×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





※エマ成代り主♂


結局のところ、僕は誰にとっても『二番目』だった。


腹違いの兄である万次郎の一番は真一郎。

もう一人の兄であるイザナの一番も真一郎。

ケンちゃんの一番は万次郎。

もう顔も殆ど思い出せないお母さんの一番は知らない。けど僕が一番じゃないのは確かだった。

おじいちゃんはどうかな。僕は後から孫になったし、身体が弱いせいで空手も出来なかったから、たぶん一番じゃない。平等には扱ってくれるけど、だからこそ一番にはして貰えない。


二番目は損だ。常に一番目が優先されるから、二番目の約束は何時だって蔑ろにされる。

万次郎は兄の背中を追っていたから、不良の友達の方を優先した。ケンちゃんは言わずもがな、万次郎を優先する。当たり前のこと。

一緒に遊ぼうの約束は「集会があるから」の一言でなかったことにされる。一緒に出掛けても、喧嘩を吹っ掛けられれば「名前は先帰ってて」と約束を切り上げられる。兄や周囲が不良ばかりだから、学校でも友達はいない。何時だって独りぼっち。

・・・イザナは、ニィは僕を迎えには来なかった。


いっそ僕も不良になれればよかったのに。少しでも無理をすると体調を壊すこの身体が恨めしい。面倒な体質の僕だから、お母さんも僕のことを鬱陶しがっていた。

真一郎はどうだったのかな。僕が風邪で寝込めば「大丈夫だからな」と僕の手を握って笑ってくれた真一郎。バイク屋を始めてから、僕が押しかけても嫌な顔一つしなかった真一郎。

夜にぐずる僕を抱きしめて「大丈夫だぞ」と言い続けてくれた真一郎。

でもわかるよ。真一郎にとって僕は一番には成り得ない。真一郎が気にしていたのは何時だって万次郎で、それからイザナのこと。体調を壊す以外は比較的『イイコ』な僕なんて、真一郎の眼中にないはずだ。



漠然とした絶望と、常に感じる孤独感。それを覆い隠すように強めて明るく振舞ったけれど、笑ったり明るい言葉を口にするたびに「あぁでも、僕は独りなんだ」と思ってしまう。

たまに、どうしても『耐えられない日』がある。そういう日は、真一郎のいるバイク屋に押しかけて、その日はそのまま真一郎のところに泊まる。

突然押しかけているのに、真一郎は嫌な顔一つしない。いつだって「おぉ来たのか」と笑って僕を受け入れてくれる。・・・それが凄く、申し訳ない。


真一郎とイザナが会っているのを知ったのも、これが原因。イザナも真一郎も僕が知っていることを知らないだろうけれど、『耐えられない日』にイザナの姿を見たから僕は知っている。・・・あの日は、ただでさえ『耐えられない日』だったのに、死んでしまいそうな気持ちになった。

僕のことを迎えに来てくれないのに、真一郎と楽しそうに喋るイザナの姿を見て、イザナの中の僕が二番目どころかランク外なことを知った。

僕の存在なんて所詮はそんなもの『必ず迎えに行く』なんて『約束』なんて、守るに値しない存在だった。ただそれだけだった。



「・・・・・・」

辛いことを思い出した。

僕は心が狭いし貧しいしみみっちぃから、すぐに過去のことを思い出しては勝手に辛くなってしまう。二番目なのは僕個人が至らないだけなのに。イザナのせいでも、万次郎のせいでも、真一郎のせいでも、おじいちゃんのせいでもない。


布団の中で天井を見つめながらぼろぼろと涙を流す僕に「怖い夢でも見たのか?」と優しい声をかけて、ひょいっと顔を覗き込んでくる真一郎。

視界が真一郎の顔でいっぱいになって、僕は小さな声で「夢は、見てない」と返事をした。

僕の返事に「そうか」と頷きながら、真一郎は僕の背中に腕を回して上体を抱き起す。ぼんやりしながら涙を流せば、よしよしと頭が撫でられた。


「・・・ごめんね、真一郎。またいきなり来ちゃった・・・迷惑だよね、ごめんね」

「迷惑なわけないだろう?来たい時に来たらいいんだ。我慢なんてしなくていいから」

「・・・そしたら、毎日来ちゃう」

「ははっ、けどそうなったら万次郎たち困るだろうなぁ。名前の作る飯は美味いから、きっと二人とも俺に文句言ってくるぞ。名前を連れてくなって」

そうかな。二人とも、僕なんかいなくても全然困らないと思うけれど。

そりゃ、ご飯は美味しいって言って全部綺麗に食べてくれるけど、料理なんて別に僕じゃなくたって出来るし。・・・あぁでも、万次郎もおじいちゃんも料理出来ないか。じゃぁ僕、ちょっとは必要なのかな。


「名前の作る卵焼きは最高だからなぁ。・・・んー、やばい、小腹が空いた」

夜中なのに、と困ったように腹を擦る真一郎は「よし、何か食うか」と僕の手を握って立ち上がる。釣られて立ち上がる僕を連れて台所に向かった真一郎は戸棚をごそごそと漁り、カップ麺を一つ取り出した。

「あったあった。実家じゃすぐ万次郎に見つかるからなぁ」

「・・・たまに買い置きが無くなってたの、二人のせいだったんだ」

「やっべ、まさかこのタイミングでバレるなんて」

わざとらしく肩を落とす真一郎にちょっとだけ笑ってしまうと、真一郎は僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でて「よっし、今日は俺と名前のせいだな」と言いながらやかんでお湯を沸かし始めた。

