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後輩の橘くんは真面目で優秀な子だ。上からの評価も高い。

ただ、東京卍會に対する熱意が凄まじく、ちょっと危なっかしく思う部分もある。

先輩たちからは「橘のこと、ちゃんと見てやれよ」とよく言われる。先輩たち曰く、橘くんは俺によく懐いているらしい。



「苗字さん、お疲れ様です」

「お疲れ、橘くん。・・・相変わらず凄い資料の数だね。手伝おうか」

資料室から出てきたばかりらしい橘くんと鉢合わせ、その両腕に抱えられた大量の資料が目に入る。

見て見ぬフリも出来るが、今日は特に追加の業務はいない。後輩の手伝いをする程度の時間はあるためそう申し出れば、橘くんはきりりとした意志の強そうな瞳を少し緩めた。


「お気遣いありがとうございます。では、この資料のファイリングを手伝っていただけますか」

「わかった。・・・12年前の記事が多いけど、何かあった?」

「手がかりになりそうな記事だったので」

橘くんと連れたって空いている小会議室に入り、長机の上に資料を並べて行く。

全てを見たわけではないが、ぱっと見た感じ12年前の資料が殆どだ。これが本当に東卍に関係するのだろうか。

しかし東卍の件は俺の直接的な管轄ではないし、深入りはあまりするべきではないだろう。


橘くんと向かい合って資料整理を進めていると、途中で少し席を立った橘くんが珈琲の入ったマグカップを手に戻ってきた。二つあるうちの一つは、俺が給湯室に置き去りにしたまま存在を軽く忘れていたマグカップだ。

「どうぞ」

「気が利くね、橘くん。有難う」

にこりと微笑んでマグカップを置いた橘くんにお礼を言い、珈琲を一口。自然と休憩の雰囲気になり、俺はまとめている途中の資料を横にずらした。



「あの、少々お伺いしたいのですが」

「いいよ、俺に答えられることなら聞いて」

流石に俺が担当している捜査の情報などは迂闊に教えることは出来ないが、おそらく聞きたいのはその件ではないだろう。


「有難う御座います。苗字さんは12年前から東京に住んでいると以前お聞きしましたが、12年前当時に素行の悪い友人知人などはいましたか?」

「同じ高校に素行の悪い奴らはいくらかいたけれど、知人って程ではなかったな。12年前の出来事で何か聞きたいことでも?」

12年前。やはり随分と12年前にこだわっている。東京卍會が何時頃から活動しているかは知らないが、12年前に相当重要な出来事があったのだろう。

確かに十数年前は随分と素行の悪い未成年が多く、軽い不良ブームみたいなことになっていた。今もそう変わらないが、今の不良は不良というよりはチンピラに近いかもしれない。


「・・・苗字さんならきっと昔から正義感が強い、頼りになる先輩だったんだろうなと思って。12年前のことを調べているうちに、当時の苗字さんのことが気になってしまっただけです」

先輩たちの言う、橘くんは俺によく懐いているという言葉の意味がわかる気がする。確かに、この様子だと俺は橘くんから良く思われているのだろう。

その好意をこそばゆく思いつつ「正義感かぁ・・・」と曖昧に笑う。橘くんには悪いが、12年前なんてそこら辺にいる餓鬼と大して変わらなかった気がする。


「12年前なんて高校生だったし、まだ進路を考えてる最中だったと思う。たぶんそこら辺にいるような餓鬼だったよ。後輩にそう言われて悪い気はしないけど、あまり期待されてもなぁ」

「苗字さんでも進路に思い悩んだんですね・・・」

「君の中の俺ってそんなに立派?」

「はいっ、尊敬してます!」

そんなにはっきり言われるととても照れる。普段から周囲におべっか垂れて媚びてるような奴なら「あーはいはい」で軽く流せるのだが、橘くんはそういうタイプじゃない。むしろ目上の相手でも意見がある時ははっきり言うキッチリサバサバしているタイプだ。

だというのにそんなに目をキラキラさせて・・・俺、橘くんに何をしてやっただろうか。新人の教育係としてしばらく一緒にいたぐらいだ。普通に署内のルールとかを教えて、捜査をする際の周囲への根回しとか、そういう軽いテクニックを教えたりもしたが、特に凄いエピソードがあったというわけでもない。

