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※東卍×モブ100。


「まだまだ日中は暑いなぁ」

ボルトの緩みがないかを確認し、額から流れた汗を袖で拭った真一郎は店の奥に向けて「おーい」と声を上げた。


すると奥の方から麦茶がなみなみと注がれたグラスがひとりでに真一郎目掛けて飛んでくる。

緩やかな速度で飛ぶグラスを見た真一郎は汚れた軍手を手から外し、慣れた様子でそれを掴むとそのまま冷たい麦茶で喉を潤した。

摩訶不思議なその現象は、真一郎にとって見慣れたものだ。



「休憩がてら何か食べるかなって思ったんだけど、麦茶だけで良かった?」

麦茶より遅れて奥からやってきた男に、真一郎は「おー、食う食う」と言いながら整備を終えたバイクを離れた。

カウンターの上にどら焼きを置いたのはこの店を共に経営している名前という男だ。真一郎は社長で、名前は唯一の正社員にあたり・・・もう一つ追記するなら、名前は世にも珍しい『超能力者』である。


超能力者の名前とは学生時代、黒龍が現役だった頃からの付き合いで、真一郎がバイク屋をやる予定だと知るといの一番に真一郎に自分を雇用するように訴えてきた。そのままよさげな土地を見付けたり、店に必要な備品を集めてきたりしたのも名前で、そのおかげでS・S MOTORSの開業は随分とスムーズに進んだ。



「真一郎、床に食べカス落とさないで」

「お、これ生クリームどら焼きじゃん」

大口でどら焼きに齧り付いた真一郎は齧った断面を見ながら頬を緩めた。ぽろりとカウンターの上に落ちた食べカスを、名前は「しっかりしてよ、てんちょー」と言いながらひょいひょいと拾い上げてゴミ箱に捨てる。

弟たちの前ではきちんと『お兄ちゃん』している真一郎だが、こうやって名前と一緒の時はお兄ちゃんの部分がすっかり鳴りを潜めてしまう。勿論、弟や後輩たちの前ではきちんと体裁を守ってはいるが、二人きりの時はついつい世話を焼かれてしまうのだ。


それもこれも名前が甘やかすことが原因なのだが、名前にしても真一郎にしても改善する予定はこれっぽっちもない。曰く「付き合っているのだから別に相手を甘やかすのは可笑しいことじゃない」らしい。

名前と真一郎がお付き合いしていることは元黒龍メンバーとひょんなことから知ってしまった真一郎の一番上の弟であるイザナ、それから鶴蝶が知っている。

万次郎やエマに関してはまだはっきりとは伝えていないが、もしかすると察している可能性がある。


「なぁ、このどら焼き何処の?」

「商店街の、ほら、長らく空き店舗だったところ。あそこに和菓子屋さんが入ったらしくて、試しに買ってみた」

「いいじゃんこれ。万次郎にも教えてやろ」

真一郎の口の端についた生クリームを拭ってやり、自身の分のどら焼きを口に運び始めたところで作業着の胸ポケットに入れていた携帯がぶるりと震えた。

ポケットから携帯を取り出した名前は「おぉ、珍しい」と声を上げる。


「どした?」

「弟からメール」

「ん?あぁそういやお前も弟いたっけ」

携帯をぽちぽちと弄りながらどら焼きを大きく齧り「そうそう、中学生の弟が一人」と返事をする名前は奥の方から麦茶の入ったピッチャーを呼び寄せて空になっていた真一郎のグラスに麦茶を注いだ。


「へぇ。お前、弟の話とか全然しないから弟がいる印象ねーわ」

どら焼きで乾いた喉を再び麦茶で潤しながら、当然のように携帯を覗き込む真一郎。送り主名の部分には『花沢輝気』とあり、本文には何やら長く文字が並んでいた。


「弟と仲良くなれたのはつい最近でさ」

「あ、そうなのか?」

あれだけ長い文面に対する名前の返事は『了解。輝気も気を付けて』と短いながらも弟の身を案じるものだ。仲が悪そうには見えない。


「真一郎の家ほど複雑じゃないけど、俺と弟の関係もちょっと複雑でね。歳の差もあったし、俺が学生の頃は俺もちょっといろいろ思い悩むこともあって、家には殆ど帰ってなかった。血が繋がってるだけの他人、っていうのが俺と弟には当てはまったかもね」

