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※武道成代り主。


小学生の頃には既に自身が成代った人間であるという自覚があった。

苗字は『花垣』で、やけに不良の話を聞くこの街、大人たちの会話にちらりと出てきた不良グループの名前にも聞き覚えがあった。


自分は将来、タイムリープなどという超常現象を体験するようになるのだろうか。辛い思いを沢山して、沢山の犠牲を払って、未来を勝ち取るために自身を奮い立たせる勇敢な男になるのだろうか。

今のところ、自分がそうなれるとはどうにも思えない。

だって中身が違う。花垣武道がたどったとおりの人生を歩めるとは思えないし、花垣武道のような涙を流しながらも何度だって立ち上がる男になれるとも思えない。

十年以上先の未来のことなんてわからない。けれどもしそうなったら、その時の俺はちゃんとタイムリープ出来るんだろうか。




そんな不安を抱えたまま、俺は中学生になった。

中身が変われば周囲との関係性にも多少の変化が現れるらしく、原作では恋人だったヒナは恋人ではなく、女子の中では一番喋るし遊びに行くような・・・他人から見れば恋人同士に見えるような関係性だ。ヒナは言葉には出さないが、もしかすると俺のことが好きなのかもしれないが、今のところ告白らしいことはされていないため・・・卑怯者の俺は現状維持を貫いている。


関係性の違いというか、印象がやや異なる相手もいる。幼馴染のタクヤだ。

昔から身体が弱くてよく風邪を引いていた。食べるのは疲れるからと食事よりもサプリメントを好んで口に入れるものだから、タクヤの口におやつを突っ込んで食べさせることも多かった。その癖将来はマッチョになりたいなどとほざくものだから「だったらまずはちゃんと飯を食え」とタクヤの額にデコピンをかましたのは記憶に新しい。

身体が弱いことと食事を疎かにするせいで、タクヤは昔からずっと線が細い。小学校低学年の頃なんてまんま女の子だった。名前名前言いながらひょこひょこついてくる姿は、それにプラスして小動物にも見えた。

そのせいで俺はタクヤにある種の庇護欲を感じ、無意識にそれを感じ取ったタクヤは俺に対して甘えたになった。タクヤの印象の違いはこの辺りだろう。


「名前、お待たせ」

ぽんっと右の肩を叩かれ右側に首を動かせば、頬にぷすっと何かが刺さる。振り返った先ににこにこ顔のタクヤがいたから、これはタクヤの指で間違いない。

「ふふっ、引っかかった♥」

目をとろりと細め、何処か甘さを含んだ声で言うタクヤに俺は微妙な気持ちになる。

ここ最近、タクヤが妙に色っぽくなった気がする。何時からだったのかはわからないが、俺の知るタクヤは昔からちょっと女の子っぽかった。少女が女になりかけているような危うい色気をタクヤから初めて感じた時は、俺の感覚がバグってしまったのかと混乱したものだ。


「・・・用事、もういいのか」

「うん。欠席届のことで呼ばれただけだから」

昨日の午前中に病院に行ったからか。一昨日の夕方あたりから微熱があって、念のために病院で見て貰ったと聞いている。午後には普通に授業を受けていたけれど、相変らずタクヤの身体は弱い。

