は一変した。

医者には「異常なし」と言われたが、どう考えたって異常じゃないか。


「・・・どうかしたのか、苗字。そんなまじまじと・・・あぁ、隠した方がいいか?」

制服の上に着ていたカーディガンを脱ぎ頭から被るのは隣の家に住む三ツ谷。幼い頃からずっと隣同士で、所謂幼馴染だ。

三ツ谷の特徴をあげるとするなら、その容姿だろう。三ツ谷は・・・滅茶苦茶に不細工だ。

この世界で不細工とされる要素を殆ど持っている。だから三ツ谷は昔から虐められてて、けれど妹たちに情けない姿は見せられないからと常に耐えているような奴だった。


不細工は迫害されがちな傾向があるこの世界だけれど、近所に住む同い年が三ツ谷だけだった俺は遊び相手が三ツ谷しかいなかった。こいつ不細工だな、と思いつつも一応は友人としての関係を続けていた。まぁ、学校では三ツ谷自身の希望もあって基本他人のフリしてる。今みたいに一緒に登校してても、途中で他人のように別れるのだ。

可もなく不可もない程度な平凡顔の俺がとやかく言えることではなかったが、三ツ谷は本当に不細工なんだ。不細工のはずなんだ。


・・・頭を打ってから可笑しいんだ。あんなに不細工だった三ツ谷が、凄く顔が整って見える。逆に今まで好きだった女優や俳優がとんでもない不細工に見えるようになってしまった。

視界が可笑しくなったのだろうか。いや、見えてるのはいつも通りの光景なのだが、受け取り方というか感じ方が前とはがらりと変わっている。気まずそうに、申し訳なさそうに顔を隠す三ツ谷が綺麗だとしか思えない。


「・・・別に、顔隠さなくても、いいんじゃね」

「え?」

「前ちゃんと見えねぇじゃん」

被っていたカーディガンをぐいっと後ろに引っ張ると三ツ谷の綺麗な顔がしっかり見える。

まじまじと見つめていると、三ツ谷が「・・・あんま見んなよ」と顔を背けた。

そうだよな、どんなに気丈に振舞っていたって、三ツ谷は自分の顔がコンプレックスだ。俺の感じ方が可笑しくなっただけで、世間一般では三ツ谷は不細工なんだから。

・・・本当に不細工か?三ツ谷、滅茶苦茶綺麗な顔してんじゃん。ちょっと眠そうなだけど目は大きめで、睫毛も長い。肌は白くてすべすべっぽいし、唇もぷるぷるしてる。身体に余計な肉がない。


「やっぱ、もう一回病院に行こうかな」

「は?病院?まさかまだ痛いのか?見せてみろ」

三ツ谷が慌てたように俺の頭を確認しようとする。慌てるのも無理はない。前述の『不良の喧嘩に巻き込まれた』を詳しく言えば、三ツ谷が所属している東京卍會と別のところの不良の喧嘩に巻き込まれた、だ。因みにこの喧嘩に三ツ谷は関わっていないし、俺の頭を負傷させたのは東京卍會側の不良ではない。

あの時の三ツ谷は凄かったな。俺が怪我をしたと、しかも自分のところの喧嘩に巻き込まれて怪我をしたと知って、わざわざお見舞いに駆け付けてくれたっけ。

病院の看護師さんや病院にいた他の奴らとかから冷ややかな視線を向けられてる癖に、俺が心配だからって理由で視線を我慢して駆けつけてくれた。

その時には既に頭が可笑しくなっていた俺は、三ツ谷が天使に見えて戦慄していた。


「怪我はもう治ってる。医者も異常なしって言ってた」

「じゃぁどうして・・・精密検査とかは受けたか?わりぃな、なんて詫びを入れたらいいのか・・・」

「三ツ谷のせいじゃないし」

「何処か違和感があるのか?俺に出来ることは少ないと思うが、出来る限り協力するから」

償いのためなら何でもしそうな勢いの三ツ谷に顔が引きつる。

そりゃそうだ。迫害の対象の不細工は、総じて自分に自信がないし相手からの容姿に対する罵倒は当然のものとして受け止めてしまう。不細工は罪、という意識が幼い頃から擦り込まれているのだ。