携帯を胸ポケットに仕舞い、残ったどら焼きを口に詰め込む。空いたグラスとどら焼きを包んでいたフィルムのゴミをひとまとめにして、それらをふわりと宙に浮かせた。

「真一郎たちも知っての通り、俺は超能力者だ。両親は違うから、能力は遺伝性のものではないのだろうけれど、偶然にも弟も超能力者だった」

名前は自身が超能力者であるという事実をある程度隠してはいるが、知り合いや信頼できると判断した相手にはすんなりとその能力を明かす。元黒龍メンバーは勿論のこと、このことについては交際関係とは違って万次郎もエマも知っている。


「超能力は便利だけれど、世間から見れば異端以外のなにものでもない。他人と違うっていうのは厄介だ。ほんの小さな違いだって、子供にはストレスになる。俺は弟のストレスに寄り添ってやれなかった・・・自分のことで精一杯で、弟を見てやれなかったんだ」

「確かにお前、当時結構荒れてたもんなぁ」

昔のことを思い出してしみじみ言う真一郎に「その節はお世話になりました」と名前は冗談っぽく笑う。が、当時は冗談では済まされないほどに名前は荒れていた。

「家に帰らず黒龍の皆の家を転々としてたし、弟がどういう風に成長してるかなんて気にしようともしなかった・・・兄貴としては、失格だった」

黒龍の皆の家、と言うが殆どが真一郎のいる佐野家に入り浸っていた。

ただ居座るだけでなく、ある程度の家事やまだ幼い万次郎とエマの相手を引き受けてくれて真一郎も祖父の万作も正直とても助かっていた。


「気付いた時には弟は随分と擦れていた。弟は超能力の扱いが上手かったから、超能力を利用して自分の生きやすい環境を上手いこと作り上げていたらしい。弟は何時も人に囲まれていたよ。番長みたいな?そんな感じのことをしてたみたい。けれど弟はちっとも楽しくなさそうで、結構心配だった・・・」

「お前の場合は誰かとつるむより、一匹狼してたよな」

「・・・真一郎たちと出会うまではね」

当時のことを思い出してか、名前は少しだけ恥ずかしそうにしてた。


複雑な年頃で超能力者という周囲との違いに悩まされていた名前は、来る者全て傷つけてやると言わんばかりな、手負いの獣のような状態だった。名前からしてみれば当時のことは黒歴史に近い。

こほん、と名前は軽く咳払いをして話を戻す。過去のことを振り返るとうっかり黒歴史まで思い出してしまうのだからいただけない。



「ある日弟は、何故か頭頂部をハゲ散らかして帰ってきた」

「なんて?」

「てっぺんだけ見事に地肌が見えてて、落ち武者状態。しかも滅茶苦茶に泣いてて、ついでに言うと内股で震えてた」

「うん、なんて?」

「驚いたよ。あんなに擦れてた弟がどこぞの誰かにプライドをズタボロにされて・・・でも、そのことが良い方向に影響したのか、弟は以前よりも一皮むけたような気がするよ。荒治療だったのかな、前よりも明るい表情が増えて、取り巻きじゃなくて友達と一緒にいることも増えた。あ、頭髪は驚きのスピードで生えて、一時は以前の二倍か三倍くらいの高さになってたよ」

「髪って高くなるもんだっけ?長くなるもんじゃねーの?」

思わずツッコミたくなるようなことばかりで真一郎は顔を引きつらせる。髪は長く伸びるものでけして高さが増えるものではない。


「心に余裕が出来たからか、弟の方から声を掛けてくれた。弟も、ある時期から俺が丸くなったことを知ってたみたいで・・・案外、会話が弾んで驚いたよ。その日から会話もだけど超能力の使い方とかもアドバイスを求められることも増えたり、超能力者集団がいるんだけど一緒にボコボコにしないかって誘ってくれたり、何か一気に兄弟になった感じがしたよ」

