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あまり質が良いとは言えないベッドに嬢と共に寝転ぶ。
薄着の嬢はこちらを見てにこりと微笑み、俺はそれに返事をするように笑った。
「名前くんってぇ、もしかしてお金持ちなの?」
「んー?何でそう思うの?」
「だって、週二か三で風俗来てすることが添い寝だけって、言っちゃなんだけどお金の無駄じゃん」
「別にいいじゃん。ちゃんとお金は払ってるんだし、休憩気分でゆっくりしときなよ」
「ま、確かに良い休憩時間にはなってるけどねぇ」
相手が俺だからなのか、部屋に持ち込んでいたらしい携帯を弄り始める嬢に思わず苦笑しつつ、俺はその隣で目を閉じた。
風俗に来ている癖にセックスはしない。この店でこんなことをするのは初めてではなく、店側も随分慣れた対応をするようになった。
「ねぇ、名前くんって添い寝は女じゃないと駄目な人?」
「んー?今日はめっちゃ話しかけてくるじゃん・・・まぁ、誰かが傍にいると落ち着くってだけだから、男でも別に」
目を瞑ったまま返事をすれば、嬢は「そっかぁ!」と笑う。
「じゃぁ、次回は逆指名させてくれない?」
「わぁ、風俗の逆指名なんて初めてだなぁ」
逆指名?なんだそれ。そう思いつつもやってきた眠気に抗うことなく、俺はそのまま眠りについた。
翌週、眠気でガンガンと痛む頭を抑えながら店に入れば、受付傍にいた嬢と目が合った。この間、俺に『逆指名』なんていう不思議な話をした嬢だ。
「あ!来た来たぁ!」
「あれ?凄く歓迎されてる?」
「ちょっとそこ座って待ってて!ケン坊ぉー!来たよー!」
ケン坊?と名前らしきものを呼びながら何処かへ駆けて行った嬢をぽかんとして見つつ、ロッカーに貴重品を入れて待合のソファに座る。側頭部を軽く押さえていると「おい引っ張んなよ」「早くしろってばぁ」という声が近づいてきた。
ちらりと見れば、先程の嬢がガタイの良い金髪で三つ編みの青年の腕を引いている。剃られた側頭部には龍の入れ墨が入っていて、なかなかに目立つ。
目が合って、とりあえず愛想笑いを浮かべておく。
「ケン坊、ほらこの人」
「あぁ、風俗に寝に来てる変な客」
「変なのは認めるけど、一応客なんだけどなぁ」
随分若く見えるけれど、この店にいるということは関係者なのだろう。嬢か経営者の子供?まぁ俺には関係ないか。
「この前、逆指名の話したでしょ?名前くん、添い寝は男でも大丈夫って言ってたから、ケン坊に小遣い稼ぎさせてやってよ」
「あぁ、あれってこういうことだったんだ。俺は別にいいけど、おっさんとの添い寝に耐えられるかどうかが重要かなぁ。やるからには途中でいなくなったりされると困るし」
「だってさ、ケン坊」
嬢に肘で突かれたその子は「金貰うなら途中で止めたりしねぇよ」と少しむすっとした顔で言った。
「じゃぁ部屋はケン坊のとこでいい?」
「別にいーぞ」
ケン坊の部屋?と首を傾げていると「おい、行くぞ」と声を掛けられた。うん、一応俺は客だから、上辺ぐらいは敬語を使った方がいいんじゃないかな。
まぁいいか、怒るほどのことでもない。それよりも早くこの頭の痛みと身体のだるさを解消したい。
俺はソファから立ち上がり、こちらに手を振る嬢に軽く手を振り返し、その子について行った。
「・・・わぁ、此処プレイルームだよね」
「此処に住んでるからな」
「そうなんだ」
今まで何度もこの店に来たことがあるけれど、まさかプレイルームを根城にしている推定未成年がいるとは思わなかった。これは教育委員会とか青少年を保護する団体とかも真っ青だろうなぁ。
その子の部屋は荷物こそあまり多くはないものの、他のプレイルームとは違って生活感が感じられた。壁に掛かっているのは特攻服?
