×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





※『主人公嫌われジャンルの裏側』の前くらい。


「相手方には悪いが、ほんと『厄介事』だな」


そう言って口の中の飴玉を噛み潰す。

つい先日、参番隊の隊長パーちんの親友とその彼女が愛美愛主のメンバーに襲われたらしい。

袋叩きにされ、彼女の方はレイプされた挙句に全身ボコされて・・・

早いうちから内部ではその話で持ち切りで、特に参番隊連中は殺気立っていた。


愛美愛主とは抗争になるのは自然な流れだ。愛美愛主をボコしたからといってパーちんの親友や彼女が喜ぶかと聞かれればそうとは限らないが、明らかに頭が足りない自分たちが出来る簡単な敵討ちが『喧嘩』なのだ。

正直なところ無駄に暴れ回るよりもまだ逮捕されていないであろう愛美愛主の実行犯共をとっ捕まえて警察に突き出したほうが身になるとは思うが、はたしてそれを考えついている奴らはどれだけいただろう。・・・まぁ、実行犯を探し出せるとも限らないし、だったら全員ボコす方が頭が足りない自分たちにとっては確実だった。


・・・だが結果的に、抗争自体は始まらなかった。

抗争について隊長副隊長の何人かが話し合いを行っている最中、連中が日程を守らずに乗り込んできたらしい。

二年年上にもマイキーの強さは遺憾なく発揮され、長内はマイキーにノされた。

しかし問題は此処からだ。どうにも参番隊の隊長パーちんが直後に長内を刺したらしいのだ。

流血現場には喧嘩の騒ぎを聞きつけたサツが現れ、愛美愛主の連中の複数がしょっ引かれた。そんな中で、パーちんは『自首』の道を選んだのだ。


当然、チームは荒れた。何故親友の仇をうとうとしたパーちんが自首をするのか。自首を止めることは出来ないのか。

総長であるマイキーはパーちんが逮捕されることを受け入れることはなく、逆に副総長であるドラケンはパーちんの決意を尊重しようと宣言。・・・チーム内は見事に二分した。





「にしても、穏やかじゃねーよ」

ポケットから新たに取り出した飴玉を口に放りながら目を細める。

予定ではあるはずだった愛美愛主その抗争、それに反対する者は一人としていなかった。

しかし抗争について話し合っていたその日、抗争を辞めろと言う奴がいたらしい。


東京卍會とは本来関係ない、けれど総長の『お気に入り』である『花垣武道』という男。

最近になって突然その名が上がり始め、抗争が決定した夜にも何故か集会に紛れていた。その時に姿を見たが、聞いていた以上に弱そうな男だった。

総長のお気に入りでなければあっという間に『搾取される側』だ。現に少し前までは清正のパシリだったそうじゃないか。



「無関係の癖に抗争をやめろとのたまった花垣武道は特にお咎めなし。お気に入りは本当らしいなぁ」

なぁ?と隣にいた奴に適当に声を掛けると、そいつは無言でバイクのエンジンをかけた。

花垣武道の主張通りに抗争を辞めたなら、それこそ批難で溢れてチームは崩壊していただろう。そうはならなかったものの、花垣武道の僅かな『特別待遇』に違和感を覚える奴らはいた。


ただでさえ総長と副総長の意見の違いでチームは荒れ、総長に対して不信感を感じる奴らがいた。それに加えて無関係の奴のチーム介入。荒れるのも仕方ないだろう。

花垣武道が全ての原因とまでは言わないが、この件も含めて確実にチームの輪が乱れている。

人によってきっかけは異なるが、自身が所属しているチームに違和感を覚える奴らが以前から少しずつ増えてきていることを俺は知っている。俺以外にも気付いている奴らはいるだろうし、副総長なんかは総長が気付かないそういう部分も含めてどうにか調整しようとしている。・・・勿論副総長も一人の人間のため、完璧ではなく『取りこぼし』もあるわけだが。

俺は再び飴玉を噛み砕きそうになったが、直前に飴玉が最後の一つだったことを思い出して大人しく舐めることにし、隣の奴のバイクの後ろに跨る。



「それにしても総長と副総長はあっという間に仲直りか。けれど依然、チームは揺れたまま」

バイクが静かに発進し、それからどんどんスピードが上がっていく。少し前から降り続けている雨が鬱陶しいったらない。

途中で他のバイクが合流する。どいつもこいつも、その表情に覇気はない。

愛美愛主との抗争は結果的に起こらなかった。そのはずだった。


「上が仲直りしても、波紋はそう簡単には消えないって知らんのかねぇ」

総長が副総長の言葉を受け入れた。つまりはパーちんの自首を受け入れたということだ。

総長側についていたメンバーはどう思ったか。総長が決めたのだから仕方ないと受け入れた者もいれば、そうじゃなかった者もいる。


そんな中では『裏切り者』が現れるもの仕方ないことだ。

その裏切り者が愛美愛主の残党と手を組み、ドラケンを襲撃しているという連絡がチーム全体に回ってきたのが三十分ほど前。連絡網なんて大層なものはないが、こういった時の連絡速度は速い。