「うん?まぁ、良かったな」

超能力者集団とか一緒にボコそうとか、やや逸脱した内容も含まれていたが、真一郎は気にしないことにした。いちいちツッコミを入れていても疲れるだけだ。

浮いていたゴミも空いたグラスもキッチンの方へ消えて行き、名前はちらりと店の外を見た。少し、眉を寄せる。



「・・・真一郎、今日はもう店じまいにしよう。点検の予約も入ってなかったよね?」

「あ?まぁ入ってねぇけど、なんかあったか?」


「うん。妙な気配が近づいてる・・・っと、もう来てるみたい」


店に、一人の男が入ってくる。

客かと思った真一郎は「らっしゃーい」と声を掛けるが、名前は何も言わない。いつもであれば真一郎よりも愛想よく「いらっしゃいませ」と挨拶をするのに。

ちらりと名前の表情を確認する。名前は口元だけで笑っていた。

黒髪に黒い服装の男は、そんな名前を視界におさめると「突然申し訳ありません」と軽く頭を下げる。



「初めまして、花沢名前さん」

「・・・初めまして。どちら様?」

「島崎と申します。ボスの意向により、貴方をスカウトに参りました」

にこやかにそう告げる島崎と名乗った男。物腰の柔らかさとは裏腹にその男から発せられるエネルギー量は凄まじく、名前は静かに真一郎の肩に手を置いた。


「真一郎、俺の後ろに」

何時もと様子が違う名前に、真一郎は静かに従った。

「輝気が連絡してきたのはお前のことか?随分やり手の超能力者だと聞いていたけれど、確かに・・・なかなか強そうだ」

「おや、まさかもう連絡がいっていたとは。そう警戒しないでください、我々は同じ超能力者。仲間じゃないですか」

「仲間?面白いこと言うじゃないか。人ん家の弟をボコしておいて」

「不可抗力ですよ。誤解しないでください」

何が誤解だ、と名前は笑顔のまま青筋を浮かべる。それに気付いた真一郎は顔を引き攣らせるも、わざわざこの異様な空気で口を挟むことはなかった。


「失礼ですが貴方のことは少し調べさせていただきました。理解のない両親、周囲からの化け物扱い・・・かつて貴方はその心を周囲によって傷つけられた。その結果・・・学校を一つ瓦礫に変えていますね?とてつもない出力により一瞬で学校を瓦礫にした貴方の実力を、ボスは高く評価しています」

当時の出来事は局所的な地震だったとされているようですが、と島崎は笑う。


「俺にとっては黒歴史だけどねぇ。子供の癇癪で学校潰すなんて、馬鹿な真似をしたって」

「けれど貴方には理由があった。弱者を傷つけないために我慢に我慢を重ねた貴方が暴走したのは、理解のない周囲のせいだ。同じ超能力者として同情しますよ」

名前がゆっくりと息を吸うのを、真一郎だけが聞いていた。

これは名前がゆっくりと静かに大激怒する前触れだ。

名前は過去のこともあってか、感情を急激に表に出すことを良しとしない。怒りも哀しみも、静かにゆっくりと放出し、超能力がブレないようにしている。感情によって力のコントロールを失った場合のデメリットをよく理解しているのだ。


「貴方とは仲良くなれる気がするんです。今後は同僚として、共に住みやすい世界を作りませんか?」

ゆっくりと吸い込まれた息が、はぁーっとため息のように吐き出される。

「弟を傷つけた人間に、はいわかりましたと付いて行くと思うか?生憎と、俺は少々ブラコンでね」

「戦う、ということですか?後ろにいるただの人間のお友達・・・彼を守りながらでは少々分が悪いのでは?」

「ははっ、舐めるな。むしろ真一郎っつーハンデがなきゃ、お前なんて相手にもなんないよ」


「・・・此処で暴れられて困るのは貴方では?」

その言葉に名前は一瞬、きょとんとした顔をし・・・吹き出した。


「ははっ、はははっ!・・・お気遣いどー、もっ!」

「ぐッ!?」

一歩踏み出した名前の下から抉るように撃ち込んだ拳が、島崎の鳩尾に抉り込む。

咄嗟にバリアを張ったものの、途中まで突き刺さった拳に島崎は奥歯を噛み締めた。


「そのお気遣いに甘えて、空中戦としゃれこませて貰おうか。真一郎、背中に掴まっといて」

「お、おいおい・・・」

「おやおや!まさかお荷物ごと戦うと?」

鳩尾を殴られたことへの怒りで、島崎の米神にも青筋を浮かんでいる。


「負けそうになったお前が真一郎を人質に取ったら困るし。あと真一郎はお荷物じゃなくて、お前のためのハンデだから。お前は真一郎に咽び泣いて感謝しろ」

「煽るな煽るな」

「そちらのお荷物さんも随分と余裕ですね」

「あ、まぁ、名前が負けるなんて想像も出来ないからなぁ」

「・・・その肝の据わり様には正直感心させられます」

大人しく名前に従い、背中におんぶの形で掴まった真一郎は「厄介なことに巻き込まれたなぁ」と少し遠い目をした。

一瞬にして視界は店内から空へと変わり、同じように空中へと移動した島崎との戦闘が始まる。


真一郎には目で追うことすら難しい素早い攻防。同じ空中であっても、連続で瞬間移動が行われているらしく、視界がびゅんびゅん変わる。相手の攻撃をことごとくバリアで弾いているのか、まるで銃撃戦のような音がする。真一郎の目は更に遠くなった。


