×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





※人外主。


弟の圭介に秘密にしていることがある。


俺と圭介には、人間ではない血が・・・詳しく言うなら、吸血鬼の血が流れている。

原因は今は亡き父さん。父さんは吸血鬼で、人間の母さんと結婚して俺たちが生まれた。

母さんは父さんが吸血鬼であることは知らされていて、それでも父と俺たちを愛してくれた強い女性だった。


俺も圭介も吸血鬼の血はひいてはいるが、その濃さには差があった。圭介は吸血鬼としての血が薄く、逆に俺は血が濃い。

吸血鬼としての衝動が強く出てしまった俺は、圭介にはそれが殆どないことに安堵した。そして、圭介には普通の人間として生きて欲しいと願った。

だからこそ母さんとの話し合いで圭介には吸血鬼に関することを秘密にした。この判断は今でも正しかったと思っている。


けれど秘密にしていた弊害もあった。自分が吸血鬼だと知らないから、圭介はたまに血が摂取出来ない苛立ちを暴力という形で外に出してしまう時がある。

空腹感のままに相手を殴ってしまったり、うっかり目の前の廃車にガソリンを撒いて火をつけてしまったり・・・

圭介より吸血鬼の血が濃くて、圭介よりずっと丈夫な俺が傍にいたのも悪かったのかもしれない。圭介の友達が吸血鬼の血を引いているはずの圭介よりも喧嘩が強かったのも悪かったのかもしれない。

頭を悩ませる俺と母さんの気持ちなんてこれっぽっちも知らず、今日も圭介は元気に不良をやっている。





「・・・まだまだ日が強いな」

吸血鬼の血が濃いということは、それだけ俺は吸血鬼『らしい』ということだ。

普通の食事も出来るが血はたまに飲まなければならないし、日光は燃え尽きる程ではないがじりじりと肌を焼くから苦手だった。鼻が良いからニンニクも割と苦手。銀の弾丸は・・・まぁ、心臓撃ち抜かれれば誰だって死ぬだろうし、苦手とかそれ以前の問題だろう。

だから俺は夏でも冬でも長袖長ズボン、後はフードを深く被ってサングラスもかけていた。これでマスクまでつけれてしまえば完全に不審者なため、マスクはつけていない。


「じゃぁ、また来る。リハビリ頑張れよ」

くるりと振り返れば、車椅子に座った友人が満面の笑みを浮かべる。

目が覚めたばかりの癖に元気だな。本来ならベッドでゆっくりしておくべきなのに、こんなところまでお見送りしたいなんて。

その車椅子を押しているもう一人の友人に「そいつのこと、ちゃんと見張っとけよ」と言えば、当然とばかりに笑われた。その笑顔があまりに幸せそうで、俺もつられて笑ってしまった。


