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※微タケミチ嫌われ表現注意。


花垣武道は平の隊員たちから割と嫌われている。


そりゃそうだろ、と思う。

総長であるマイキーに気に入られ、東卍じゃない時からやけに可愛がられ、いざ入隊してからは光の速さで成り上がった。

特別喧嘩が強いわけでも、何か得意技があるわけでも、プライドが高いわけでも、ましてやカリスマ性を感じるわけでもない。けれど隊長副隊長格からはことごとく気に入られて・・・


男の嫉妬は醜いが、嫉妬してしまうのが人の嵯峨。古株ほどではないが、長年東卍のメンバーなのにいまだに総長や副総長、隊長副隊長に顔と名前を覚えて貰えないような、泣かず飛ばずの奴だっている。

花垣武道よりずっと喧嘩が強いのに、花垣武道よりずっと頑丈なのに、花垣武道よりずっと東卍に憧れていたのに、それを評価されない奴もいる。

そんな奴らは揃って花垣武道が嫌いだし、一応東卍のメンバーだから手を出さないってだけで、何かの拍子で東卍を抜けでもしたら容赦なくぶん殴ると心に決めてる奴だっているだろう。


まぁ、嫉妬するのはまだ良い方だと俺は思う。

俺の場合は、張り合うのに疲れた・・・所謂『諦めた』勢の一人だ。

総長達に認識されない、評価されないことに対する不満すら通り越して、冷めてしまった感じ。

何の期待もしないのは楽だ。期待した結果何も得られないと傷付くが、最初から期待していなければ傷付くことはない。期待ってのは、裏切られると辛いのだ。

期待を裏切られたからって逆ギレするやる気も気力も湧きやしない。




「お前はさぁ、どうする?」

「あ?何が」

「何がって、あのクソドブ野郎を追い出す計画だよ!」

あぁ、アレか。とため息を吐く。

アレというのは、花垣武道に対する嫉妬が限界に達し、耐えられなく連中が画策する『花垣武道追放計画』のことだ。

誰が言い出したのかは定かではないが、燻ってる奴らは大体賛同していたと思う。

どこの隊がとかではなく、満遍なくってところに人間の悪意の根深さを感じる。


「花垣に似た体格のやつに似たような格好させて、女とかそのへんのカタギを襲うんだよ。んで、その瞬間を証拠として撮影。ソレ以外にも、複数の報告って感じで目撃証言?とか、噂とか流す感じ」

「へぇ。雑だけど、ある程度考えてんじゃん」

報告の一つや二つでは花垣武道の信頼は揺らがないと考え、複数名が別日に様々な報告をするって感じか。小悪党っぽい正々堂々さのかけらも無い姑息な手口だが、要するにこんな姑息なことをしなければ、俺たちは総長たちに見向きもされないことを理解しているのだ。

こういう行為は、アレに似ている。アレだ、無関心な親の目を引きたくて、ワザと悪いことをするヤツ。

アレは『もしかするとこっちを見てくれるかもしれない』という『期待』がそうさせるのだ。


「興味ねぇなあ・・・そんなことしたって、繰り上がりで隊長副隊長に気に入られるわけでも、ましてやマイキーのお気に入りになれるわけでもねぇだろ」

俺はふぅ、とため息をついた。

俺とは違ってまだ『疲れ切ってはいない』ソイツは、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。

よく周りを見れば、話を聞いていた他の連中も似たような顰めっ面をして俺たちの会話を静かに聞いていた。


「わかんねぇだろ。不正を暴いたってことで、評価されるかもしんねぇぞ?・・・ったく、諦め勢が」

「はいはい、俺はそういう夢物語に期待できる程、ピュアじゃねーんだよ。どうせ、次のお気に入りが出来るだけだ」

流石に現実をはっきり言い過ぎただろうか。周りで話を聞いていた何人かの表情が暗くなる。
だが、下手な夢を見るぐらいなら、現実を知っておいた方がずっといい。



「・・・はぁ、お前らの気持ちは十分にわかるよ。そもそも不良やってる奴なんて、俺含めてどっか社会と噛み合えなかった不適合者ばっかだ。人に認められたい、誰かと一緒にいたいって心のどっかで、そういう甘さが欲しい連中だ。でなきゃ、わざわざチームに入ったりはしねぇよ。社会からは認められなかったけど、ここでならなんて夢見てんだよ」

