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※ショタ甚爾。過去捏造。


半年前に亡くなった祖母から引き継いだ現我が家のお隣は、なかなかの豪邸だ。

禪院という達筆且つ高そうな表札が掲げられた門の向こう側はどんな風になっているかは知らないが、おそらく今後立ち入ることはないだろう。

何せあの御宅に出入りする人間は、何故だか悉くこちらを見下している様子なのだ。


引っ越してすぐに「隣に越してきた苗字です」と挨拶に行ったのだが、使用人と思しき男からは鼻で笑われた挙句に挨拶用に用意した菓子折りも突き返されてしまった。

散歩中にすれ違う時に「こんにちは」と挨拶しても基本的に無視だし、酷い時には嫌なものを見かけてしまったかのようなため息や舌打ちが聞こえる。

礼儀やら何やらがなっていない、ご近所付き合いに向かない家だなぁと思う。明確な理由はわからないが、しがないライターである自分は仕事が入れば部屋に缶詰状態だが仕事がない時は近所をふらふらとしているため、きっと無職だとでも思われているのだろう。


比較的図太い自覚があるため、この程度では傷ついたりはしない。ご近所は最悪だが、家の立地についてはむしろ気に入っている。電車やバスといった公共の交通機関は比較的近いし、少し歩けばスーパーもある。資料集めにもってこいな資料館も公共交通機関を使えばすぐだ。

先月は一つ大きな仕事を終え、滞りなく入金された報酬に内心にんまりしながらスーパーに行った。今日は少し奮発して、ちょっとお高めの焼肉セットを買ったのだ。

ついでに次何時缶詰になってもいいように、買い置きのインスタントやレトルトの食品をいくつかと、気晴らし用に書籍を数冊とスナック菓子も。スーパーの一角に小さめの本屋が併設されているのもポイントが高い。


調子に乗って買い物し過ぎた。両手にはずっしり重たいスーパーの袋があり、袋の取っ手が手に食い込んで痛い。休み休み行きたいところだが、要冷蔵の焼肉セットを早く連れ帰らなければならない。

ひいひいと息を切らせながら歩いていると、正面の方から小学生ぐらいの小さな子供が歩いてくるのが見えた。

俯き気味で歩くその子供はこちらに気付くと一瞬だけ顔を上げ、すぐに下を向く。


「こんにちは」

多分あの禪院さん家の子だな、と思いつつ挨拶をすればびくりとその肩が震えた。おっと、禪院家では俺の存在は不審者として扱われているのだろうか。


「・・・こ、んにちは」

・・・吃驚した。まさか返事が帰ってくるとは。

「ちゃんと挨拶出来て偉いね」

やっぱり子供は大人よりずっと純粋なんだなぁ、と少しほっこりした。思わずそう褒めると、その子が再び顔を上げてこちらを見る。

最初は気付かなかったが、その子の頬には大きな絆創膏が張られていて、よくよく見れば膝や腕にも絆創膏・・・ヤンチャなんだなぁではあまり済まないぐらい傷だらけだ。特に膝の怪我は、傷の範囲が広いのか傷口が絆創膏からはみ出ている。


「何処か遊びに行くの?気を付けてね」

ちょっと心配だけれど、下手に話しかけると本気で不審者扱いされる気がする。出来るだけ優しいお兄さんを心がけて笑顔でそう言ってすれ違おうとするとその子が「あ・・・」と声を漏らした。釣られて足を止める。

何か言おうとしている様子のその子に「禪院さん家の子だよね?」と問いかける。こくりと頷いて返事をしたその子はちらりと俺の荷物を見て「・・・それ」と呟く。

それ?と思いつつ袋を見れば、半透明の袋から透けて見えるスナック菓子。

ははーん?もしかして菓子が欲しいのか。初対面の大人が近所の子供にお菓子を差し出す光景なんて事案でしかないかもしれないが、本人が欲しがれば別にあげたって構わない。元来子供は嫌いじゃない。