今日は素晴らしい日だと思う。何せ、二年ぶりに寝た切りだった友人が目を覚ましたのだ。

「圭介にも、早く知らせないとなぁ・・・」

ここ最近なにやら深く思い悩んでいる様子の圭介。本当なら圭介も友人の見舞いに連れて行くつもりが、圭介の方に用事があって連れてくることが出来なかった。

帰ってきたら教えてやらないと。きっと泣いて喜ぶはずだ。



「・・・あ?」



その時、俺の人間よりずっと良い『感覚』に、何かが引っかかった。

ざわざわとした胸騒ぎ。圭介が・・・『同族が害されている』と感覚が訴えている。

今は亡き父さんが死んだ日と同じ感覚。今でも父さんが死んだ理由はわからないが、この感覚だけは覚えている。


俺はその感覚に突き動かされるまま、病院前から走った。人間が目視できる速度を超え、圭介がいるであろう場所へと。

そして辿り着いた廃車処理場には、大勢の不良がいた。けれどその他大勢の不良なんてどうだっていい。俺はその中にある、地面に倒れ伏す圭介の姿を見付けてしまった。

瞳孔がギュッと開くのを感じた。

圭介よりも赤い目は、今は鮮血のような色になっているはずだ。


「圭介!」


ただの人間とはくらべものにならない脚力で一気にそこに駆け、圭介の身体を支えていた圭介の友人ごと抱えた。

「ぁ、にき?」

「喋るな!」

ぎりぎりと歯が音を立てる。

誰だ、俺の弟を害したのは誰だ。けれどそれを気にしている暇はない。

見たところ圭介が負傷しているのは背中と腹部。血が薄いとはいえ吸血鬼である圭介がそう易々と死ぬわけがない。

けれど普段から全く血を摂取していないこと、後は日光の下に無防備に晒されていることで、回復が全く出来ていない。このままだと圭介は本当に死ぬ。


俺は圭介とその友人を抱えたまま、その場から飛んだ。

周囲の奴らが騒いでいても気にしない。地面を抉る勢いで走り、自宅がある団地まで向かう。

圭介の部屋の窓が何時も半開きなのは知っている。俺は地面から飛び上がり、窓から部屋に飛び込んだ。



「圭介、圭介っ!まだ大丈夫だからな、お前を死なせない・・・おい君!圭介の友達だろう?圭介を助けるのを手伝ってくれ」

「ぁ、え・・・こ、此処、場地さんの部屋?」

俺に抱えられてそのまま人間業ではありえないスピードで連れてこられたからか、圭介の友人はぽかんとして周囲を見渡している。けれど圭介の友人が落ち着くのを悠長に待てはしない。


「今は気にするな!おい!圭介を助けるのを手伝ってくれるな!?」

「は、はいっ!」

俺は「有難う」と言いながら、圭介の友人の腕を掴んだ。


「圭介、口を開けろ。苦しいだろうけど、我慢してくれ」

「はっ、はっ、あにき・・・」

「俺の血をやれたら良かったけれど、瀕死の圭介には濃すぎるからな・・・」

圭介の友人の腕を圭介の口元に運ぶ。自分じゃ噛み付けないのはわかっているから、掴んだままの腕に爪を立てる。


「痛っ、あ、あの・・・」

「我慢してくれ」

ぎりぎりと爪を深く突き立てると、血がぽたぽたと圭介の口の中に落ちた。


「飲め、圭介」

意識が朦朧をしているのだろう。けれどその喉がごくりと動いたのが見えた。

俺はほっと息を吐き「ほら、もっと飲め」と圭介の頭を撫でる。・・・圭介の頭をこうやって撫でるのは久しぶりだ。

血を飲むたび、圭介の顔色が良くなっていくことに気付いたのだろう。圭介の友人は大人しく圭介を見つめていた。



しばらくすると圭介はゆっくり目を閉じた。死んだのではないのは、聞こえてくる寝息でわかる。

「・・・すまなかった。痛かっただろう」

「あ、いえ、えっと・・・」

俺がその腕から手を放せば、腕には手形の痣が残っていた。強く握り過ぎたな・・・


「あの、場地さんは・・・」

「見てわかると思うけど、落ち着いてる。血も止まったみたいだ」

そう言いながら圭介の服を捲れば、まだ傷はあるものの血は止まり、その傷自体も徐々にふさがり始めていた。


「場地さんと、お兄さんは・・・」

「・・・ん。あぁ、圭介から聞いてない?名前って言うんだけど」

「はい。お兄さんがいることは聞いてます。名前さん、でいいですか?」

「好きに呼んでくれていい。それと、多分薄々気付いているとは思うが、俺と圭介は『吸血鬼』って呼ばれる、人じゃないものの血が流れてる。圭介はほぼ人間ってレベルで薄いけれど、こうやって血を飲めば吸血鬼としての回復力で刺し傷ぐらいならなんとかなる」


「場地さんはってことは、名前さんは逆に血が濃いとか、そんな感じなんスか?」

「おぉ、理解が早くて助かる。俺は圭介よりずっと吸血鬼に近いから、吸血衝動もあるし日光もあまり得意じゃない。けれどその代わり、普通の人間よりずっと丈夫で回復力も高いんだ」