「じろじろ見んな」
「あぁごめん、つい」
特攻服から視線を外し、ベッドを見る。よくよく考えて、この部屋は普段この子が使っている部屋で、このベッドもこの子のものだ。プレイルームにあるベッドとはわけが違う。
お小遣いのためとはいえ、知らない男を自分のベッドに寝かせるなんて、この子は嫌じゃないのだろうか。
そんな疑問を覚えつつその場に立っていると、その子がベッドにごろりと寝転んだ。
「早くしろよ」
「あ、ほんとに添い寝してくれるんだ」
俺の言葉に顔を顰めたその子に「ごめんってば」と言いながら、ベッドに近づいてゆっくり乗り上げる。
「じゃぁよろしくね、ケン坊くん」
「・・・堅」
ケン坊と呼ばれるのは嫌だったらしい。俺は「あぁ、うん、堅くんね」と返事をしながらごろりと寝転んだ。堅くんがじっとこちらを見つめている。
「じゃぁ俺はもう寝るけど、傍にいてくれるなら漫画読んでても携帯弄ってても何しててもいいから・・・おやすみ」
そう言いながら目を閉じる。近くに人の気配があるおかげか、眠たくても眠ることが出来なかったこの身体が少しずつ眠るための準備を始めるのがわかる。
「・・・あんた、何でこんなことしてんだ?」
「・・・うーん、会話をご所望?」
まさか声を掛けられるとは。このまま俺が勝手に眠るのを待てばいいのに。
「こんなこと、っていうのはわざわざ風俗まで来て添い寝して貰ってることだよね。まぁ簡単に言うと、人が傍にいないと眠れないんだ。けれど添い寝をしてくれるような相手もいないから、風俗を頼ってる。ただそれだけ」
目を閉じたまま返事をする。視線はずっとこちらに向いている。もしかして、もう少し話した方がいいのだろうか。
「もしかして、嬢の子達から理由聞いとけって言われてる?」
ふふっと笑いながら問いかければ、堅くんは「単純に俺が気になっただけ」と返事をした。何だ、この子自身の単純な好奇心か。
「たぶん聞いてもつまんないと思うけれど・・・」
「つまんなかったら無視すっから別にいい」
「わぁ辛辣。一応客ってことは忘れてないよね?」
普段ならもう眠っている頃合いだけれど、まぁいいか。
「眠れなくなったきっかけは、小学校入学を控えたまだ幼稚園生の時だった」
そういえば、わざわざ誰かに理由を話したのは初めてかもしれない。嬢の子達はプロだし、こちらの事情を深くは聞いて来ないから。
堅くんがわざわざ聞きたがったから、別に話さなくてもいい過去の話をしている。
「両親がねぇ、夜中にやってきた強盗に殺されちゃって。母親なんて、殺される前に身体弄ばれて・・・それを、クローゼットの中から見てることしか出来なかった。母親が、強盗に見つかる前に俺をクローゼットに隠したんだ」
少し、堅くんの身体が動くのが振動で伝わった。動揺させてしまったかもしれない。
「父親の怒声と、その後聞こえた悲鳴・・・母親の苦しむ声、強盗の笑い声・・・あぁそういえば、強盗は当時はまだ学生だったって聞いたな」
随分と昔の事件だけれど、当時はニュースにもなっていたと思う。未成年の強盗犯は少年院に入ったけれど、刑期はどの程度だったのだろうか。もしかすると、もうとっくに出所しているかもしれない。出所しててもしていなくても、両親を殺した癖にきっと今でものうのうと生きているのだろうな。
「一人で寝ようとするとついそれを思い出しちゃうから、寝れないんだ。誰かが傍にいればまだマシって感じ」
一度話し始めると、案外止まらないものだ。
