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※梵天時空。
幼馴染の母親が重い病気にかかり、歳も歳なため早急に手術を行わなければならないらしい。
金を借りるためには保証人がいるからと、保証人欄へのサインを求められた。
幼馴染と会うのはもう十年ぶりぐらいだったが、おばさんには多少お世話になったし、困っているという幼馴染を無視するほど冷たくはなれず、俺はその日のうちに保証人欄にサインをした。
・・・そしたら、借金取りが来た。
え?え?と驚く間もなくチャイナっぽい恰好をしたロン毛の怖いお兄さんが俺を迎えに来て、幼馴染が逃げたから保証人である俺が借金を返済しろと言う。借りた金額は500万円。その金額でも払える気がしなかったが、どうやら幼馴染はヤバイところから金を借りていたらしく、利子で借金は倍以上に膨れ上がっていた。
唖然としたまま怖いお兄さんにせっつかれるまま黒い車に乗せられ、連れてこられたのは何処かの事務所。
「あー、お前、自分の状況わかってるか?」
「ちゃ、んとは・・・わかってません。えっと、あいつっていうか、幼馴染は、借金をそのままにして逃げたってことと、幼馴染の借金を何故か俺が返済しないといけないって、ことは?」
「そこまでわかってれば十分だ。じゃ、返してもらおうか?」
そう言って差し出された書類に記載された金額は端的に言ってヤバかった。語彙力が無くなるほど、ヤバかった。
やけに質の良いやわらかソファに身体を支えられて倒れることはなかった。いっそ気絶の一つでもしたかったが、混乱が一周回った俺は気絶することすらできない。
「ははっ、黙ってても解決しないぞ?どうする?返すか、返さずにバラされるか」
「バラされ・・・え、殺されるんですか、俺」
「おいおい、何でそっち選ぶんだよ」
「いや、だって、この金額は返せる気がしない・・・じゃぁ殺される一択なんじゃ?」
「俺が言うのもなんだが、もっと生にしがみ付けよ」
俺の正面のソファに座って珈琲を飲んでいたお兄さんは呆れたように俺を見る。あ、俺の前にも珈琲が用意してある・・・飲んでいいのかな。
からからに喉が渇いていたからコーヒーカップに手を伸ばせば、お兄さんがくすくす笑った。駄目とは言われてないし、普通に飲もう。
ごくごくと二口ぐらい飲み、もう一度書類を確認する。
保証人欄には見覚えのあり過ぎる筆跡で俺の名前のサインがある。紛れもなく俺自身がサインしたものだ。
「保証人になって欲しいって言われたら断れって親から教わらなかったか?それか、サインをする前に契約書はきちんと読め、とか」
そう言いながら契約書のとある一文を指さすお兄さん。あ、記載されてる利子のパーセンテージやっば、どう見てもヤバイ感じの契約書じゃん。
「あの時は確か・・・幼馴染が『母さんを助けたいんだ』って泣いてて、流れでつい」
「危機管理能力死んでんなぁ」
自分でもそう思うなぁ、と微妙な気持ちになりながらコーヒーカップの中身をもう一度飲んだ。お兄さんが腹を抱えて笑った。
「おっ前さぁ!今から殺されるかもしれない状況でよく悠長に珈琲飲めんなぁ!」
「えっ、や、だって、出されたものは飲んだ方がいいだろうし、喉渇いてたし・・・えっ、ごめんなさい?」
これは確かに俺の分の珈琲だろうけれど、やっぱり勝手に飲むのはなしだったか・・・
俺の頭の中は自分がどんな風に殺されるのかでいっぱいだ。よく聞く『ドラム缶に詰められて海に沈められる』とか『山に埋められる』とかだろうか。いや、殺された後に臓器とか取られてそれを借金返済の足しにされる可能性もある。
どんな風に殺されるかはわからないが、出来れば苦しくない方法で殺して欲しい。
