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※序盤のみ蘭×モブ♀表現注意。


恋人の蘭はモテる。そりゃもうモテる。

不良で明らかにヤバイ奴だけど、女って奴はそういう『ちょっと危険な男』に惹かれてしまうものだから。・・・まぁ実際のところ、蘭のヤバさはちょっとどころでは済まされないが。


そんなモテモテの蘭だから、弟の竜胆が一緒にいない時はほぼ確実に女といる。逆ナンされれば普通に受け入れるし、なんならホテルにも行く。明らかなる浮気行為なのだが、蘭はそれら一切を隠さない。隠す必要性を感じていないからだ。

浮気されている俺はと言えば「まぁ蘭ってモテるもんなぁ」とほぼ諦めている。

そう、諦めているとはいえ『ほぼ』だ。ほぼというのは完全には諦めていないという意味。

出来ることなら蘭には浮気を控えて貰いたいし、女が近づいてきても突っぱねて欲しい。ささやかなお願いのはずなのだが、おそらくだが蘭はそのお願いを聞き入れることはないだろう。恋人になってからそこそこの月日が経っているし、それぐらい把握済みだ。


どんなに浮気されたって俺が蘭のことを愛していることには変わりないし、蘭の方だってなんだかんだ俺のことを愛してくれているのはわかっている。・・・でもなぁ、やっぱり浮気は控えて欲しいよなぁ。せめて頻度は減らして欲しい。

そんな俺の願いとは裏腹に、今日も蘭は自由だ。しかも今日は自由の度合いが何時もより桁違いだった。



「流石に俺の部屋のベッドで致しちゃうとは思わないじゃん?酷くね?見知らぬ女の分泌液で濡れたベッドを今後も使うなんて嫌なんだけど」

家に帰ると蘭のものらしき靴と、全く知らない女物の可愛らしい靴が玄関に並んでいた。

まさかと思って寝室に向かえば、女のあられもない喘ぎ声と共に目の前に広がるセックス現場。あの瞬間の俺の目は完全に死んでいたことだろう。


「えー、何怒ってんの?買いかえればいいじゃん」

「俺は灰谷兄弟みたいにセレブじゃないの。っつーか、何で俺の部屋?」

「んー?抱け抱け煩かったから、さっさと抱いてお開きにしようと思って。此処が一番近かった」

成程?俺に浮気現場を見せつけるためとかそういうことではなく、特に深い理由もないまま俺のベッドは汚されたらしい。酷いな?泣いてもいいだろうか?

これっぽっちも悪びれていない蘭に思わずため息が出る。まぁ蘭に厳しく言っても無駄か。無駄なことする暇があったら、シーツ捨てよ。


俺が来てすぐにセックスは中断。女はぶつくさ文句を言いながら荷物をまとめて出て行ったが、文句を言いたいのはこちらの方だ。

蘭はと言えば、全裸のままにこにこ笑顔でソファに座っている。せめてパンツは穿けよ、と床に落ちていたパンツを投げれば投げ返された。


「かぁいい恋人の蘭ちゃんの裸見て、何の感想もなしかよぉ?」

「その恋人がさっきまで知らん女に腰振ってた姿がフラッシュバックするからさっさと服着て欲しいなぁ」

「嫉妬?」

「嫉妬通り越して恐怖だわ。・・・うげぇ、シーツに知らん女の髪の毛あるじゃん」

ばっちぃものを触る手つきでシーツを丸めて、ビニールがかぶせてあるゴミ箱に突っ込む。因みにゴミ箱の中には使用済みのゴムが捨てられていた。はいはい、避妊がちゃんと出来ててえらいね!

俺の一連の行動を見てけらけら笑っていた蘭がおもむろにソファから立ち上がり、俺の背中に抱き着いてくる。


「名前が中途半端なところで止めたから、蘭ちゃん不完全燃焼なんだけど♥」

「いや、ゴムが捨てられてるってことは一回は確実に出してるじゃん。もうそれで満足しとけよ」

「えー?名前だってヤる時は一回じゃ絶対終わらないじゃん」

太腿あたりに押し付けられた蘭の股間。蘭はすりっと腰を揺らしながらわざとらしく「ぁんっ♥」と喘いで見せた。抱き着いていた腕は何時の間にか俺の身体を撫でまわし、まだうんともすんともいっていない俺の股間を指先で擽る。


「気分じゃないんだけど」

「ノリわっるぅ。何?まだシーツ汚されたこと怒ってる?今度竜胆に代わりを買いに行かせるからさぁ」

「そういう問題じゃねーの。・・・はぁ、風呂でも入ってくれば?出すならトイレ行けばいいし」


「・・・あ?何?もしかしてマジで怒ってる?」

きょとんと不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる蘭に再びため息が零れる。

そのままぐいっと蘭の身体を押しのければ、案外簡単に蘭は離れた。


「蘭が浮気をするのは仕方ないことだと思ってるけど、恋人の家にまで連れてくるとは思わないだろ。何かちょっと精神衛生に悪いし、風呂入ったら今日はもう帰って」

「は?マジのやつじゃん。えー、ごめん名前、そんなに気にするとは思わなかった」

今度は甘えるように正面から抱き着いてきた蘭に眉を寄せ「帰れ」とだけ返事をする。

すると蘭の表情は不機嫌なものへと変わる。そういう反応をされるのが嫌だったから今まであまり強くは言わなかったというのもある。


蘭がモテるのは付き合う前から知っていたことだし、特定の相手と付き合ったからといって蘭が自重するとは到底考えられなかった。だからこそ蘭が浮気しても驚かないし、怒りよりも呆れや疲労感の方が勝っていた。

