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昔友人から弟として紹介された子が、浮浪者みたいな格好で公園のベンチに座っていた。

驚きのあまりその場で担いで走った。抵抗されたけれど問題ない問題ない。


確か友人は強盗に頭殴られてから長らく入院生活をしてたはずだ。最近ようやく目を覚まして、現在はリハビリ中。そんな割と忙しい友人に連絡するのは後にして、とりあえず弟くんを保護してやろうという友人心だ。

なおも抵抗を続ける弟くんを家に連れ帰り、まずは風呂に入れようと服を脱がし始める。この時が一番抵抗されたが、全部脱がせて風呂に押し込んでからはスンッと大人しくなった。


そして何故か大人しい通り越して無気力状態になってしまった弟くんの頭とか洗ってやって、髭も剃ってやった。前に紹介された時にも思ったけど、アイドル目指せるぐらいのイケメンだよね。

身体は流石に自分で洗ってもらって、洗い終わったらその間にためておいたお湯に浸からせて100を数えてから引き上げた。

温められて血色が良くなった弟くんに満足しつつ頭と身体をタオルで拭いてやり、買い置きの新品パンツとモコモコでぬくぬくなスウェットを着せた。

何故か服を着せられたことに困惑の表情を浮かべた弟くんをリビングまで連れていきソファに座らせ、温かなココアを与えれば更に困惑された。どうしたの?ココア初めて???

不思議に思いながら弟くんをそのままにキッチンへと向かう。独身男の一人暮らしだけど、ある程度の食材はある。炊かれた米は勿論、冷蔵庫には鶏肉とチーズもあったしドリアにしようかな。ホワイトソースは便利なレトルトを使えば、ドリアはあっという間に完成。


「ドリアできたよー」

「???」

困惑顔のままの弟くんをダイニングテーブルの方まで移動させ、着席させる。

どーぞ、と言い目の前にドリアを置いてスプーンを握らせれば、困惑顔のまま食べ始めた。俺も腹減ったしさっさと食お。

ドリアを食べ切り満腹になったところで「・・・ねぇ」と声を掛けられる。


「ん?どした?おかわり?」

弟くんが首を振って否定。なんだ、どうした。

「何が目的?俺を連れてきて、なんでこんな・・・」

「んん?なんか浮浪者化してた友達の弟を保護しただけだけど・・・あれ?俺のこと覚えてない?」

「友達の弟?」

あれ、もしかして全く記憶にない感じか。だとすれば、弟くん的には突然現れた男に誘拐されたことになるのか。じゃああの抵抗は仕方ない。

申し訳なかったなぁ、と苦笑いを浮かべそうになったところで、弟くんは衝撃のセリフを口にした。


「・・・強姦するために連れてこられたかと思った」

「なんで!?」

弟くんの考えは俺の想像の斜め上だった。


あの抵抗はまさかの自身の貞操を守ろうとする決死の抵抗だったらしい。それが脱衣所で大人しくなったのは、服を全部脱がされた時点で力では敵わないと理解し抵抗する気力を失ったからだそう。

そして服を着せられた時の困惑顔は「え?犯さないの?」という意味だったらしい。なんてこった。


「しないしない!友達の弟襲う程落ちぶれてない!」

「友達の・・・」

「本当に覚えてないんだ・・・真一郎に紹介してもらったことあるんだけど」

あ、その微妙な表情は本気で覚えてないな。


「・・・けど、俺は真一郎の弟じゃない」

「ん?弟くんだよね?」

突然の弟じゃない発言に首を傾げる。まさか紹介して貰った日はエイプリルフールだったのだろうか。けど、あの真一郎がそんなタチの悪い嘘を吐くわけがない。

詳しい事を弟くんに話して貰えばあら吃驚、佐野家の複雑すぎる家族構成と戸籍的に宙ぶらりん状態な弟くんの現状に慄いた。


「んん・・・つまり、血の繋がりはない兄弟ってことかぁ」

「血の繋がりがないなら兄弟じゃない」

「えー、シビア・・・この世には血の繋がらない家族なんて沢山いるよ。真一郎だって、弟くんを弟くんにしたいから声をかけたんだと思うし」

「そんなの・・・もう死んでるんだから、わかんないだろ」

死んでるとは、まさか真一郎のことだろうか。確かに死にかけてはいたが、今は元気にリハビリ中だ。


「んん?真一郎生きてるよ?お見舞い行ってないの?」

あ、弟くんがまた困惑顔した。




しばらく話してみたのだが、弟くんは思い込みが激しいし相手に対する感情が一々重たいし、感情と行動の起伏が激しすぎる。見方によってはヤンデレだ。真一郎、そのうち弟に殺されるかも・・・