つまり自己評価が引くほど低い。俺が「大丈夫」「気にするな」と言っても三ツ谷はそれを受け取らない。むしろ更に罪悪感を与えるだけ。

頭を打つ前は「ま、仕方ないか」と軽く流していたが、頭を打って可笑しくなった今となってはこの迫害文化って可笑しくないか?と思ってしまう。


「あー、なんというか」

「あぁ」

「驚くとは思うけどさ・・・お前がめっちゃ綺麗に見える」

「・・・え?」

ぽかん、と三ツ谷の動きが止まる。あ、その顔凄い可愛い。・・・三ツ谷、やっぱり滅茶苦茶可愛いじゃん。


「眠そうな目とかすっげぇ可愛く見えるし、肌白くてすべすべで触りたくなる。三ツ谷が見舞いに来てくれたとき、うっかり天使に見えてビビった」

「そ、れは・・・重傷、だな?」

まだ俺の言葉を完全には処理し切れていないらしい三ツ谷はやっとの思いでそう返事をした。

しばらくの無言。俺は三ツ谷の顔をじっくりと見て、三ツ谷はそんな俺のことを見つめていた。


「三ツ谷、顔真っ赤だけど」

「や・・・じ、自分とは縁のない言葉だな、と・・・ははっ」

じわじわと三ツ谷の顔が赤くなっていく様子を見届ける。

確かに三ツ谷の幼馴染として傍で見て来たが、三ツ谷が容姿を罵られることはあっても褒められることはなかった。俺も三ツ谷が不細工なことは理解していたため、容姿についてはこれっぽっちも触れてこなかった。それが突然綺麗だとか可愛いだとか言われたらそりゃ混乱するだろう。


「もう自分の中の美醜が逆転した感じだ。好きだった女優のふわふわの脂肪がただの贅肉にしか見えなかったし、イケメン俳優が油ぎっしゅなおっさんにしか見えない・・・やっぱりもう一回病院に行くべきかな」

そう三ツ谷に問いかければ、三ツ谷は複雑そうな表情を浮かべた。相変わらず顔は赤い。

三ツ谷の顔の赤みは戻らないまま、何時もならお別れする地点まで来た。この辺りから他の生徒たちの姿もちらほら見え始める。


「・・・わりぃ」

「ん?」

漸く口を開いた三ツ谷は、何故だか俺に謝った。


「不謹慎だとはわかってるけど、ちょっとだけ・・・苗字がそのままならいいなって、思っちまった」

はー?可愛いかよ、と俺は無言になる。

「けど、苗字の身体に他にも不調が出ると不味いもんな。・・・放課後、付き添いさせてくれよ」

そんな風に言ってくれた三ツ谷とは昇降口で別れた。三ツ谷がいなくなると同時にクラスメイトが近づいてきて「おい、もしかしてあの不細工に絡まれてたのか?災難だな」と心底気の毒そうに声を掛けられた。

前までなら特に何も思わず「おー」と適当な返事をしていたが、今の俺は三ツ谷を馬鹿にされて若干どころか大分苛立ってしまう。

しかし相手は機嫌の悪い俺のその苛立ちの原因が自分であるとはこれっぽっちも気づかず「元気だせよ」と気さくに笑って立ち去って行った。・・・世間の常識がやべぇな、と再確認してしまった。



それからあっという間、という程ではなかったが、一日の授業を終えて教室を出る。

三ツ谷は放課後俺に付き添うと言っていたが、待ち合わせはしていない。俺がクラスまで迎えに行った方がいいかもしれない。

そんな安易な考えで三ツ谷のクラスまで行けば、教室の隅で荷物をまとめている三ツ谷が目に入った。どいつもこいつも三ツ谷を遠巻きにしていて、こそこそと話す声に三ツ谷の容姿への嘲笑が含まれているのに気づき、思わず顔を顰める。前までは気にならなかったことが気になって仕方ない。


「おい、三ツ谷!」

「・・・えっ、苗字?」

「帰るぞ」

驚く三ツ谷を無視して「早くしろよ」割と大きめの声で言う。これで、俺と三ツ谷が一緒に帰る仲なのは三ツ谷のクラスに知れ渡ることだろう。もしかすると俺のクラスにも知れ渡るかもしれない。

困惑顔のまま手早く荷物をまとめた三ツ谷が俯き気味に俺のところまでやってきたから、再び大きめの声で「久しぶりに俺ん家で遊ぶか」と言う。三ツ谷は「お、おう」とほぼほぼ反射的に頷いた。