「これがどうかした?」

「・・・クラスの奴らが、よく食べるって、言ってた」

「うん?」

「それ、美味いのか」

なかなかに不思議なことを言い出すその子が指さしたのは、何の変哲もないポテトチップス。それもド定番のうすしお味。


「もしかして食べたことない?」

その子は無言でこくりと頷いた。マジか。もしかして家庭の方針とか?スナック菓子は身体に悪いから!とか言って、碌に食べさせないタイプなのかもしれない。

「・・・食べたことないの、変って」

「そういう子も沢山いるし、別に変なことじゃないさ。でも、食べてみたいなら食べてる?」

「えっ」

「親御さんが怒らないなら、食べてごらん」

一旦袋を地面に降ろし、ポテトチップスだけを取り出してその子に差し出す。

親の方針だとしても、そのせいでクラスメイトに馬鹿にされるなんてちょっと可哀想だ。でもまぁ、この世にはアレルギーというものも存在する。もしかするとこの子の親はそれを考慮している可能性がある。そのため『親御さんが怒らないなら』という保険をかけたのだ。

しかし俺の心配は杞憂だったらしく、その子はがしりとポテチの袋を掴んだ。心なしか目がきらきらしている。


「喜んで貰えたみたいで良かった。おじさん、お肉買っちゃってるからそろそろ行くね」

まだおじさんと呼ばれるほどの歳でもないが、小学生にとってはおじさんと変わりないだろう。焼肉セットのことを思い出し、袋を握り直して「ばいばい」と笑う。

ポテチの袋を抱きしめるように持っているその子は何を思ったのか、歩き出した俺の後ろを歩き始める。まぁ家が隣だし、そのまま家に帰るつもりなのかもしれない。

しかしその子は自宅の門の前を過ぎても、その子の自宅と比べれば随分と小さな一軒家である俺の家にたどり着いても、後ろに立っていた。


「えーっと、どうかした?」

「・・・これ、食べるとこ、探してる」

「あぁ、家じゃ食べれないってことか」

わくわくそわそわしているため下手なことは言いたくないが、初対面の大人の家でお菓子を食べるのはいただけない。


「うーん、家には上げてあげられないけど、よかったら庭においで。縁側に座って食べるといい」

流石に自宅に入れるのは事案な気がして、妥協案としてそう言うと、その子は小走りで庭へと向かった。元気だなぁと思いつつ俺は食材を冷蔵庫に運び入れ、ジュースのペットボトルを二本持って縁側に続くガラス戸を開く。

その子は縁側に座り、袋を開けようとしていた。いきなり開いたガラス戸に驚いたようだが、俺だと気付くと少し肩の力を抜いた。


「ジュース飲む?炭酸しかなかったんだけど、飲めそう?」

「・・・飲む」

きらりと目が輝いた。もしかして、炭酸ジュースも飲んだことがないのだろうか。

なかなかに厳しい教育方針なんだなぁと思いつつ炭酸ジュースを差し出し、その子が無事にポテチの袋を開くところを見届けた。

初めて食べたポテチが余程美味しかったのだろう。一口食べて顔を綻ばせ、もう一口食べて噛み締めるように目を閉じたその子をついつい観察してしまう。

「なんだよ」

「あ、ごめんね。美味しそうに食べるから、あげた甲斐があったなぁって」

流石に少し見過ぎたか。何時不審者扱いされても可笑しくない状況に気付き、俺は苦笑いの後に自身の分の炭酸ジュースを飲むことで適当に誤魔化した。

その子は「ふーん」と訝し気な表情のまま声を上げつつ、すぐに意識をポテチと炭酸ジュースへと戻した。炭酸ジュースも美味しかったのだろう、嬉しそうだ。


おっと、そろそろ夕飯の準備をしないと。肉は焼くだけだが、野菜を切ったり、硬いものは軽く火を通しておかないといけない。

よっこいしょと縁側から立ち上がると、その子はこちらを見上げる。

「おじさん、そろそろ夕飯の準備をしないと。君もそろそろ夕飯の時間じゃないかな?食べ終わったら、怒られないうちにお帰り」

「・・・今日、晩飯ない」

んんー?と思わず表情が笑顔のまま固まる。晩飯がないってどういうことだ。


「新しい奴が、俺の分のメシはねーって」

「新しい奴って、えーっと、使用人とかそういうの?」

こくりとその子が頷く。は?どういうことだ?