自然とため息が溢れる。こういう話は心ばかりが疲弊して、なんの身にもならない。虚しいばかりだ。

特攻服のポケットから飴玉を取り出して口に含みつつ「虚しいよなぁ」と遠くを見た。


「清正って奴もそうだったな。清正にも正直同情してる部分があるよ。あいつ、マイキーにめちゃくちゃ憧れてたじゃん。結構喧嘩も強かったし、やる気?そういうの凄かったけど、生憎と『それだけ』だった。総長の目に留まるほどでもなかった」

からころと口の中の飴玉を転がす。


「あいつも焦ってたのかねぇ。喧嘩賭博になんか手を出してさ。そのおかげで副総長は清正を見たが、結局そこまで。マイキーは清正なんて眼中になかった。問題児としてでも、それでもよかったんじゃないか?それでマイキーの目に止まって、監視目的でも目を光らせて貰えるなら、それだって『見て貰えた』のと一緒だからな」

勿論、清正のやったことは普通にヤバいことだったし、刺された副総長からすれば堪ったもんじゃないだろうが。

あくまで『そうだったんじゃないか』という想像の話だが、この話を全否定できない目の前の奴らは口を挟まないほど静かだ。ヤジの一つ飛ばすぐらいはすればいいものに。


「あんだけ派手に暴れた清正でさえ、終わってしまえばそれまで・・・総長たちに思い出されることもない。な?虚しいだろ?」

「・・・うっせぇなぁ」

漸くヤジのような言葉を口にしてくる奴もいたが、その声に覇気はない。


「お前は、俺たちの計画なんてどうせ失敗するって言いてぇのかよ」

「まさか。上手くいけば、花垣武道の一人ぐらい追い出せるだろ」

まぁその後にバレる可能性も十分あるが。


「嫉妬できるお前らが羨ましいんだよ、単純に。だってそんだけ、総長たちが好きなんだろ、お前らは」

「はっ、なんだよお前、さみぃこと言うなよ。つーかその言い方だと、お前は総長たちのこと好きじゃねぇってことになるぞ」

「はは、まさか」

ぱきっ、と少し小さくなった飴玉を噛み割る音は、案外その場に大きく響いた。

俺はこちらに向かう視線達に応えるように、うっすら笑った。



「・・・なーんも、感情は浮かばないさ。あっちも俺らのこと眼中にねぇんだから、わざわざ何か感じるだけ無駄だろ」



「・・・っ、俺らは、お前らみたいな諦め勢になるのがこえぇよ。総長のことも、副隊長のことも、まだ憧れてたいんだよ。お前みたいに、伽藍堂になりたくねぇ」

「・・・ははっ、伽藍堂って、お前結構国語の成績良い感じ?」

青い顔をしながらも必死に噛みつこうとするソイツに、俺は「協力はしねぇけど、まぁ・・・頑張れよ」と笑ってその場を離れた。

連中の計画を邪魔するつもりはこれっぽっちもない。成功しても失敗しても、それで何かが変わるとは思っていないし、興味もない。

それにしても、少なくともあの場にいた全員が今回の計画に賛同していて、俺が認識しているだけでも賛同者はどんどん増えている。このままだと、半数を超えるんじゃないか?