部屋の中だと入ってくる日光も少ない。俺はサングラスとフードを取った。


「あ・・・目、赤いんスね」

「まぁね。あぁそうだ、君名前は?」

「松野千冬です。場地さんにはいつもお世話になってます」

「あ、君が千冬くんだったんだ。圭介がよく話してたよ。・・・腕痛いでしょ、手当てしようか」

ちらりと千冬くんの腕を見れば、痣もだけれど爪痕も酷かった。焦っていたとはいえ、酷いことをしてしまった。

爪痕からはまだ血が流れていて、千冬くんは「あっ、畳、すみません」と謝る。見れば、千冬くんの腕から流れた血が畳に染みを作っていた。・・・まぁ、それ以前に圭介の血で畳は取り返しのつかないことになっているが。


「別にいいよ。俺の方こそ悪かったね」

「大丈夫です。これで場地さんが助かったなら、本望です。・・・あの、名前さんは腹減ってないですか?」

「・・・まさか血を勧められるとはとは思わなかった。千冬くんがいいなら、ちょっと貰おうかな」

「はい!」

元気がいいな。圭介が千冬くんのことを「犬みてぇな奴」と言っていたのを思い出す。確かに、尻尾を激しく振る仔犬に見える。

こちらに腕を差し出す千冬くんに、先程とは違い可能な限り優しい力で腕を握り、傷口を口に運んだ。


「ひゃっ!?じ、直飲みなんスね」

傷口から流れる血に舌を這わせると、千冬くんが真っ赤になった。

「ん、悪いね。・・・うん、美味しいよ、有難う」

最後にちゅっと血を吸えば、千冬くんが「うわぁぁ・・・」と消え入るような声で唸った。


千冬くんの血で多少腹が満たされ、俺は千冬くんの手当てをちゃっちゃと終わらせ、畳の上で眠っている圭介を着替えさせて押し入れの布団に寝かせた。

畳は・・・母さんが帰ってきたら事情を説明しよう。



「・・・あの、場地さんを助けてくださって有難う御座います」

「ははっ、変なこと言うなぁ。俺からすれば、千冬くんの方が圭介の恩人だよ。迷うことなく圭介に血を分けてくれて有難う。・・・圭介のことも、俺のことも、怖がっている様子もないし、君凄いね」

「場地さんにどんな秘密があっても、場地さんがかっけぇことには変わんねぇし・・・名前さんも、流石場地さんの兄貴だなって!走るのバイクより早いし、ジャンプ力やべぇし!」

「あ、うん。ほんと凄いね君・・・今日のことだけど、俺と圭介が吸血鬼ってことは秘密でお願いね。むしろ圭介は自分に吸血鬼の血が流れてるなんて知らなかったし、俺も母さんもそのことを伏せておく予定だったんだ。今回のことで仕方なく圭介にも説明するつもりだから、千冬くんには圭介がうっかり周りにバラさないように、軽く見守っててあげて欲しい」

俺の言葉で少し姿勢を整える千冬くん。言い方が悪かった。


「見守ると言っても、バレる時はバレるし、あまり気を張る必要はないから。もし圭介がこの秘密のせいで危険になったら俺がどうにかするし」

「口封じする感じすか?」

「暴力的なことはしない。うっかり殺したらマズイし・・・軽く噛んで、言うことをきかせるだけ」

「すげぇ・・・あっ、吸血鬼に噛まれると吸血鬼になるってほんとすか?」

圭介のことを心底尊敬しているのはわかるが、その兄である俺に対してまで全幅の信頼を寄せてきている気がする。

きらきらした目で吸血鬼について質問してくる千冬くんに、俺は少し頬を掻いた。


「なんかわくわくしてるけど・・・あー、吸血鬼になるっていうよりは、眷属になるって感じかな。噛んだ傷口からこっちの血を与えて、一時的に吸血鬼みたいな体質にさせるって感じ。だから正確には吸血鬼にはならないし、吸血鬼みたいな体質も時間経過でなくなる。噛んだ直後はこっちに従順になるから、その時に『今見たことは忘れろ』みたいな指示をして忘れさせるんだ」