「えっと、何か怒られちゃったのかな?」

え?断食?虐待?と混乱しつつ尋ねれば、その子はむすっとした顔で小さく口を開いた。むすっとした顔だが、おそらく泣くのを我慢している表情なのかもしれない。

その子、禪院甚爾くんから話を聞いたが、聞けば聞くほどわけがわからない。

禪院さん家には甚爾くんの他にも子供が沢山いて、おそらくだが子供によって扱い方が違うらしい。使用人から物凄く丁重に扱われている子と、そうじゃない子がいるようだ。因みに、甚爾くんは後者にあたる。


「つまり、甚爾くんは使用人の意地悪でご飯を用意して貰えない。仕方ないから、台所にあるあまりものを食べてた・・・ってことでいい?」

「前の奴はメシぐらいは用意してくれたけど、新しい奴はハズレだった」

「ハズレとかアタリとか、そういう問題じゃないと思うんだけど・・・えーっと、つまり、甚爾くんは家に帰っても晩御飯がないってことでいい?」

「・・・ん」

こくんとその子が頷いた瞬間、俺は頭を手で押さえた。

近所付き合いに向かない家だとは思っていたが、まさか虐待紛いのことまでしていたなんて。正直ドン引きしている。

俺が難しい顔をしていることに気付いたのか、甚爾くんは下を向く。おっと、子供に見せていい表情じゃなかった。できるだけ優しい顔、優しい顔・・・


「甚爾くん、もし駄目じゃなければだけど・・・晩御飯、食べていく?」

パッと顔を上げた甚爾くんと目が合い、俺はにっこり笑った。不審者に見えていないか、それが非常に心配だ。

「・・・食う」

「今日は焼肉なんだ。甚爾くん、お肉好き?」

本当は他所の家の子供を、どんな理由があるとしても勝手に家に連れ込むなんてしちゃいけないことだ。けれど目の前で晩御飯がないのだと言う子を無視できるわけがない。

もし警察に通報されたら、自分が持てる表現技法をフル活用で言い訳をさせて貰おう。

内心どきどきしつつも甚爾くんを家に入れ、野菜やホットプレートの用意を始める。

きょろきょろと家を見渡す甚爾くんに「遊べるものがなくてごめんね」と謝りつつ、炊飯器を確認。よし、米は十分だ。

居間のテーブルにホットプレートを置き、電源を入れて温める。


「甚爾くん、ホットプレート物凄く熱いから、気を付けて」

「んなのわかってる」

小さな子供扱いをされて拗ねたのかもしれない。でも、事実まだ甚爾くんは小学生ぐらいだろう、予め注意することは必要だ。

「・・・一緒に食うの?」

「え?あ、一緒に鍋つつくの苦手なタイプ?」

甚爾くんと向かい合うように白米や箸を並べると、甚爾くんは驚いたように茶碗と俺を見比べる。


「・・・一緒、食っていいの」

何となくこの子が普段一人で食事をしていることを察し、俺は「むしろ俺が一緒に食べて欲しいなぁ」と笑う。

ホットプレートの上に肉を並べ始めると、そわそわしていた甚爾くんが「俺も、やる」と強請ってきたため、数枚肉を並べて貰った。

元々一人分しか買ってきてなかった肉は、甚爾くんにあっという間に食い尽くされてしまったが、あんなに嬉しそうに肉を頬張るのだから悪い気はしない。


「甚爾くん沢山食べるんだね。偉いよ」

「・・・沢山食うと、偉いのか」

「勿論。沢山食べて大きくなるんだよ。甚爾くんイケメンだもんなー、将来女の子にモテモテだろうなー」

笑いながら甚爾くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。嫌がるかな、と思ったが案外甚爾くんは素直にそれを受け入れたいた。・・・いや、驚いて固まっているらしい。

夕飯で腹を満たした後は流石にもう家に帰らせなければならない。言葉を選びながらも「そろそろ帰った方がいい」と告げると、甚爾くんは再びぎゅっと泣くのを我慢したような表情になってしまった。

やっぱり家には帰りたくないのかもしれない。けれど、帰さないのは問題だ。


「家は隣だから、嫌なことがあったら何時でもきていいよ。俺は基本、家にいるからね」

「・・・仕事、してねーの?」

「家で出来る仕事なんだ。極々稀に資料集めで遠くへ行ったりすることもあるけど、基本的には家にいるから」

子供からすればずっと家に居るなんてニートとかと変わらないかもしれないが、甚爾くんはとりあえず俺が家にいることがわかれば満足だったらしく「あっそ」と素っ気なく返事をした。


「とりあえずは一度家に帰って、大丈夫そうならまたおいで」

「ん・・・じゃ、帰る」

「うん。気を付けて帰るんだよ」

ぐしゃぐしゃと甚爾くんの頭を撫でながら玄関まで見送りをした。ぐしゃぐしゃになってしまった頭を押さえながらも、じっとこちらを見つめていた甚爾くんは、やがて隣の家へと帰って行った。