「うーん、弟くんが真一郎のことが大好き過ぎて裏切られた気持ちになってるのはわかった」

「イザナ」

「あぁ、確かそんな名前で紹介された気がする。俺もちゃんとは覚えてなかったや、ごめんごめん」

弟くん改めてイザナくんは、俺が食後のデザートとして与えたカップアイスを食べている。


自身が真一郎との血の繋がりがなかったのだと知ってから今まで、完全に縁切り状態だったらしいイザナくんは、真一郎の現状を中途半端にしか知らなかったようだ。

人伝に聞いた『真一郎が経営するバイク屋に強盗が入り頭を強打され、犯人は少年院に入った』という話から、てっきり真一郎はそのまま死んだのだと思っていたとか。

真一郎はどうやら他の家族達にイザナの存在を伏せていたらしく、勘違いをしているイザナに正しい情報を伝えてくれる人はいなかった。

おかげさまで、イザナからしてみれば喧嘩別れした本当は大好きだった相手がそのまま死んでしまうという地獄の状況になってしまっていたというわけだ。

・・・これに関しては真一郎が悪いな。たぶんイザナと他の家族達を気遣い、頃合いを見てイザナと引き合わせるつもりだったのだろうが、女に振られ続けて20回伝説を持つ真一郎が上手いタイミングを見極められるわけがなかった。タイミングも悪いし、うっかり強盗にやられて意識不明になる運のなさもヤバい。だから開店当初に店のセキュリティはしっかりしろと言ったのに。


「真一郎、まだ病院でリハビリ中なんだけど、今度お見舞いに行こうか」

「え・・・」

「気まずいだろうけど、心配掛けやがってって文句を言わなきゃ気が済まないんじゃない。会話するのが怖いなら、俺の後ろからチラッと安否を確認するだけでもいいし」

そう提案しながら、俺は自分の分のカップアイスを口に運んだ。因みに俺のアイスは定番のバニラで、イザナくんのはストロベリーだ。

こちらをジッと見つめてくるイザナくんに「バニラも食べる?」とスプーンを差し出せば、ちょっと困惑しながらもスプーンを咥えた。なんか困惑させてばっかりな気がするけど、そんなに変な行動してる?


「なんで、見ず知らずの他人に、そこまですんの」

「俺は覚えてたから見ず知らずじゃないけど」

そうじゃない、とイザナくんに首を振られた。


「俺は真一郎の弟じゃない。なのに、あんたは俺を真一郎の弟だからって家まで連れてきて、世話焼いて・・・っつーか、仮に本当に俺が真一郎の弟だったとしても、あんたからすれば他人じゃん。友達の弟だから保護って、まずそこから可笑しいんだよ」

「あー、まぁ、イザナくんが保護しなきゃって思うぐらいヤバい見た目になってたって理由もあるけどさ。別にいいじゃん?イザナくんもわかってるとな思うけど、俺って割と力強いし」

「・・・あんなに暴れたのに、びくともしなくて熊かよって思った」

「え、突然の罵り・・・」

むすっと顔を顰めているイザナくんは、髭もきちんと剃ったから年相応に幼く見える。まだ未成年だもんなぁ、さっきまで浮浪者スタイルだったのに肌とかつるつるだったわ。


「まぁ、別にいいじゃん?他人の世話を焼く奴もいれば、身内さえ放っとく奴もいる。人間性なんて人それぞれなんだし、深く考えたって完全には理解出来ないだろ。俺、いまだに真一郎に彼女が出来ず男にモテまくるシステムが理解できないし」

マジであいつ男にモテすぎだと思う。そのせいで女が遠ざかってる可能性まであるなぁ・・・今度本人に言ってみよ。たぶん「お前だって彼女いねーじゃん!」と怒鳴られると思うけど。舐めんな、俺は学生時代とかちゃんと彼女いたわ、当時お前がやけにしつこく付き纏ってきたせいで何時の間にかフラれてたけれども。

イザナくんがアイスを食べ終わる頃に俺も食べ終え、席を立った俺は二人分のカップとスプーンを手にキッチンへと引っ込んだ。

あ、そうだ。イザナくんが寝る場所とか確保しなきゃだな。

真一郎への連絡は後日やるとして、いつ頃お見舞いに行くかも決めなきゃだし。あ、イザナくんがお見舞いに行きたい日が俺の仕事の日と被ったらヤバいな。さっき後ろにいろとか大層なこと言ったのに。


「イザナくーん、お見舞いの日程なんだけどさー」

そう声を上げながらダイニングテーブルへと向かえば、イザナくんの頭がゆらゆらと揺れていた。

身体が温まってお腹もいっぱいで、眠くなってしまうのは仕方ない。けれどまだ寝る場所の用意できてないんだよなぁ・・・

仕方ない、イザナくんは俺のベッドで寝てもらって、俺がリビングに来客用の布団敷いて寝るか。

俺は眠るイザナくんを抱き上げ、寝室へと運んだ。

翌朝目を覚ますと、何故かリビングの来客用布団にイザナくんがいて、俺にくっ付いてすよすよ眠っていた。




ある日友人の弟を拾った




事前に真一郎に電話をしイザナを伴いお見舞いに行くと、何故か他の弟と妹がいた。は?真一郎の話だと、今日は来ない筈では?

やらかした真一郎は「悪い!なんか今日は来る日だったっぽい!」と手を合わせてきた。ぽんこつか???

唐突な家族ご対面に、パニックを起こしたイザナくんがもう一人の弟の万次郎くんと大乱闘となり、二人どころか暫定保護者な俺まで病院を追い出され、後から真一郎には苦情の電話を入れておいた。



あとがき

真一郎のお友達。
別に不良じゃなかったけど、力が強いし黒龍の総長とよく一緒にいるからって理由で喧嘩を売られることが日常と化してた。よく巻き込まれてたけど、真一郎とは普通に仲良し。

深く考えるよりまず行動派。
イザナくんの暫定的な保護者になって、イザナくんから執着される未来が待ってるけど実はイザナくんと同じかそれ以上に執着してる奴が既にいる。一体何一郎なのだろう・・・



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