しかしそれが俺の目の前で、それもこの部屋で行われたなら話が変わってくる。何故なら俺は、この部屋のベッドには蘭しかあげたことがなかったからだ。竜胆が家に遊びに来るときだって寝室には入らせたことはない。

勿論寝具としての役割を十分に果たして貰っているベッドだが、俺にとってこのベッドは『恋人と俺』が使うもの。第三者が使っていい代物ではないのだ。

・・・まぁこれは俺が勝手に決めた所謂俺ルールだ。そんなもの蘭が知るわけがない。


けれど常識的に考えて、恋人の家のベッドで浮気相手とセックスするのは止めて欲しかったな。いや、常識的に考えると恋人がいる身で浮気をするなという話だが、蘭相手だとそれは高望みだろう。

唯一の救いは、浮気相手は女ばかりで男はいないことだろうか。これは竜胆からも「兄ちゃんの浮気相手に男はいない」とはっきり言われているため確かな情報だ。

まぁだからといって安心できるわけではない。何時か蘭に男の浮気相手が出来るんじゃないかとハラハラドキドキしている俺がいる。


そもそも蘭はどういう気持ちで浮気をしているのだろうか。浮気に対して罪の意識がないから、俺に対する罪悪感をこれっぽっちも感じていないのはわかる。

俺は一度好きになった人には誠実でいたいタイプだから、蘭と知り合ってからは勝手に女の知り合いとの連絡は断ったし、男相手でも二人きりになるのは控えるようにしている。因みに竜胆は蘭の家族のため別枠で二人きりになるときはある。

蘭の気持ちをきちんと理解すれば、この微妙な気持ちは解消されるのだろうか。



「あーあ、俺も蘭みたいに浮気しようかな」

頭の中でいろいろ思い悩んだ末、何気なく呟いた言葉だった。蘭のことだしすぐに機嫌を直して「えー?名前も浮気すんのー?おそろいじゃーん♥」と笑って返事をしてくるものだと思っていた。


「あ゛ぁ?」

が、返ってきたのは恐ろしくドスのきいた低音。何時ものちょっと可愛い子ぶりっ子してる声とは雲泥の差。

声に驚いて固まる俺の身体はキレ顔の蘭によってフローリングの上に転がされる。背中がめちゃくちゃに痛かったし、下の階の人にクレームを入れられないかが心配だった。

床に転がされた俺の上に全裸の蘭が跨り、キレ顔のまま「おい」と声を掛けてくる。これは下手な返事をすれば殺されるまでありそうだ。


「もう一回言ってみろ」

「は?えっと、俺も蘭みたいに浮気・・・」

顔面すれすれに拳が振り下ろされた。


「もう一回」

「ら、蘭みたいにうわ」

また顔面すれすれまで拳が振り下ろされた。蘭は真顔になっている。

美人の真顔ほど恐ろしいものはない。


「もう一回」

「蘭がいるのに浮気するわけないじゃん」


「・・・、・・・だよなぁ!もぉ、何時も一途な名前が急に変なこと言い出すから、蘭ちゃん吃驚しちゃった♥」

真顔から一変。蘭は満面の笑みを浮かべて俺に抱き着き、ちゅっちゅっと顔中にキスを落としてきた。



「名前みたいな一途な男は、浮気が本気になりやすいから蘭ちゃん心配だなぁ。だから名前・・・冗談でも浮気するなんて言うなよ?な?」

ふんわり柔らかく首に添えられた手。蘭は満面の笑みのまま、俺に脅しをかけている。

「返事」

「・・・浮気なんてしないよ。蘭じゃあるまいし」

「そうそう♥名前は俺だけを好きでいればいーの♥」

ぱかりと口を開いた蘭が噛みつくようにキスをしてきて、さりげなく膝で俺の股間を刺激し始める。


「仲直りのセックスしよぉな♥」

俺さっきそんな気分じゃないって言ったじゃん、という俺からの言葉はこれっぽっちも受け取らず、蘭は楽しそうに俺の服を脱がしにかかった。




浮気はしちゃ駄目だぞ




「理不尽じゃない?」

翌日釈然としない気持ちをそのまま竜胆に告げれば、竜胆は「兄貴だからな」と悟った顔でポテチの袋を開けた。

現在我が家のリビングで我が物顔で俺のポテチを食べている竜胆。そんな竜胆が買ってきた替えのシーツは嫌がらせなのかファンシーなピンクの花柄だったが、それを店で買う竜胆の姿を想像すればこれっぽっちも怒りは湧かなかった。



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