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同じクラスの佐野くんを、教室に送り届ける人がいる。

名前は龍宮寺くん。佐野くんからはケンチンと呼ばれている。

同じ中学生とは思えないぐらい体格が良くて、金髪に染めてて、頭の横のとこに入れ墨が入ってる。吃驚するぐらい中学生っぽくない。



「はよ」

そんな龍宮寺くんは、佐野くんを席まで送り届ける時に必ず僕の肩をぽんっと叩いて行く。親し気に朝の挨拶までして。因みに佐野くんも龍宮寺くんも平気で遅刻してくるから、正しい挨拶は「おはよう」ではなく「こんにちは」だと思う。勿論、口にはしないけど。


僕はと言えば、毎回ちらりと龍宮寺くんに視線を向けるぐらいで、まともな返事が出来た試しがない。僕は不良じゃないし、龍宮寺くんや佐野くんと比べればずっと地味だし、そもそも不良怖いし。

何でわざわざ僕に挨拶をしていくのかわからない。けれどせめて、会釈ぐらいは返したい。身体が硬直してしまって首が動かせないけど、毎回会釈の努力はしてる。


結局、今日も挨拶を返せなかった。佐野くんは席に着いたらすぐ寝るし、給食食べる時は起きてるけどそれが終わったらまた寝るし・・・

いや、起きてても喋りかけられるわけがないし、むしろ起きてた方が怖いから寝ててくれて全然いいんだけど。

あぁ、そんなことを考えている間にあっという間に午後だ。授業を最後まで受ける気はない佐野くんを、同じく授業を受ける気が無い龍宮寺くんが迎えに来る。既に授業が始まっているため、僕は黒板に書かれている文字を書き写すためにノートに視線を移した。



ぽんっ、と肩が叩かれる。

ハッとして振り向けば、欠伸する佐野くんを伴った龍宮寺くんが僕を見降ろして笑っていた。


「じゃーな」

まさか帰りの挨拶までされるとは。僕は「返事、返事をしなきゃ」と頭が混乱し始めるのを感じた。朝の挨拶は毎回のことだからと覚悟が決められていたけれど、これは予想外過ぎて無理だった。

挨拶を済ませるとさっさと離れて行こうとする龍宮寺くんのカーディガンを裾を、気付けば掴んでいた。

あ?とこちらを見下ろす龍宮寺くんと、がくがく震える僕。何で掴んだ。けれど言うなら今だ、今しかない。



「・・・ま・・・また、明日」

「ふっ・・・あぁ、また明日な」

ぽんぽんぐりぐりと頭をぐちゃぐちゃに撫でまわされた。

声は裏返ったし声量はだいぶ小さかったと思うけれど、返事をするというミッションは達成できた。


教室から出て行った龍宮寺くんと佐野くんを横目で見送り、僕はぼさぼさ頭のまま再びノートに文字を書き写し始めた。・・・あまりの達成感に口元がにやけてしまっているのは、仕方がないことだと思う。









教室を出た後、昇降口で靴を履き替えた堅はもう耐え切れないと言わんばかりに吹き出した。ぶるぶると身体を震わせて笑う堅を、万次郎は呆れた顔で見つめる。

「見たかよマイキー、仔犬みてぇにプルプル震えてたな」

「ケンチン趣味わる。あんなのがいいの?」


苗字名前はドラケンのお気に入りだ。

律儀な性格なのか、毎回こちらの挨拶に返事をしようと葛藤している姿は見ていて面白い。

まさか今回あんなに勇気を出してくるとは思わなかったが、その様子があまりに仔犬じみていて、堅は完全にツボに入っていた。


「次は外でも声かけてやっかなぁ」

名前が放課後に寄り道するCDショップも、公園のベンチで音楽プレイヤーを使って新曲を楽しんでいるのも知っている。

気に入った曲を聴くと嬉しそうに表情を和らげて、目を閉じる癖も知っている。

今日はどうだろうか。帰りにちらりとその公園に寄ってみようか。

堅がくふくふと笑いながらそう考えていると、万次郎が「ケンチンがそんなに気に入ってるなら、俺も声かけてやろっかなぁ」と呟いた。


「おいおい止めろよマイキー。お前に声かけられたら気絶しちまうだろ」

「ケンチン相手でも気絶寸前じゃん。むしろ、俺の方が落ち着いて話せるかもよ?」

その言葉に堅はぴくりと反応した。

確かに堅は名前よりずっとガタイが良く、威圧的に見えるだろう。それを考えるとそこまで身長も高くはなく顔立ちも厳つくはない万次郎の方があっという間に名前も慣れる可能性がある。

だとしても、堅はそれを認めるわけにはいかない。


「はぁー?そんなわけねぇだろ」

「何ムキになってんだよケンチン」

「ちげーよ。俺はただ事実を言っているだけだ」

「ふーん」

にまにまと笑って「じゃ、今度試してみよ♥」と言う万次郎に、堅はぎゅっと顔を顰めつつも「望むところだ」と返事をした。



数日度、暴走族の総長副総長ペアから同時に声を掛けられた憐れな少年は、ものの見事にフリーズすることになった。




副総長のお気に入り




「・・・これ、気絶してる?」

椅子に座ったままフリーズ状態になった名前の前でひらひらと手を振る万次郎。

堅は額に手を当てた。流石に悪いことをした自覚がじわじわと沸いてくる。


「おい苗字、聞こえっか?悪かったな、別に危害を加えるつもりで声を掛けたんじゃねぇから」

自分より低い位置にある頭をぐしゃぐしゃに撫でながら伝えれば、フリーズしていた名前の目が驚くほどきょろきょろと泳ぎ出した。

じわじわと汗を掻いて、机の上に置かれていて手がところなさげに動く。


「・・・ぁ、え・・・」

何かを言おうとしている。万次郎が面白がって声を掛けようとするのを押しとどめ、次の言葉を待つ。

「こん、・・・にちは」

「おー、こんにちは」

「ははっ!何それ、やっと出てくる言葉が挨拶って、ケンチンこいつちょっと面白いじゃん」

腹を抱えて笑う万次郎の声で、今度こそ名前は静かに目を閉じて机に倒れ伏した。おそらく気絶した。



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