・・・遅い時間になってしまっていたが、甚爾くんは怒られてしまったりはしなかっただろうか。

随分大きな家だから、もし甚爾くんが助けを呼んでも俺はそれに気付くこともできないだろう。今日出会ったばかりとはいえ、同じ釜の飯を食った甚爾くんが心配になってしまう。

そう思いつつ食器を洗ってシャワーを浴びて、湯上りに酒でも飲もうかといったところで、玄関がどんどんっと叩かれた。

もしや甚爾くんの家の人がカチコミに来たか?と思ったが、玄関を開ければそこにいたのはランドセルと大きな風呂敷を持った甚爾くんだった。


「え?え?甚爾くん、どうしたのその大荷物」

「俺、今日から此処に住む。小学校も、此処から通う」

「えぇっ!?」

「いつでも来ていいって言った」

ぎっとこちらを睨み上げてくる甚爾くんは子供の力とは思えない強い力で俺を押しのけ、荷物を部屋の中に運び入れる。


「お家の人は?何か言ってた?」

「あいつら、俺がいなかったことにも気づいてねーよ」

「それは非常に問題だけれど、流石に家出はバレるんじゃない?」

「たまに敷地内歩いとけばバレない」

まぁ隣だもんなぁ、朝の登校前にちょっと歩いたり、夕方ぐらいに歩いたりするぐらいは出来るのか。けど、本当にバレないのだろうか?バレないぐらい放置されているのだとしたら、本気で甚爾くんが心配でたまらない。今でも心配で心臓ばくばくしてるのに。


「・・・まぁ、甚爾くんがそうしたいなら俺は止めないけど、弱ったなぁ・・・甚爾くんぐらいの子が使えるもの、あんまりないし」

布団は大丈夫だが、歯ブラシや服といった生活するうえで必要なものはおいてない。甚爾くんは大荷物だが、それは小学校で使う道具と着替えが少し程度のもの。

俺が困っていると、甚爾くんがぎゅっと顔を顰める。あ、また不安にさせてしまった。


「ごめんごめん。甚爾くんがうちに住むことは、俺も嬉しいよ。着替えとか、どれぐらい持ってきてる?」

「シャツとズボン、それからパンツ・・・」

「うーん、枚数少ないなぁ。今日のところはパジャマ代わりに服は俺のを着て貰って、着替えは次の休みに買いに行こう」

「いいのかよ・・・その、金とか」

「子供がそういうの気にしなくていいから。その時に甚爾くんの歯ブラシとか、お茶碗とかも買おう」

ちょっとずつ甚爾くんの目がきらきらと輝き始める。よかった、甚爾くんのしかめっ面は心臓に悪い。今にも泣いてしまいそうで。


「よし。とりあえず、お風呂に入っておいで。布団とか準備しておくから」

こくりと頷いた甚爾くんを風呂場に案内し、俺は頭の中でこれからやるべきことを考えた。




となりのおにいさん




隣の家から家出してきて、うちで甚爾くんが生活するようになってから随分経った。

中学を卒業したあたりで本格的に家に帰らなくなった甚爾くんは、ふらりと俺の家から消えては大金をこさえて帰ってくるようになり、ある日突然「引っ越すぞ」と禪院の屋敷から遠く離れた場所に俺を引っ越させた。

元住んでいた家は売りに出してそこそこの金になったが、引っ越し費用は全て甚爾くん持ちで、やや親のような気持ちになっていた俺は感動で泣いてしまった。


「何泣いてんだよ」

「ううん、立派に育ったなぁと思って」

「・・・まぁ、あんたの教育の賜物かもな」

ソファに座ってにやにや笑う甚爾くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でると、甚爾くんは「やめろよ」と言いつつ、頭を俺の手に押し付けた。



あとがき

・隣のお兄さん
自分で自分のことを『おじさん』と言うけれど、出会った当初はまだまだ若者。
非術師で禪院家のことは『やべー教育方針の家』という認識。
そこそこ売れてるライターさんで、財はある。

・未来のプロヒモ(マイルド版)
お兄さんの教育のおかげで原作よりややマイルド。
一回だけお兄さんのことを「父さん」と呼んだことがある。笑顔で「ん?どうしたの甚爾くん」と返事をされ、微妙な気持ちになった。
お兄さんのことは好きだが、親代わりとしてなのか恋愛的なあれなのかはわからない。


コメント
【はじめまして、いつも作品楽しく読ませて頂いてます。宜しければ伏黒甚爾夢をお願いします】を実行しました。



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