三ツ谷のクラスを離れて昇降口を出る。学校から少し離れた場所に来た頃に、三ツ谷は「良かったのか?」と声を上げた。

「何が?」

「他人のフリしてた方が苗字のためだ。不細工が幼馴染って、普通隠したくなるだろ?だから俺、今まで・・・」

「そういうのいい。三ツ谷がそうしたいなら仕方ねぇけど、友達なら一緒に帰るぐらい普通だろ」

三ツ谷は何も言わなかった。その代わり、隣を歩く俺の服の裾を少し掴んだ。


・・・そういえば、幼稚園ぐらいの時はよくこうやって服を掴まれていたっけ。三ツ谷の母親が「名前くんの迷惑になるからやめなさい」と注意してからはやらなくなったけれど。

三ツ谷の母親も三ツ谷に似て不細工だったから、昔から苦労していたのだろう。そういうのに敏感だったんだ。

何だか微妙な空気になりながらも病院に行き、もう何度か世話になったいる医者の診察を受ける。付き添いの三ツ谷を怪訝そうに見ていたけれど、分別はあるのか特に何も言ってはこない。


・・・診察の結果は前と同じ『異常なし』。問診中、はっきり言葉にはしていなかったが「そういう趣味なだけなのでは」という感じの問いかけをされた時には、こいつ殴ってやろうかなと思った。俺は不良じゃないからそう簡単に他人は殴らないけど。


「異常なしだったな」

病院からの帰り道、ずっと無言の三ツ谷にそう話しかけると、三ツ谷はこくんと頷いた。

「付き合わせて悪かったな。用事とかないなら、学校でも言ったけど俺ん家で遊ぼうぜ」

こくんっとまた無言で頷いた三ツ谷を連れて俺の家に行く。

両親は共働きで夜遅くに帰ってきて朝早くに出て行くような生活をしている。今でこそ慣れたが、昔は誰もいない家が寂しくて仕方なかった。三ツ谷という遊び相手がいてくれたおかげで何とかなっていたが、今思えば三ツ谷は当時から可愛かったな・・・


「お邪魔します」

「おー」

家には誰もいないと三ツ谷も知っているだろうに、礼儀正しく挨拶をして、靴も綺麗に揃えて家の中に入る。

途中で寄ったキッチンでジュースとお菓子を入手し、三ツ谷と一緒に自室に入る。三ツ谷と隣り合ってカーペットの上に腰を降ろせば「あのさ・・・」と三ツ谷が声を上げた。


「俺が、その、綺麗に見えるって話だけど」

「あぁ。今も三ツ谷の顔が綺麗過ぎてビビってる。・・・え?お前、もしかして毛穴が存在しないのか?肌つるつるすべすべで輝いてんじゃん」

「毛穴ぐらいあるに決まってんだろ・・・異常なしなのにそれってさ、ほんと・・・マジ、なのか」

混乱するのは無理もないよなぁ、と思いながらスナック菓子の袋を開ける。うすしお味のポテチに向けていた視線を三ツ谷の方に戻して「三ツ谷も食うだろ」と声を掛けた時、三ツ谷のビビるほど綺麗な顔がずいっと近づいてきた。



ちょんっと触れる程度の、それでも確かに俺は三ツ谷にキスをされた。



は?と声を上げる余裕もない。

「こ、こんなことしても、気持ち悪くないのか?」

顔を真っ赤に染めながら、何処か不安そうに聞いてくる三ツ谷にぎゅうっと心臓が締め付けられる。

は?は?いやいや、顔が気持ち悪く感じないからって、それとこれとは別じゃん。普通友達同士でキスはしない。頬とかならもしかするとあるかもしれないが、唇同士はない絶対ないと俺は思う。


「気持ち悪くはない、が、キスされる意味はわからん」

「苗字が俺のこと、綺麗に見えてるうちは、セーフかなって。・・・嬉しかったんだ。昔から、不細工な俺に対しても人並みの扱いをしてくれるお前が・・・一時的かもしれねぇけど、俺のこと綺麗だと思ってくれて」