「・・・即死でお願いします」
「だーかーらー、もっと生にしがみ付けよ。何でそんな諦めが良すぎるんだ」
「借金を無事に返済できる自分の姿も、無事に生き残れる自分の姿も想像できないんですけど・・・」
終始楽しそうなお兄さんは「あー、もう」と言いながらソファから立ち上がった。
何処か行くのかな?と見ていれば、お兄さんは何故か俺の隣に腰掛けた。わ、近い・・・なんかちょっと髪の毛からいい匂いする。
「仕方ないから、俺から良い提案をしてやるよ」
一気に距離が近くなったお兄さんは、俺の肩に腕を回して耳元で囁くように言う。耳がくすぐったくてそわそわしながら「提案?」とお兄さんを見る。あ、凄い笑顔。
「俺のところで働いて、働きながら借金を返す。うちは給料がいいから、殺されない程度には借金返済できるぞ」
まさかの働き口の紹介。・・・確かに、今俺が働いているファミレスじゃ到底借金なんて返せないけれど、どう見たって普通じゃないこのお兄さんのところで仕事って、一体何をさせられるんだろう。あと、凄い見つめられてて居心地が悪い。
「えっと、お仕事の内容は・・・」
「んー、俺の秘書?住み込みの」
「・・・秘書検定持ってないです」
むにっと頬を抓まれた。え、このお兄さんスキンシップ激しい、距離感バグってる。
「秘書検定なんていらねーよ。で?俺のところで働くか?」
ちょっと冷静になると、普通じゃないこのお兄さんは金融機関ですらない可能性がある。利子の付け方もヤバイし、借金返せないとバラされるような発言を普通にするし。ヤの付く職業?指定暴力団?
それにさっき『殺されない程度には借金返済できる』と言ってた気がするけど、それって完全には返せないってことだろうか。利子が増える速度が速すぎて、働いても働いても返済できないと言う借金地獄に陥るということだろうか・・・
自然と眉が下がる。幼馴染が逃げたせいで随分酷い目に遭っていると思う。
「・・・まぁ、人助けの結果なら、仕方ないと思うので、頑張ります」
「ん?お前もしかして、あいつに『そういう風』に説明されてんの?」
「?母親が病気で、すぐに手術費用が必要だからって」
「・・・はー、危機管理能力どころか、人を疑うことも知らないのかよ。天然記念物か?」
ぱしっと額を抑えて唸るお兄さん。え?その反応、もしかして手術云々も嘘なのだろうか。
「お前の幼馴染は重度のギャンブル狂いな薬物中毒者。母親なんてとっくの昔に絶縁してるし、借りた金はその日のうちにギャンブルに消えたようだ」
「お、わ・・・思った以上の、酷い内容・・・え、俺、騙されてたんだ・・・」
「保証人にされて逃げられた時点で気付け。・・・はぁ、じゃぁ今から雇用契約書用意するから、ちょっと待ってろ」
ショックで固まる俺の背中をぽんぽんっと叩き、お兄さんはソファを離れる。
借金を背負わされたことも勿論ショックだったが、まさか手術そのものが嘘だったとは。まぁ、十年ぐらい会ってなかったのに突然現れたもんな、幼馴染の現状なんて碌に知らなかったし、調べる術もなかったし・・・
自然と眉が下がり、まだカップに残っている珈琲を飲む気にもなれない。
幼馴染を恨むというよりは、単純に辛い。まさかこの歳で人の醜さを知るとは。裏切りって辛い・・・
「すっげぇ泣きそうな面してるじゃんか・・・ほら、此処にサインな」
「・・・はぁい」
声に力が入らない。
再び隣に座ったお兄さんから真新しい書類と高そうなペンを受け取り、記入欄にサインをしようとする。
「おいおいおい、何で内容も見ずにサインしようとすんだよ」
「え・・・」
ちらっと見れば書類の一番上に『金銭消費貸借契約書』と書かれていた。あ、これ雇用契約書じゃなくて普通にお金借りる契約書・・・利息がえげつない!