気付けば堅くんが俺の身体にタオルケットをかけていて、そのタオルケットごと俺の身体を抱きしめていた。見た目よりずっと気遣いが出来る子なのかもしれない。
まぁ好奇心で聞いてみれた話が強盗殺人の話なんて思いもよらなかっただろう。
「金持ちっていうのもあながち間違いじゃない。両親もだけど、親戚連中もそこそこ金持ちで、両親の保険金と親戚連中からの仕送りで今は暮らしてる。一生遊んで暮らせるってぐらいには金がある」
背中がぽんっぽんっと叩かれる。
「堅くんはお小遣いが欲しいんだったよね。お小遣い稼ぎには俺は丁度いいと思うよ。何年か前はどうしてもお金が欲しいって言った小学生に添い寝して貰ったり・・・あぁ、これは秘密だった、犯罪臭いしね。兎に角、俺は俺を寝かせてくれるならそれでいいからさ・・・あぁ、眠くなってきた。堅くんって聞き上手、だね・・・あぁ、眠って、しまう・・・怖い・・・」
「寝ろ」
「・・・うん、おやすみ」
抱き締められたせいで至近距離にある堅くんの呼吸音を聞きながら、俺はゆっくりと意識を沈めた。
次に目が覚めた時、身体がやけにすっきりしていた。
ちらりと見えた壁掛け時計は、見間違いでなければ朝の時刻をさしている。
「・・・?」
ベッドの上でぽかんとしていれば、既に身支度を整えた堅くんがこちらを見ていた。
「はよ。俺、そろそろ出かけるから目ぇ覚めたなら出てけよ」
「あれ、可笑しいな・・・もう朝?うっそ、延長何時間?起こしても良かったのに」
「常連ってことと、嬢じゃなくて俺が相手ってことで延長料金はいつもと同じ時間でストップしてある」
「そうなの?なんか悪いね。じゃぁ料金とは別にお小遣いあげちゃう」
「・・・おー」
喜ぶと思ったのに、何だか微妙な反応をする堅くんに首を傾げつつ、欠伸をしながらベッドを降りた。凄いな、身体が軽い。此処で寝る時ですら、なんだかんだ時間制限があるから満足に眠れているわけではなかったのに。
貴重品はロッカーにあるから、そこから堅くんのお小遣いを用意しよう。お小遣いだし、現金であげた方が喜ぶだろう。現金はどれぐらい入れていただろうか。
「おい」
部屋を出ようとした瞬間に肩を掴まれる。
振り返れば、堅くんがこちらに携帯を差し出していた。
「連絡先。あと家の住所」
「ははっ、もしかしてお小遣い稼ぎしたいの?いいよ、何時でもおいで」
差し出された携帯を受け取り、連絡帳に俺の携帯番号と住所を入力していく。
「仕事してねーの?」
「珍しいかもしれないけど、在宅勤務なんだ」
入力を終えると携帯を返し、部屋を出た。
延長分の支払いと堅くんにお小遣いを渡して、その堅くんとは店の前で別れた。
「・・・よく寝たな」
日光が目に染みるけれど、寝不足による頭痛は感じなかった。眠る前に未成年に聞かせる必要のない昔語りをしてしまったけれど、それを話したことも快眠の理由なのかもしれない。
堅くんがお小遣い稼ぎを望むなら、またお願いしてしまおうかな。
特別オプション『添い寝』
「よぉ」
「・・・この間ぶりだね、堅くん」
「結構デカイ家に住んでんのな。入っていいか?」
家の前に現れた堅くんと堅くんのバイク。突然の訪問に驚いているうちに、堅くんはうちに入ってくつろぎ始めた。
「えっと、お小遣い稼ぎ?」
「まぁそんなとこ」
その夜、堅くんはあの日の夜のように僕を抱きしめるように添い寝をしてくれた。
あとがき
男主の家には、一時期小学生の男の子が毎日添い寝に来ていた。その子は高校生になった今でもたまに来てる。
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