だがら、と三ツ谷が俺に縋るように服の裾を掴む。


「今のうちに、これをチャンスだと思って・・・お前との思い出が作りたい」

思い出。その単語に俺は息を飲む。

それって、そういうことなのだろうか。

三ツ谷は俺の考えを肯定するように、自分の服に手をかけ始めた。カーディガンを脱いで、シャツの釦を一つ一つ震える手で外していく。


「三ツ谷・・・」

「今だけ、今だけでいいから、隆って呼んでくれ」

「みつ・・・隆、こういう勢い任せなのは、ちょっと良くないと思う」

「・・・勢い任せでも、お前とヤれんならそれでいい。それとも・・・やっぱり、俺相手じゃ気持ちわりぃか?」

そういう問題じゃない、と突っ込みたい。三ツ谷は泣きそうな笑みを浮かべ、ついにシャツを脱ぎ捨てた。


まさかこんなことになるなんて。正直なところ三ツ谷がえっち過ぎて心臓が痛い。三ツ谷の言動からして、どう考えても三ツ谷は昔から俺のことが好きだったのだろう。全然知らなかった。

嫌な気持ちはない。けれどもしここで三ツ谷の暴走を受け入れてしまったら、本当に『思い出』としてなかったことにされそうな気がする。

きちんと話し合って、三ツ谷も俺も十分に納得した上でそういう行為に進みたい。・・・一度だけで終わらせてたまるか。


俺は意を決し、三ツ谷の身体を抱きしめる。三ツ谷が「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。恐怖しているというかは、恥ずかしがっているのは真っ赤な顔からわかる。

抱き締めた三ツ谷に顔を寄せて唇にキスをすれば、三ツ谷は「名前っ」と嬉しそうな声を上げた。可愛い。


「あのさ、三ツ谷」

「隆」

「ん、悪い。隆、本当に思い出を作るだけでいいの?」

一瞬驚いたような顔をした隆。驚き顔まで可愛いとかどういうことだ。何で俺は今までこの可愛さに気付かなかったんだ?人生をずっと損していた気分だ。


「だ、だって、こんな状況だけでも奇跡なのに、それ以上望めるわけないだろ」

「俺も隆と同じ気持ちって言ったら?隆は俺と付き合ってくれる?」

「・・・付き合えるのか?俺と?こんな顔の俺とか?」

じわりと涙を浮かべた隆にもう一度キスをする。


「出来る。というか、むしろ俺でいい?隆優しいし、良い奴だからさ・・・俺には勿体ないんじゃないかって思っちゃうんだ。けれど隆さえ良いって言うならさ、俺と付き合って欲しい」

ぼろっ、と隆の目から涙が零れる。


「い、いい。俺、名前がいい。名前がいいなら、俺のこと恋人にして」

泣きながらも嬉しそうに笑ってくれる隆が可愛くて可愛くて仕方が無くて、俺はもう一度その身体を強く抱きしめた。・・・よくよく考えれば今の隆は上半身裸だ。今抱きしめている身体も素肌で、俺はどきどきしながら肩口に額を寄せた。

「・・・名前、する、か?」

「こ、こういうのは、勢いじゃなくて・・・ちゃんとしたタイミングでしたい」


「・・・案外硬派なんだなぁ。名前なら俺、いつでもいいから」

ふふっと小さく笑った隆に俺は呻くように「自分を大事にして」と返事をした。




価値観が美醜逆転したら友達が恋人になった




叶わぬ願いだと思っていた。

友人関係であれること自体が奇跡だったから、この欲望は叶わないことが前提だった。そのはずだったのに、奇跡に奇跡が重なって俺にもチャンスが訪れた。

俺のことを綺麗だと可愛いと言ってくれる愛する人。このチャンスを逃すわけがない。

もしかしたら一時的なものかもしれないから、戻ってしまう前に名前を俺の虜にしないといけない。自分の見た目が壊滅的なのは知っているから、それ以外で。

真っ先に思いついたのは身体。後は名前の世話を沢山焼いて、心身ともに俺から離れられないようにするんだ。


「絶対逃がさないからな」

叶わないと諦めていたはずの俺をその気にさせたんだ。その責任を取って、さっさと抱いてくれ。



あとがき

流行の美醜逆転、ついに手を出しちゃった・・・
男のみ美醜逆転とかが多いけど、今回は男女平等に美醜逆転。
自己評価が低いキャラが執着心マシマシになるのっていい・・・

主人公くんは頭を打ったせいで前世の価値観がINした。INする前の価値観は美醜逆転世界基準の普通だったけど、友人を顔で選ばないぐらいには性格は良い方だった。
元々三ツ谷に対する好感度は高かったけど、前世の価値観がINした混乱と三ツ谷が綺麗過ぎるせいでパニックになってそのまま恋に落ちた感じ。ほぼ事故。

だけど主人公のことが大好きな三ツ谷が事故で終わらせてくれるわけがない。
このまま美味しくいただかれる未来が確定している。退路はない。



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