「体調は?」

「平気だよ。名前は心配性だなぁ」

そう言いつつ、腕同士がぴったりくっつく程近くにタクヤは立つ。まぁ、タクヤがふらついたときにすぐに支えられるから構わないのだけれど、やっぱり少し近すぎる気もする。


「それよりさ、今日は牛丼食べに行く約束じゃん。行かないの?」

「ばっか!お前の体調考えたら絶対無理だろ!」

「えぇー?楽しみにしてたのに。あ、じゃぁ名前が食べるのを見とくからさ、行こう」

「じゃぁって何だよ」

「だって名前が沢山食べるの、可愛いし」

ほらまた、目がとろとろ蕩けている。

何時の間にかタクヤは俺の腕にするりと自分の腕を回し「ちょっと足疲れちゃった」と嘘とも本当ともわからないことを言った。

疲れたならなおのこと今日は帰るべきだろう。だというのに、タクヤがくいっと弱い力で引っ張る方向は自宅ではなく牛丼屋だ。


「俺、味噌汁付き頼むからタクヤは味噌汁飲んどけよ」

大きくため息を吐きながらそう提案すれば、タクヤはくすくす笑いながら「うん、ありがと」と返事をした。

結局当初の予定通り牛丼屋に行けば、タクヤは終始にこにこ顔で俺が牛丼をかき込む様子を眺めていた。時折「名前、ほっぺついてる」と言いながら頬を拭ってきたりもした。

「今日もいい食べっぷりだった。はい、お水」

食べ終わると同時に差し出された水のグラス。

「お水、飲みたいタイミングだったでしょ」

「まぁバッチリのタイミングだった、かも」

そりゃ食後は水の一杯ぐらい飲みたくなるものだろう、と思いつつも軽く返事をすれば、タクヤは「ふふっ」と口元を抑えて笑った。ほら、そういう仕草が男らしさから離れて女っぽく見えてしまう。


「俺、名前のことならなんでもわかる」

「え?」

「だって幼馴染で、誰より名前と一緒にいるじゃん。名前の考えてることなんてお見通し」

つんっと頬をつついてくすりと笑うタクヤは俺のことを誰より理解しているという自信があるのだろう。

「名前が、最近の俺に戸惑ってるのも知ってる」

「・・・あー」

本当だ、お見通しじゃんか。

「けど今更直すつもりはない。むしろ、今より名前を戸惑わせると思う」

「意味わかんねーよ、タクヤ」

「ほんとに?」

片手で頬面をついたタクヤが、テーブルの上に置いていた俺の手の指先を空いている方の指先がくすぐるように撫でた。

ぞわぞわと背筋が居心地悪く震える。ぺろ、とタクヤの赤い舌先が自身の唇の上をすべる。


「俺、あんま自分が男らしくないって知ってる。でも実は最近、それが俺にとってラッキーだったって知ったんだ」

「ラッキー?」

「名前から見て、俺って可愛いだろ?あぁそれとも、色っぽく見える?俺としてはそっちのが嬉しい」

咄嗟に逃げようとした俺の手がタクヤの指先に絡めとられて逃げることは叶わなかった。


「昔はさ、名前の隣を歩ければそれだけでいいって思ってた。けどさ、年々それじゃ足りなくなってきたんだ。俺が名前を想うのと同じように、名前にも俺のことを想わせたい。ただの庇護対象は嫌だ」

穏やかな、まるで子守唄でも歌うような柔らかな声でタクヤは言う。その目を蕩けさせて。


「名前を俺に夢中にさせて、俺だけしか見えなくさせたいんだ。だから名前。覚悟しといてくれ」

中身が違うと、こうも関係性が変わってしまうのだろうか。

俺は何処でどう間違えた?果たして俺は、原作通りの十数年後を迎えられるのだろうか。




幼馴染の色気に潰されそう




「橘より俺がいいって、絶対にそう思わせるから」

とろとろと、熱を孕んだ視線で、口角をきゅっと少しだけ上げて笑うタクヤに・・・俺はごくりを息を飲んだ。

何でそこでヒナの名前が出てくるんだと問いかける余裕はなかった。

気を抜くと喰われる、そう感じさせる壮絶に色っぽい微笑みだった。



あとがき

たぶん今後はなんだかんだタクヤからのえっちなアプローチや、ヒナちゃんからの純粋可愛いアプローチを受け、たじたじになる。

未来の可能性的には『ヒナからもタクヤからも逃げた、ほぼ原作通りの生活をする成代り主』『タクヤに捕まって強制的にタクヤのヒモになってる成代り主』『ヒナやタクヤどころかその他複数人と爛れた関係になっちゃってる成代り主』がある。

でも結局原作通りヒナちゃんは死んじゃうし、原作知ってた癖に殆ど何も出来なかった自分自身に絶望、からの原作通りのタイムリープを果たす感じ。
タクヤからの誘惑をかわしながらの過去改変なため、難易度が原作より上がる。大変。



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