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武藤名前には兄がいる。

少年院に入るような世間的に見ればどうしようもない男だったが、名前にとっては面倒見の良い優しい兄だった。


そんな兄が今日、二度目の投獄を経て帰ってくる。一度目は少年院で、二度目はがっつり刑務所だった。



「車、出してくれて有難う御座います。三途さん」


「何度も言ってるじゃないですか。敬語はいりませんし、春千夜と呼んでくださいって」

「ふふっ、そういう春千夜さんだって、ずっと敬語じゃないですか。兄相手ならまだしも、僕なんて兄の弟ってだけなので」

昔から兄と仲良くしてくれていた春千夜さんに車を出してもらい、兄を迎えに行く。

春千夜さんは兄曰く相当な暴れ馬らしいけれど、僕の前ではそんな姿これっぽっちも見せたことはない。何時だってにこにこ笑っていて、丁寧で親切だ。

兄が刑務所に入ってからも弟である僕にとても良くしてくれた。


「なんだか緊張しちゃいます。手紙のやり取りはしていたんですけど、やっぱり凄く久しぶりだし」

「・・・隊長は幸せものですね。名前くんのような兄想いの弟がいて。家族はとっくに絶縁を宣言しているんでしょう?」

「まぁ・・・はは、お恥ずかしながら。確かに兄は世間的に見れば褒められない、むしろバッシングされて当然のことを繰り返してきました。けれど僕にとっては大事な兄なんです」


兄が出所する扉の前に到着した。

緊張しながら待つ僕の背中を、春千夜さんが笑顔でぽんっと叩いた。


やがて兄は出てきて、待ち構えていた僕と春千夜さんを見て微かに目を見開いた。兄弟だからこそわかるけれど、兄は言葉に出せないほど喜んでいた。

喜んでいる兄に「兄さん」と駆け寄って年甲斐もなく抱き着けば、兄は不器用ながらも抱きしめ返してくれた。

それをにこにこと見守ってくれていた春千夜さんが「行きましょう」と兄と僕を車に案内する。

僕は後部座席で、兄は助手席。


普段物静かな兄は、部下であった春千夜さんとの再会が嬉しかったのだろう。たまに僕も交えながら、ぽつりぽつりと、ゆっくりとした会話を楽しんでいた。

春千夜さんは終始笑顔で、兄に相槌を打ちながらも丁寧な運転をしてくれた。



「あれ?春千夜さん、何処に向かってるの?」

「折角なので『お参り』でもどうですか」

「・・・ぁっ」

そういえばこの辺りだった。兄が不良として憧れた人が亡くなって、兄自身も再び逮捕されたのは。兄もそれに気付いたのか、何処か懐かしさと悲しみを含んだ表情で車の外を見る。


「隊長、ちょっと話しませんか」

「あぁ。・・・名前、ちょっと待っていてくれ」

「うん、積もる話もあるもんね。僕は此処で待ってるから、ゆっくり話して」

兄と春千夜さんが車から降りて離れて行くのを見届ける。

お昼はどうするんだろう。折角だから三人で美味しいお店に行きたい。此処から一番近いお店だと、焼き肉屋?兄はがっつりとした食事が好きだったから、やっぱり焼き肉屋がいいかもしれない。

久し振りに兄と囲む食事にわくわくしながら車の外にいる兄たちの方へ視線を向ける。




「・・・え?」




ありえないものが見えた。

車内から見えたのは、兄が春千夜さんに斬り捨てられる瞬間だった。

ぽかんとした僕と、兄の目が合う。兄が小さく唇を動かしていた。


『に』『げ』『ろ』

「は?」

僕は咄嗟に車から出ようとした。けれど後部座席の扉は開かず、がちゃがちゃとしているうちに兄の返り血を被った春千夜さんが笑顔でこちらに近づいていた。


「は、春千夜、さん」

「隊長から許可を貰ってきましたよ。名前くん、今日からあんたは俺のもんだ」

にこにこと笑いながら運転席に乗り込んだ春千夜さんは「あぁ、さっきロックを掛けたんで、内側からはあきませんよ」と静かに告げた。


「あ、ぇ、な、なんで、何で兄さんを・・・」

「それはあいつが裏切り者だから」

「そ、んっ、そんなの、どうしてっ」

がくがくと震える僕に笑顔を向けるばかりで、春千夜さんは明確なことを言わない。

そのまま発進した車はどんどん知らない場所へと移動していく。


「兄さんっ、兄さっ・・・病院、電話しないと、救急車・・・」

「無駄ですよ。俺の部下がとっくに回収してる」

混乱しながら電話しようとすれば、携帯自体が見つからない。


「お探しのものはこれですか?」

「っ、は、春千夜さん・・・」

何故か僕の携帯を春千夜さんが持っていて、春千夜さんはその携帯を車の窓から捨てた。

スピードの出ている車から勢いよく叩き出された携帯は、ガシャンッと言う音を立てたのを最後に見えなくなる。


震えることしか出来なくなった僕は、涙を滲ませながら「兄さんっ、兄さんっ」と兄さんを呼ぶ。おそらく死ぬ寸前、僕を逃がしてくれようとしていた兄さん。どうして、どうしてこんなことに・・・

「安心しろよ。今までと同じ、俺があんたを大事にしてやるよ。あんたの兄貴は俺を裏切った。王のことも裏切った。だから死んで当然だった。本当ならその弟であるあんたもスクラップ対象だが・・・別の償わせ方をさせてやる」

「つ、償い?」

わからない。春千夜さんの言っていることがこれっぽっちもわからない。

僕は何をさせられるのだろう。怖い、怖い、怖い・・・

車内で震えていた僕は、見知らぬ土地の大きなマンションまで連れてこられ、殺されるかもしれない恐怖に怯えながら、その最上階と思われる場所まで案内された。



「さぁ、今日から此処があんたの家だ」

「い、家?」

「そう。俺とあんたの家だ。ははっ、やっとだ、やっと手に入った」

まるでモデルルームのように綺麗な室内で春千夜さんに抱きしめられる。


「大人しく俺のもんになって、俺のことを誰より愛するって誓え。誓わないならヤク浸けにしてでも誓わせてやる」

「っ・・・わ、わか、わかり、ました」

大人しくそう返事をすれば、春千夜さんはにっこりと笑って僕の首に事前に用意しておいたらしい首輪を巻いた。




そして彼氏(ペット)になった




「あ゛ーっ!クソがっ、余計な仕事増やしやがって・・・次会ったらスクラップだ!」

「おかえり、春千夜」

「!・・・あーっ♥名前、ただいま!」

こちらに駆け寄ってくる春千夜を腕で受け止めて頭や背中を撫でる。

「今日もお疲れ様。こっちにおいで、一緒にゆっくりしよう」

疲れている春千夜の手を引いてソファに行けば、春千夜は僕をソファに押し倒す。


「なぁ♥俺、仕事めっちゃ頑張ったんだけど・・・癒してくれるよな?♥」

「・・・うん、勿論」

にこりと笑った僕は、春千夜の尻に手を這わせた。春千夜が少しわざとらしく「ぁんっ♥」なんて喘ぎながら、僕の唇に口付けた。



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