俺のところにも当然連絡が来て、それから別の連絡も来た。




『行きますか』




それは俺に対し、愛美愛主との抗争に参加するか否かの確認。

俺はそれをしばらく見つめた後、メールを送ってきたうちの一人に「迎え、ついでに頼んでいいか」と連絡をした。それが答えた。

別にドラケンに助太刀をしたいとか、愛美愛主の残党を潰したいとか、何か大きな感情が働いているわけではない。

単純に、チームに所属している『義務』と『義理』だ。

総長に対して違和感を覚えたから、副総長に対して悪感情があるから、そんな理由で休みはしない。逆に、そういったマイナスの感情で何かを実行するほどの元気もない。



「義務と義理は絶対だ。チーム全体のために頑張ろう。なぁ、皆」

停止したバイクから降り、ぽんぽんっと周囲の奴らの肩を叩きながら前に進んでいくと、数名が気色悪いものを見る目をこちらに向けていた。

何だよノリ悪いな、とへらりと笑って見せればそいつらは無視して喧騒の中へ駆けて行った。一歩遅れながらも俺と周りの連中も駆け出し、近頃の鬱憤を晴らすように暴れ回る。



「キヨマサがいます」

途中、すれ違いざまにそんな言葉が耳元に届き、俺は口元にへらりとした笑みが浮かぶのを感じた。

別に清正が抗争にいること自体は可笑しいことじゃない。問題は起こしたが、別に正式に除名させられたわけでもない。ただ喧嘩賭博なんていう目に見えた問題を起こしたからこそ、大きな集まりなんかで姿を見せなくなっただけ。

ただ『ドラケンを助けるための抗争』に参加するかどうかと聞かれれば、疑問なところだ。

ドラケンに助太刀をして落とした信頼を回復させたいのか、単純に喧嘩で近頃の鬱憤を晴らしたいのか。

どちらにせよ、ドラケンに対する『義理』ではないだろう。




「ドラケンが刺された!」

その言葉に反応し、ガリッと飴玉を噛み砕いた。




あ?と声のした方を見れば、人混みでしっかり確認することは出来ない。

けれど自然と浮かぶのは清正の存在だ。俺だけではなく、他の平隊員たちもほぼ確信を持って思っただろう。

相変わらず振り続けている雨で視界が悪いが、刺されたらしいドラケンを背負っているアレは花垣武道じゃないか?おいおい、マイキー直々にドラケン託されてんじゃん。おかげで何人かの手が止まって大惨事。こりゃ溝が深まったな・・・

まぁどうでもいいか、と俺は目の前の奴の奴に拳を振り上げた。


ドラケンと花垣武道不在の状態でも当然喧嘩は続き、最終的に残ったのは化け物級のマイキーと隊長各数名。愛美愛主の方も数名を残してほぼ全滅。俺も地面と仲良しで寝そべってているが、案外頑張れば起き上がれそう。まぁ無理はしないに限るから起き上がらないけれど。

ぼんやり頃の成り行きを見守れば、愛美愛主の奴らは退場。件の『裏切り者』であるぺーやんも許されてるっぽい。あーあ、こういうのは形だけでも筋を通さないといけないのに。わかってないなぁ。

俺はマイキーたちがドラケンが運び込まれたであろう病院まで急いで行く様子を見届け、それからむくりと起き上がった。

実は喧嘩中に何度か震えていた携帯を内ポケットから取り出し、ぽちぽちと確認。確認後、俺はじんわり痛む身体にムチ打って起き上がり、ふらりとその場を離れた。付いて来ようとする奴らにひらりと手を振って、一人で向かう。











「おぉい」

眼球を攻撃するつもりなのかと思える赤いサイレンの光の発生場所に向かい、車内に連れていかれる背中に向かって遠目から声を掛ける。あまり近づくと俺もお世話になっちまう可能性があるから、逃げられるぐらいの距離で。

扉が閉まる住んでんでこちらを見た清正の目は、暗く落ちくぼんでいる。

随分と憔悴していて、警察に抵抗する気力もなさそうだ。


「出所したら、一度顔見せに来いよ」

調べれば過去の喧嘩賭博とか暴力沙汰とかいろいろ出てくるだろうし、仕舞いには銃刀法違反と殺人未遂。確実にムショ行きだ。

俺はその言葉を最後に、こちらに近づいて来ようとする警察から逃げるように駆け出した。





嫌われジャンルのカウントダウン





「武道くん、直接的な関係はないと思いますが、所属している人間に無視できない経歴があったので、参考までに」

何度目かのタイムリープの後、現代へと戻ってきた武道の前に、とある資料が提示された。

「宗教法人・・・せき、ぎ?」

「宗教法人『責義会せきぎかい』。表に出るような大きな問題が起こしているわけでもないため、警察側からはほぼノーマークだったんですが・・・調べたところ、教祖である男は過去に東京卍會に所属していました。支部を管理している男たちもそうです」

「・・・元東京卍會メンバー?」

「東京卍會だけではありません。愛美愛主、黒龍、ICBM・・・様々な暴走族に所属していた、特に名前も残っていなかった複数名が所属。それ以外に一般人も所属しています」


「確かに気になるけど、問題起こしてないならいいんじゃ?」

「僕もそう思っていたんですが、数年前に出所したキヨマサがその宗教団体に加入しています」

「キヨマサが!?」

「こちらでも少し調べてみます。ですがキヨマサが何か問題を起こしたわけでもない。武道くんは引き続き、東京卍會の方に集中してください」


「わ、わかった・・・」

突然現れた謎の宗教団体の存在に、武道の胸には言い知れぬ不安が広がった。



戻る