「・・・思った以上にやりますね。能力的に私と・・・いや、下手をするとボスと同格か?」

「ボスがどの程度かは知らないけれど、少なくともお前よりは強いかもな」

すとんっ、と両者静かな着地音と共に店の屋根に下り立つ。

この一瞬で何があったのかは真一郎にはわからないが、超能力者同士にかわからない何かがあったのだろう。額から汗を流した島崎に名前は余裕綽々に見える態度を取り、それから小さくため息を吐いた。


「輝気は手古摺ったみたいだけれど、本来輝気だってそう弱い子じゃない。けれど輝気は優しい子だから・・・選択肢に『殺す』が無いんだ。けれど俺にはあるよ・・・俺の弟、友人、大事な何かを害そうとする何かを殺すという発想がある。リミッターが外れた奴を相手にしたことは?」

にこりと笑いながら名前は右手を前に伸ばし、何かを握る仕草をした。


「ッ・・・手癖の悪い人だ」

バチンッと弾く音と共に島崎が一歩後ろに下がる。心臓がある部分を手で押さえながら顔を顰める姿を見て、真一郎は「あれ?もしかして今心臓握った?」と名前を見た。名前はにっこりと笑ったままだ。


「これ以上続けるようなら、俺は本気でお前を殺しにかかる。ただのスカウトが殺し合いになるなんて、お前も嫌だろ?」

「・・・先程の言葉は撤回しますよ。貴方とは仲良くなれそうにない」

「そう?お前が土下座して真一郎の靴の裏を舐めるって言うなら、仲良くなることを検討してやってもいいけど」

「いや、俺の靴を舐めさせようとするな」

「・・・まぁ、貴方の勧誘はあくまで『保険』でしたから、無理に遂行する必要はない。悔しいですが今回はお暇させて貰います」

その言葉を最後に、島崎は姿を消した。



「・・・いやー、まさか排除じゃなくてスカウトにくるなんて。焦った焦った」

肩をすくめながらそう言う名前を、真一郎は半目で見る。

「全然そうは見えなかったぞ?」

「真一郎も一緒だったからヤバイなって。少しでも舐められたら主導権取られるし、出来るだけ相手よりヤバイ奴を演出しなきゃ」

相手を殺すことさえ躊躇しない、『殺す』という選択肢を持つリミッターの外れた男。先程の名前はまさにソレだった。


「・・・お前は、一線は超えない奴だ」

「ははっ、そうだね、俺は殺さないよ。そういう選択肢があることは知ってるけれど、あえて選ぼうとは思わない」

屋根の上から店内に瞬間移動し、真一郎は漸く地面を踏むことが出来た。空中を連続瞬間移動などという下手な絶叫マシーンより肝を冷やすあんな体験はこりごりだ。

余裕そうに見せてそこそこ焦っていたらしい名前は「あー、割とあっさり引いてくれてよかった」と零す。あれで更に食い下がられれば、流石の名前も『それ相応の対処』をすることになっていただろう。


「あの感じだと、近いうちに此処からそう遠くない場所で大規模な超能力者同士の戦いが起こるだろうね。壊す側も、守る側も、暴れれば暴れるだけ街は崩壊する」

「何がしたいんだよ、そのボスっていうのは」

「さぁね。けど、超能力者っていうのは周囲との違いに悩まされた奴らばかりだ。周囲との違いを恥じて能力を隠そうとする奴、抑圧に耐え切れずに爆発する奴、自分のことを『異端』と定義する周囲が全て憎らしくなって全部壊そうとする奴・・・ま、要するに大人になれなかった大きい子供の癇癪だよ。なまじっか周囲に自分より強い超能力者がいなかった奴とか、絶対的な理解者や指標と出来る人間が現れなかった奴は、そうやって大人になる機会を失うんだ」