「あーぁ、上手く統制できねぇなら、無闇に人数増やすなよって話だ。まぁ仕方ねぇか、総長達だって、まだ未成年の餓鬼なんだから」

転がしていた飴玉は砕けたことで簡単に溶けてなくなってしまった。

ポケットの中にはもう飴玉はなくてげんなりしていると、隣から飴玉が差し出された。


「どうしますか、花垣の件」

ひょいっとその飴玉を受け取って口に放る。

飴玉を差し出したそいつは、目に力のない、ぼんやりとただそこにいるだけみたいな顔をしている平隊員。俺と同じぐらい、諦めている奴。

ソイツの後ろからのそのそこちらに歩いてくる奴らも、みぃんな『諦めている』。


「どうもしない。あいつらの策が上手くいった花垣武道が追い出されても、あいつらが失敗して逆に追い出されるハメになっても、どうだっていい。・・・ま、失敗したなら、受け皿にはなってやるよ」

既に東卍への憧れも期待も全てが枯れ果てて、ただそこにいるだけの俺たち。

もしも俺たちと同じで憧れも期待も打ち砕かれた奴らがいるなら、ほんの少し、スプーン一杯分の同情心は湧くだろう。



「あいつらもそろそろ気付くさ。憧れも期待も、全部全部無駄ってことをさ。所詮俺たちは『モブ』なんだよ」

計画の決行は近いだろう。

俺たち『諦め勢』は何もせず、静かにことの成り行きを見守るだけだ。




主人公嫌われジャンルの裏側




「・・・花垣武道、お前はもう東卍じゃねぇ。二度とその面見せるな」

何時もの集会場で花垣武道が追放されるのをぼんやり見届ける。

辛そうに泣いて否定しているが、総長たちは聞く耳も持たない。

更に言い募ろうとする花垣が副総長に一発殴られて気絶するのを最後に、集会はお開きになった。


その日は元々天気はよくなかった。ぽつぽつと降り始めた雨はあっという間に土砂降りに変わる。

隣から差し出された傘で雨を避けながら、俺は少し離れた場所から花垣が目覚めるのを待った。

特に用事があるわけでもなく、花垣がどんな反応をするのかがほんの少しだけ気になったのだ。

やがてむくりと起き上がった水浸しの花垣は、しゃくり上げながらその場に蹲った。


「俺がやってきたこと、全部無駄だったのかな・・・」


ぽつりと呟いたそいつに『諦め』の雰囲気を感じた俺は、ポケットから取り出した飴玉を花垣目掛けて投げて、それからくるりと背中を向けて歩き出した。

「えっ、あ、飴?」

こつんとぶつかった飴玉を拾ったらしい花垣の視線を背中に感じながらも、俺は「手ぇ出すなよ」と他の奴らに声をかけた。



あとがき

・『諦め勢』筆頭
期待に満ち溢れて割と結成初期段階で東卍に入った。
けどなかなか顔と名前を覚えて貰えず、泣かず飛ばすですっかり疲れた。
ネグレクトされていたかもしれないし、天涯孤独かもしれないし、愛情を求めた結果何も得られず燃え尽きたかもしれない。
自分から頑張れる時期は過ぎた。もう何も期待してないし、まだ期待できる奴らは単純に凄いと思ってる。まぁ、それもいつまでも続かないと知ってるから「現実知らない奴ら可哀想」と同情的。
同じ諦めた奴らの中だとまるで『ボス』のような立ち位置になっている。
もしかすると彼を筆頭に東卍からごっそりと隊員がいなくなる日も近いかもしれない。
好物は飴玉。

・まだ諦めてなあ奴ら
どいつもこいつも総長たちに憧れて東卍に入ったのにずっと何にもなれなかった。
認めて貰えるように頑張るぞ!って矢先に、ぽっと出の男に総長たちの関心を全部持っていかれた。最近入っていきなり隊長って何???
どんな時でも花垣の話題が出てくるし、自分たちの今までが否定された気分になってる。
どいつもこいつも家庭環境だったり何かしらがよろしくないから、愛情とか関心とかに飢えてる。そろそろ餓死しそう。

・とばっちりヒーロー
嫉妬と悪意で嵌められた。
絶望してたら突然飴玉が飛んできて、困惑しつつ食べた。ブドウ味だった。



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