「おわっ」
「ったく、ちゃんと読めぇ?本当の書類はこっち」
そう言って再度差し出された書類には、今度こそ『雇用契約書』と書かれていた。
お兄さんに言われた通り今度こそ書類の内容をしっかり見る。
「え?お給料凄い・・・月々借金返済分を差し引いてもこんなに残るの?食費とかの生活費、必要経費は別で出て・・・住むところとか、そういうのとかも用意があって?時期によっては臨時給料???」
「因みに住み込み先は俺の家だが、問題あるか?」
「や、特に問題はないですけど・・・」
あまりの好待遇に唖然としながら答えれば、お兄さんは「問題ねぇのかよ」と上機嫌な様子で笑う。
「あの・・・この業務内容、雇用されてるというよりはほぼほぼヒモ状態なんですけど・・・」
そう。雇用された場合に俺が得られるものは事細かに記載されているのに、業務内容は『九井一不在時の自宅警備と必要時の秘書業務』というほぼほぼ自宅警備員なことが記載されていた。
九井一はおそらくこのお兄さんの名前だろう。
「俺の指示があるまで自宅待機、立派な仕事だろう。後、飯とか服とかは仕事用にカードも用意しておくからそこから買えばいい」
「こ、九井さんのヒモ・・・???」
「ココでいい。今日からよろしくな、名前」
ずいっと顔を近づけてきてにこりと笑ったココさんに、俺は「あ、はい」と小さく返事をした。
「あの、そういえば幼馴染が見つかった場合、その場合は借金を返済するのは幼馴染に戻るんですよね?」
必要書類全てにサインをして、ココさんがその書類を丁寧にまとめている様子を眺めながらそう尋ねると、ココさんの眉がきゅっと寄った。
「あ?あー、そうだな。その場合は晴れて名前はお役御免だ。勿論そのまま俺のところで働いてもいいからな」
「や、流石にそれはココさんに申し訳ないので、その時はお暇しますけど・・・」
この雇用契約、どう考えたってココさんの恩情だろう。それにしても好待遇過ぎるかもしれないが、裏切られて借金を背負った俺を憐れんでくれたのかもしれない。それか、距離感と同じで金銭感覚もバグってるとか。
こんな好待遇な雇用内容は今後絶対にお目に掛かれないけれど、ずっとお世話になるのは気が引ける。
「ふーん、ま、見つかればの話だし、あまり期待はすんなよ」
確かに、逃げたってことは返済する気がないってことだろうし、そう簡単には見つからないか。ココさんの言う通り、期待はしない方がいいかもしれない。
その後、ココさんの車で住んでいるアパートに戻った俺は、少ない荷物を段ボールにまとめることになった。
が、途中から「その服は古いからもう処分でいい」「スーツはちゃんとしたのを買ってやる」「食器も家具も俺のとこにあるから、全部処分しろ」とココさんからの指示が来たため、本当に少ない荷物で俺はココさんの自宅に引っ越すこととなった。
・・・せめて明日にでも秘書の仕事についての本とか買って、勉強しておこうかな。
雇用内容がどう見てもヒモ
「あー、竜胆?この間金借りたまま逃げた下っ端いただろ?そいつもう処分していい。面白いのが手に入ったからな」
危機管理能力が死んでて、明らかに普通じゃない自分相手にも簡単に警戒心を解いてしまう、天然記念物のような鈍感野郎。
あの雇用内容の可笑しさも「ヒモみたい」と言うだけで怪しんでいる様子もない。普通ならもっと怪しむものだろうに。
ぺろっ、と舌を出したココは少し離れた場所で「ヒモ、ヒモかぁ・・・」と困惑しながら荷物をまとめる名前の横顔を見てくすりと笑った。
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