超能力者が住みやすい世界をなんて、世界征服でもするつもりなのかもしれない。


「弟は運が良かった。自分よりずっと強い存在に出会えて、自分が特別じゃないことを知ったんだ」

下手をするとその集団に弟が関わっていた可能性もある。そうならなかったからこそ、弟は名前にメールで島崎のような存在がいることを連絡してきたのだ。


「お前は?」

「んー・・・俺も、ちょっぴり餓鬼っぽいところはあるよ。好きな子の前で強がりたいとか、そういうの」

「・・・おぉ」

「何その反応」

「いや、普通に照れるわ。何だよお前、俺のこと大好き過ぎかよ」

へへっと笑う真一郎を、名前は堪らず抱きしめる。


「餓鬼っぽくても、大人になろうと思えたのは真一郎のおかげだよ。有難う、真一郎」

「・・・恥ずかしい奴だなぁ」

ぽんぽんっとその背中を撫でてやりながら、真一郎はその首筋に額を擦り付けた。

「戦いになったら、俺もそこに行く予定だよ。弟からも救援要請が出るだろうし」

「大丈夫なのか?」

「死ぬような怪我はしないつもり。障壁の頑丈さには自信があるし、それに・・・めっちゃ強い子も知ってるし」

「弟くんボコった奴?」

「そう。いい子だよ、とても。けれどあの子はあまり争いごとが好きじゃないから、出来れば俺みたいな大人がどうにかしてやりたいんだ。・・・あー、けど無理だろうなぁ、流石に」

「しっかりしろよ」

「うん、まぁやれることはするよ」

だから応援しててね、なんて言う名前は当然のように真一郎を置いて行くのだろう。

仕方ないことだとしても、真一郎はそれがちょっぴり気に入らなかった。

けれどそれが名前の真一郎への愛故だと長年の付き合いで分かっているため、真一郎は「おう、頑張れよ」と笑ってその頬にキスをした。








「いやいやいや、マジで街崩壊してんじゃん。やっば、ビルが弾丸みたいに打ち上げられてる」

緊急速報としてニュースで流れる映像は、どうにも現実離れしていた。

ちらりちらりと移る残像は、もしかすると空中を高速移動する超能力者なのかもしれない。

「あ、名前」

一瞬だが、真一郎にはしっかりと視えた。

瞳孔ガン開きで口元に愉快そうな笑みを浮かべ、島崎と名乗っていた男の顎に見事なアッパーカットをキメる名前の姿が。


「・・・めっちゃはしゃいでんじゃん」

大人がどうにかしてやりたいんだとか格好つけてた癖にとか、死ぬような怪我はしないつもりとか言ってた癖に頭からめっちゃ血ぃ出てんじゃねぇかよとか、いろんなことが頭に浮かんだ真一郎は微妙な表情で「帰ったら説教だなぁ」とテレビの電元をオフにした。




超能力者と元総長




「・・・年甲斐もなくはしゃいでごめんなさい」

「おー」

「あのクソ糸目野郎に頭カチ割られた瞬間に理性とかいろいろ吹っ飛んで、こいつぶちころがすって最大出力で空に飛びあがったせいで地面に割と深刻なクレーターが出来上がったことも反省してる。逃げようとする島崎を深追いした挙句、俺史上過去類を見ないレベルで超能力ぶっ放しで島崎よりむしろ俺の方が街を破壊したことも反省してる。あ、けどクレーターも吹っ飛ばしたビルもちゃんと元には戻しておいたし、人殺しはしてない。それだけは信じて欲しい」

「おー・・・そこは信じるけどよぉ、テレポートで突然目の前に現るのは止めろって前に言ったよな?見ろよ、吃驚し過ぎてビスが床にぶち撒かれた様を」

言った瞬間ぶち撒かれていたビスは一つ残らず箱の中に収まった。ついでにその箱も真一郎の手から離れて棚の中に収納され、真一郎の身体は頭どころか身体のいたるところに包帯が巻かれた名前に抱きしめられる。

まるで叱られるのが怖くて甘えてくる子供のようで、真一郎は「そういうとこ卑怯だよなぁ」と大きくため息をついて名前の身体を抱きしめ返した。



あとがき

東卍×モブ100のクロス。
テルくんがモブくんとの出会いが切欠で成長したなら、お兄ちゃんは真一郎と黒龍幹部たちのおかげで成長出来た。

モブくん程ではないけれど、テルくんより強力で島崎ともたぶん社長とも良い勝負な超能力者。
たぶん真一郎たちと出会わなければ、何処かのタイミングでストレスが爆発→世界ぶっ壊してやるー!って感じで大事件巻き起こしてた。

正直今回のように超能力を全力でぶっ放すのも楽しいけど、一番好きな超能力の使い方は真一郎から「おーい名前、アイス取って」とおねだりされた時に冷凍庫からアイスを引き寄せること。好きな人のためにくだらない力の使い方をするのが好き。



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