お湯が沸くまでの間、真一郎はぼんやりとしている僕を緩く抱きしめていてくれた。

お湯が沸いて、カップの中にお湯を注いでから三分。テーブルの上に置かれたカップ麺は良い香りがして、僕もおなかが空いてきた。


「熱いから気を付けろよ」

まるで小さな子供を相手にするみたいなことを言う。けれど実際僕はまだ子供だし、真一郎が僕を気遣っているのはわかっているから何も言わない。

ふーふーっと軽く息を吹きかけてちゅるりと啜る。もぐもぐと咀嚼をしていると、隣から箸が伸びて真一郎が一口啜った。


「あー、夜中のラーメン沁みるわぁ・・・」

「・・・真一郎、ちょっとおじさんっぽい」

「はっ、ま、マジ?名前から見て、俺おじさんっぽかった?」

真一郎をおじさんだと思ったことはないけれど、少し焦った顔をする真一郎が面白くて「ちょっとだけね」と返事をして、つい笑ってしまった。真一郎は「笑うほどか・・・」と肩を落とした。

ラーメンは美味しかった。でもあまり食べすぎるとおなかが痛くなってしまうだろうから、殆ど真一郎に食べて貰った。

お腹が満たされた僕を真一郎は布団に戻し、ぽんぽんっと軽くおなかをたたいて寝かしつけようとしてくれた。



「・・・真一郎」

「んー?まだ眠れないか?」

「ごめんね、ごめんね真一郎」

「どうしたぁ?名前は何も悪いことしてないだろ?よしよし、朝まで傍にいてやるからな」

また涙が出そうになる僕を、真一郎は抱きしめて「うーん、子供体温で俺の方が先に寝ちゃいそうだ」と笑った。


「・・・今だけ、真一郎の一番にして」

夜が明けたらまた一番を諦めるから。

誰も僕を一番にはしてくれないとわかっているのに、往生際が悪いったらない。そんな自分自身に失望しながら、僕は真一郎の返事を待たずに目を閉じた。






「やめろ一虎あぁ!!!」


万次郎の友達の、場地くんの声で僕は遠くへ飛ばしていた意識が戻るのを感じた。

そろそろ万次郎の誕生日で、真一郎が毎日こつこつとバイクの用意をしているのを知っていた。真一郎の邪魔をしたくなかったのに、その日はどうしても『耐えられない日』になってしまって、迷惑だとはわかりつつ真一郎のところに行った。


その日の夜、一階にあるバイク屋の方から物音がして、真一郎は下に降りた。真一郎は部屋にいろって言ったけど、真一郎から離れたくなかった僕はついて行った。

そこで見たのはバイクを盗もうとしているフードを被った若い男。声で、それが万次郎の友達の場地くんだとすぐに気付いた。そしてもう一つ、場地くんを見付けた真一郎に向かって駆け寄ってくるもう一つの影にも。

場地くんが一人でこんなことを仕出かすわけがない。もう一人いたことには大して驚かない。

場地くんの叫ぶ声で、僕はもう一人より早く真一郎の方へと駆けだした。

とんっ、と真一郎の身体を押す。場地くんに意識がいっていて無防備だった真一郎の身体が横にずれて、真一郎の立っていた場所に僕が躍り出る。


「・・・名前?」

僕よりも真一郎が生きてる方が、きっと皆喜ぶだろうなぁ。

もう一人が振り上げた鈍器に殴られるその一瞬でそんなことを思ってしまった僕は、ゴシャッという潰れるような音と共に意識を失った。




どうせ二番目はいらない




「名前、名前・・・あぁッ、起きろ、返事をしてくれっ、名前・・・」

頭から血を流しぐったりとしている名前を抱えながら俺は懇願する。

名前は少し控えめな、けれど他人を気遣える、やや気遣ってばかりなそんな弟だ。俺のことも、じいちゃんのことも、万次郎のことも、まだ会わせてはいないイザナのことも、深く深く愛してくれている可愛い弟。愛の深さ故に、返されるものが普通の愛じゃ満足できないような少し難儀な考え方をしている、可愛くて可哀想な弟。


兄弟に対する気持ちに優劣なんてないと思っていた。

俺にとって万次郎もイザナも名前も平等に愛しい存在だと思っていた。

けれど今この瞬間、血を流しどんどん冷たくなっていく名前を目の前にして気付く。


「頼むっ、頼むよ名前・・・死なないでくれっ、お願いだから」

頭の中はぐちゃぐちゃだったが、救急車は呼べた。伝えた言葉は支離滅裂だったかもしれないが、店の名前は伝えることが出来たからすぐに救急隊がくるはずなんだ。

だから名前、もう少し辛抱してくれ、お願いだから。普段は我慢しなくていいって言うが、今だけは我慢してくれ。お願いだから、俺の前から消えたりしないでくれ。


「お前が、死んだら、俺は、俺は・・・!」

きっと心の中の何かが折れてしまう。



あとがき

愛されている自覚はあっても一番に愛されないと満足できないメンヘラ適正があるエマ成代り主♂
この度自分の生死を犠牲に自分を一番に愛してくれる人を得られたけど、生存率は低め。
此処で生き残っても、未来で稀咲に頭ぶん殴られる未来が待ってる。

生き残ってもしばらくは意識不明になるから、後日この出来事を知った万次郎とイザナにも大ダメージが入る。



戻る