「やったことあるんですか?」

「まぁ、圭介は危なっかしいから」

昔から圭介は目が離せない。今回は友人のお見舞いと重なってうっかり圭介から目を放してしまったが、次からはこんなことが起こらないようにしなくては。


「あっ!やば、そういえば俺と場地さん、あの場から突然消えたから・・・やばいことになってるかも」

「俺が現れたのは一瞬だったし、フードで顔なんて見えてなかったとは思うが・・・あー、説明が面倒だな。まぁどう考察されたって俺と圭介が吸血鬼だって結論に達する奴はいないだろう。不良って馬鹿多いし、適当にはぐらかせばいけるいける」

「あの・・・俺も場地さんもその不良なんですけど」

「ははっ」

不良が全体的に馬鹿であることは訂正しない。悔しいなら勉強も出来る不良になれ。


「兎に角、今はゆっくり休むといい。説明を求められたら『全身黒づくめでフードにサングラスを付けた男に拉致られて、気付いたら手当てされてました』とでも言っておけばいい」

「その黒づくめが場地さんの兄貴だってバレたら不味いんじゃ?」

「おいおい、全身黒づくめなんてそんなに珍しくもないし、俺は今日から黒じゃなくて別の色を着る。馬鹿はそんだけで騙されるから楽勝」


「・・・もしかして名前さんって不良嫌いですか?」

「好き嫌いはないなぁ。友人も不良ばっかだし。でもまぁ、自分の尻もぬぐえない馬鹿な餓鬼は血液タンクぐらいにしか感じないかも」

流石に血液タンクとまでは思っていないが、あえて冗談っぽく言えば千冬くんは「は、ははっ」と笑った。おっと、これは冗談と捉えて貰えなかったやつだな。


「冗談だよ。圭介みたいな愛すべき馬鹿もいるし。・・・はぁ、今回は肝が冷えた。千冬くんも、不良するのは別にいいけどあまり危ないことはしないんだよ」

「気を付けます・・・」

圭介が起きたら吸血鬼についての説明と、それから二年も眠っていた俺の友人が目を覚ましたことも伝えよう。

友人が眠ることになった原因は圭介にもあるのだから、きちんとお見舞いさせないと。そういえばもう一人、友人が眠ることになった原因の一虎も最近出所したはずだ。一虎もとっ捕まえてお見舞いさせないと。




吸血鬼な場地兄弟




「・・・あ゛?圭介のこと刺したの、一虎なの?」

千冬くんから圭介の背中の刺し傷は一虎が付けたものだと教えられた俺は「あのクソガキ、泣き喚いて許しを請うまで苛め抜いてやる」と青筋を浮かべた。


まったく、あの夜も俺がいなければ友人・・・真一郎は死んでいたというのに。一虎も一虎で難しい子供ではあったが、二年の少年院生活で更に拗らせていたらしい。

これは真一郎も含めてしっかり『お話合い』をする必要があるだろう。



あとがき

吸血鬼と人間のハーフな場地兄弟の話。

圭介と一虎が強盗殺人するはずだった日、なかなか帰ってこない圭介を探しに行ったお兄ちゃんがバイク屋に到着→友人の真一郎が血まみれで倒れてる!→助けるために真一郎を噛んで眷属にして死亡確定状態からぎりぎり瀕死まで回復させる。

この光景を見ていた一虎のことも噛んで忘れさせ、圭介に関しては『混乱した時に見た幻覚』で言いくるめてる。


助けられた真一郎はたまに「真一郎っ、死ぬな、死なないでくれ・・・」と辛そうな顔をしながら自分の首に噛み付く名前の夢を見る。
その夢のせいでちょっとどきどきしてるし、名前の犬歯を見るとどきどきそわそわする。



戻る