・・・まぁ橘くんの頭の中なんて他人の俺がわかるわけもないか。俺はただ、慕われている事実に素直に喜んでおこう。



「あー、そっか・・・有難う。後輩にそう言われて悪い気はしないし、今度飯にでも連れてってあげようか」

「ほ、本当ですか!?」

「食いついてくれるのは嬉しいけど、俺が普段行く店なんてその辺の居酒屋だしなぁ。あ、橘くんが行きたい店にする?」

「いえ!是非、苗字さんの普段行く居酒屋でっ」

「そう?じゃ、お互い日程とか確認して、空いてる日を連絡しよう」

わかりました!という元気な返事を最後に、端に寄せていた資料を再び引き寄せる。

プリントアウトされた新聞記事や当時の地図、個人の顔写真やプロフィールまである。その一つ一つを種類ごとにファイルにまとめていくと、山ほどあった資料は半分程度まで減った。



「有難うございます。助かりました・・・」

「最後まで手伝ってあげたいところだけど、俺が見てはいけない資料もあるだろうから。・・・他に、俺が手伝えるようなことがあれば遠慮なく言うといい」

「はい!有難うございます!」

俺がまとめたファイルを抱えながら頭を下げる橘に別れを告げ、小会議室を出る。そろそろ帰るか、と自分のデスクがあるフロアへと向かった。


あの様子だと橘くんが暇になる日はしばらくなさそうだが、飯に連れて行くと言った手前、誘うのもこちらからがいいだろう。

携帯のカレンダーで予定を確認しつつ「・・・橘くんってもろキュウとか食うのかな」と小さく呟いた。









「武道くん!次のタイムリープでは是非、苗字名前さんという方の様子を見てきてください!・・・あ、いえ、そんな暇がなければ無理にとはいいませんけど」

「へ?」

両腕に一冊のファイルを大事そうに抱えた直人は、通常時のやや冷めた様子ではなく、何処か興奮した様子で武道に迫る。

「苗字さんは素晴らしい人なんです。学生時代もきっと真面目な・・・いや、逆に不真面目でもいい。不真面目だった苗字さんがある日を境に警察を志し、尊敬できる先輩として成長していく姿、その原点を知ることが出来るかもしれない!」

きらきらと目を輝かせ、興奮気味に声を上げる直人に武道は「は、はぁ?」と顔を引きつらせる。


「苗字さん、とは?」

「この人です!」

勢いよく眼前に突き出されたスマホには名前の写真。画質が荒く、端に誰かが見切れている様子からもしかすると何かの集合写真を編集で切り抜いて拡大したのかもしれない。

武道に見せた後は自分でスマホの画面を見て、にこーっと口元を綻ばせる直人。どう見たって写真の人物に尊敬以上の感情を抱いているのが見て取れる。

顔を引き攣らせたままの武道は「あ、うん、見かけたら覚えとく」と曖昧な返事をした。




憧れの先輩警察官




とある日の夕方。

学校指定の制服を正しく身に着け、起き勉などせずに毎日きちんと持ち帰っている教科書が詰まった鞄を持つ、大人が思う『模範生』といった風な高校生。

「名前!今帰り?」

「んー。じゃぁなぁ」

サッカー部の友人とすれ違った後一人ゆったりと帰路につく彼は、ふと鞄の奥底からガラパゴス携帯を取り出しアドレス帳から探し当てた番号へ慣れたように電話をかける。


「柴くん、苗字だけど。先生からプリントを預かっているんだけれど、家に届けた方がいいかな?それとも、前みたいに君の知り合いに預けた方がいい?」


電話の向こう側に問いかけると、相手は短く「届けろ」と返事をした。届けてもらう立場なのに毎回態度がデカいな、と名前はため息を吐いた。

一方的に切れた電話にもう一度ため息を零し、教師から預かったプリント達が詰まった封筒を手に、普段殆ど学校に顔を見せないクラスメイトの柴大寿の家がある方角へと歩き出した。



あとがき

未開放情報『柴大寿の同級生』
別に隠していたわけではなく、本人的にはただのクラスメイトであって友人って程でもないし、プリントを届ける以外で関わりもなかったから『知人かどうかの脳内確認の結果、ギリギリ知人未満』になった。
多分柴大寿的には知人、もしかすると友人かもしれない。大寿くんが可哀想。

タイムリープとかの影響で大寿くんとの関係が『知人未満』→『知人』→『知人以上友人未満』→『友人』に進化していくかもしれない。
友人な時は大寿くんもギリギリ堅気な生活をしてる。

大好きな先輩の交友関係がちょっとずつヤバイ方向にいっちゃってることに直人は焦るし、焦ってる様子を大好きな先輩に心配させてご飯とかに連れてってもらえる。複雑な心境だけど嬉しい展開にはなってくれる。



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